Episode2 小さな悟りくん 6
「まーた、お前怪我してんじゃん」
「コイツ等を守る為だったら、こんな傷……別に痛くも痒くもないし」
サトルが目を向けた方向には先日手当てをした猫とその周りでコロコロとしている三匹の子猫がいた。
「お前、ママだったんか!」
武瑠は猫達の前に踞み込み、手の甲でその背中を優しく撫でる。母猫も子猫達も怖がることなく、武瑠の手に戯れつく。
それをじぃーっと見ているサトルに武瑠は手を伸ばし、頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「なっ、なにするんだよ! ヤメロよ、武瑠」
「格好良かったぞ、サトル」
撫でている手を止めて、武瑠はサトルに笑いかけた。
「こっそり見てるとか趣味悪いぞ!」
誉められてもどんな反応をしていいのか分からないサトルにはこんな反応しか出来ない。
それがサトルの照れ隠しであることも武瑠にはお見通しだった。武瑠はサトルの首に掛かっている自分のヘッドホンを見つめた。
「サトル、それお前にやるよ」
「えっ? なんで?」
サトルは武瑠の顔を不思議そうに見つめる。
「ん? お前ソレ気に入ってるっぽいし。ソレ耳につけとけば、心聞こえないだろ?」
確かに、武瑠から貸してもらって数日。コレをつけている時は、勝手に心が入ってくることはなかった。この数日を思い返し、サトルはこくりと頷く。
「俺は他にも持ってるし、俺こっちの方が気に入ってるんだよ」
自分が今身に付けているヘッドホンを指さす武瑠。
(武瑠がまた格好つけてる)
「ホントだねー、舞花。最初っからサトルにあげるつもりだったくせにねー」
また、あの姉弟は要らんことを……。
「お前等ね……、ちょっとくらい俺に格好つけさせてくれてもよくない?」
「(えー、ソレは無理だよ)」
姉弟で仲良くシンクロしてんじゃねーよ!
武瑠のツッコミもきっと聞こえているだろうに、白崎姉弟は華麗に無視を決め込んだ。
(――パフェ、食べたいな)
唐突な舞花の言葉にみんなで彼女を見る。
「サトル、またハンバーグ食べに行くか?」
武瑠がサトルの顔を覗き込むとサトルはふるふると首を振った。
「……かーさんと、一緒に今度食べに行くからいい」
あんなに美味しいもの初めて食べた……。だから……、かーさんにも食べさせてあげたい。
サトルの心が聞こえた武瑠は、暫くの間何も言わずサトルを見つめ、そして――
「うし! 行くか!」
と言ってサトルを抱え上げた。
「何するんだよ、武瑠! オレは行かないって言ってるだろ! はーなーせー!」
「るせー、ごちゃごちゃ言ってないで行くぞ。世の中にはなー、まだまだお前の知らない美味ーい料理がたっくさんあるんだよ! 今日はハンバーグ以外のモン作ってもらえばいいだろ。マスターが作るモンは何でも美味いから。んで、ハンバーグはまたサトルがおかーさんと一緒に食べに行けばいんだよ」
「強引だねぇ、武瑠。一歩間違えれば誘拐だよソレ」
「黙れ、シロ。お前は舞花とそこの奴等連れて来い」
武瑠がくいっと顎で示したのはコロコロと戯れ合っている猫達。
「はいはい、分かりましたよー」
古びた喫茶店へと向かう四人、と四匹。サトルはぶつぶつと文句を言いながらも、どこか嬉しそうに武瑠に抱えられていた。
「オレ、この間舞花が食べてたヤツ食べたい」
「文句言いながらもノリノリじゃねーか、お前」
「武瑠のくせにうるさい!」
「前から思ってたけど、その武瑠のくせにって何なんだよ」
「武瑠、サトルなりの愛情表現だから」
(私、サトルは武瑠に懐いてると思う)
「…………」
「お前、俺以外には噛み付かないのな」
「黙れ、武瑠!」
「やっぱり……笑」
その日から古びた喫茶店に四匹の看板猫が誕生したのだった。
【Episode2 小さな悟りくん・・・おわり】
・・・But this story is not over yet.




