Episode2 小さな悟りくん 5
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後日、武瑠は姉弟と共にあの公園の前に再び来ていた。
そこには少年達に取り囲まれているサトルがいる。先日見た時と同じようにサトルは泥だらけで傷だらけだった。
「お前、もうこの公園に来るなって言っただろ!」
「気持ち悪いし、どっか行けよ!」
相変わらず酷い言葉を浴びせられているようだ。サトルは自分を取り囲む少年達を睨み付けていた。
「友達だっていないくせに!」
「こいつなんかと友達になりたい奴なんていねーよ」
サトルは俯いてぼそりと呟いた。
「……さいな」
「はぁ? 何言ってんのか全然分かんねぇつーの」
「うるさいって言ったんだよ! 黙れよ、弱い者苛めしか出来ないような奴等がイキがってんじゃねーよ! 寄って集って猫のこと苛めてるオマエ等の方がこの公園使う権利なんてないだろ! オレは何されたって、何回でもここに来てやる! コイツ等守れるの、オレしかいないんだから!」
サトルは大声で一気に言い切ると、更に強い眼差しで少年達を睨み付けた。
「な、なんだよ気持ち悪ぃーな」
「そ、そんな猫なんて俺達興味ねぇーよ」
「お前にも興味なんてねぇから、俺達に近づくんじゃねーぞ」
初めて反抗を見せたサトルに少年達は戸惑っていた。その勢いに押され、後退りをすると、そのまま公園から出ていった。
一部始終を見ていた武瑠達はにやりと笑う。
「おーい、サトルー。お前、俺のヘッドホンいつまで借りとくつもりだよー」
自分の性質をコントロールする術を知らないサトルは今よりも、もっと幼い頃から人間の様々な心を聞いてきた。大人達の黒い部分も汚い部分も否応なくサトルの中に入ってきてしまうのだ。
サトルの母親は悟りであるサトルのことを気味悪がることもなく、ただ在るがままに受け入れた。しかし、彼女はその純粋過ぎるが故に他人に騙されてしまうことも多かった。
シングルマザーで女手一つでサトルを育てる母親。そんな彼女に近づいてくる男は、サトルのことを知りサトルのことを利用しようと考える輩ばかりだった。男だけじゃない、女もみんな母親に近づいてくる人間はサトルを利用しようと考える悪い奴等しかいなかった。
“人間なんて嫌いだ”
サトルは口癖のようにそう言い、子どもにも大人にも誰に対しても心を開かなくなった。そんなサトルの唯一の話し相手は動物達だった。動物とばかり話すサトルは周りから更に浮くようになっていった。
気味悪がられることも慣れていたし、あんな奴等と馴れ合うなんてごめんだ、とサトル自身も他人と距離を置いていた。そんな時、この公園で自分の友達の猫が苛められているのを見つけてサトルは猫を助けるために少年達の中に飛び込んだ。そこから、サトルと少年達の戦いは始まったのである。
――そして、その長い長い戦いが今終わった。
あの日、武瑠はハンバーグを食べ終えたサトルに自分のヘッドホンを貸していた。サトルはこの性質をまだまだコントロールしきれていない、そう感じたからだ。コントロール出来ずに、きっと今までたくさん傷ついて、たくさん傷つけられてきたのだろう。年齢よりも遥かに背伸びをして、色んな鎧や仮面をつけて立っているサトルは本人が思っている以上に傷だらけで痛々しかった。




