Episode3 悟られオジサンの憂鬱 4
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ハデス――。地下を根城にしている血の気の多い不良集団。
名前の由来はヨーロッパの神ハデスから取っているとか、いないとか。神ハデスは冥界の神であり、冥界が地下にあるとされるようになったことから地下の神とも言われている。
武瑠は得た情報を元にハデスが根城にしていると噂の建物近辺を歩いていた。ネオン街から細い路地に入り、そこから少し歩いた場所にある古そうな建物――そこに彼等はいるらしい。
「は、離してよ! アンタになんか興味ないって言ってるでしょ! しつこい!」
「そーんなこと言わないでさぁ。俺っち、まゆたんのこと大好きなんだってー」
武瑠は聞こえてきた声に足を止める。
まゆたんって……。確か、オッサンの娘の名前マユだったよな。
武瑠は建物の陰から声のする方を覗き見る。そこには、見覚えのある制服姿の女の子。と、それを取り囲む男ども。スマホを取り出し、神田に送ってもらった写真と見比べるとその娘だと確認できた。
――いた。オッサンの娘だ。
マユは男に腕を掴まれ抵抗しているが、なかなか離してもらえないようだ。マユの周りにいるのは派手な服装の若い男達が五人。恐らく、はで背の連中だと思われる。
五人かー。頑張れば何とか撒ける人数か?
武瑠は背にしている壁にもたれて空を仰ぎながら考える。考えたところで、やることは同じなのだが。
取り敢えず一つ、息を吐き出し“よし!” と心の中で気合いを入れる。そして、ヘッドホンを首に移動させ、フードをいつもより目深に被り、ただの通行人を装って奴等の方へと歩き出した。どんどんと距離を詰めていくが、マユに気を取られているのか、男達は気付かない。ので、自分から声を掛けることにした。
「あのー」
突然の怪しいフードを被った男の登場で、男達は怪訝な顔をしている。
「彼女、嫌がってますよぉ?」
「は? お前に関係ねぇーだろ!」
「関係ない奴はすっこんでろよ!」
「関係なくはないですぅ。俺、彼女のこと知ってるんで。まぁ、一方的にですけどねー」
「はぁ? 一方的にとか気味悪い野郎だなぁ」
「お前マユのストーカーかよ」
「ストーカー、ではない」
武瑠は被っていたフードを取った。
「え、誰?」
マユは見ず知らずの男に思わず本音が漏れてしまう。
(俺が合図したら、走ってね)
武瑠はマユにだけ聞こえるように語りかけた。戸惑っているマユを安心させるように武瑠は笑いかける。
「あ? 何笑ってんだよ。気持ち悪い野郎だな!」
「いやぁ……まぁ、ねぇ」
男達に視線を向け、今度は男達に向かってへへっ、と笑う。そして――、
「あっ、警察だ!」
男達の背後を指をさして叫んだ。
(今だ、走れ!)
男達の気が逸れた内にマユの腕を掴み、武瑠は一気に走り出した。
一瞬、呆気に取られる連中。そして――、
「待て、コラぁー!!!!!」
「待ちやがれー!!!!」
(なめ腐りやがって、あの野郎!)
(絶対、取っ捕まえてやる!)
(ただじゃおかねぇぞ!)
(俺のまゆたんを……、あんにゃろう!)
我に返った男達は怒涛と怒り狂った心を撒き散らしながら、全速力で追いかけてくる。
うっわぁ、めっちゃ怒ってる……。これ、逃げ切れっかな……。
武瑠はマユを連れて路地を上手く利用しながら男達から逃げる。逃げる。しかし、なかなか撒けない。それどころか――。
あれ? なんか、追っかけてくる心増えてない?
マユのスタミナもそろそろ限界か。そう思って入り込んだ路地は運が悪いことに行き止まりだった。
引き返そうと後ろを振り返るも、そこには既に男達が。
武瑠はじりじりと近付いてくる男達からマユを守るように自分の背中に隠す。そして、間を取りつつ少しずつ後ろへと下がっていく。
何で、こんなに増えちゃってんだろ……。さっきは、五人だったよな? なのに、今は――。
武瑠達の目の前には数十人の男達がいた。武瑠にしてやられ、頭に血が上った連中は仲間に召集をかけ人数を増やし、武瑠達を追ってきたのだ。
驚異の召集率だな。っていうか、どんだけ増えてんだよ。どっから涌いてきたんだよ。
心の中でツッコミながらも、何か策はないかと考える武瑠。
コレ、どーするかな……。彼女だけでも逃がしてくれって交渉してみるか? 話が通じる相手なのかどうかは分からないけど……。




