Episode2 小さな悟りくん 4
隣では、ちらちらと武瑠を――というよりハンバーグを気にしているサトル。
そんなに気になるんなら、食べりゃあいいのに。
「ん! 食べろ!」
武瑠は再びフォークに突き刺したハンバーグをサトルの口許に持っていく。
「だ、だからいらないって言ってるだろ!」
それでも、食べないサトル。
「そんな強がんなってー。んじゃ……、猫、お前が食べるか?」
武瑠は今度はサトルの腕の中にいる猫の前にフォークを持っていった。
「だっ、だめ!」
サトルは武瑠の腕を掴むとパクリとフォークに刺さったものを自分の口に入れた。
肉汁がじゅわ~っと口の中に広がる。初めての感覚に驚いて、サトルは目を見開く。
「やっぱり食べたかったんじゃないか。どうだよ、美味いだろ?」
にやりと笑う武瑠。
「そっ、それは、オマエがコイツに玉ねぎの入ったソレを食べさせようとするからだろ! 猫に玉ねぎはだめなんだよ!」
「おー、それは知らんかった。悪かったなー」
サトルは武瑠を睨み付けたが、武瑠は気にすることなく、パクパクとハンバーグを食べている。
――こいつ、オレに食べさせるためにわざと……。
頬杖をつき、サトルを見てにやあっと笑った武瑠はマスターに注文をする。
「マスター、サトルにも同じの――」
「はいはい、出来てますよー。どうぞ、サトルさん」
待ってましたと言わんばかりのタイミングでサトルの前に置かれるハンバーグ。
それをじぃーっと見つめてサトルは固まっていた。
「食べないのかよ? サトルが食べないんなら俺が食べちゃうぞ?」
「……武瑠のくせに生意気だ」
そう言うと、サトルはちらりと武瑠を見て同じように右手にナイフ、左手にフォークを持った。
武瑠はお手本を見せるようにナイフでハンバーグを一口サイズに切り、フォークを刺して口へと運ぶ。
それをじっと見ていたサトルはゆっくりと武瑠の動作を真似てハンバーグを口へと運んだ。その頬は自然と緩んでいる。
そんな自分を武瑠が見ていることに気が付いて慌ててしかめっ面に戻るサトル。カチャカチャと一生懸命にナイフとフォークを動かし、目の前にあるハンバーグを食べ進めた。
「サトル、それ食べ終わったら舞花達に手当てしてもらっとけよ。色んなところ擦りむいてんだろ」
「……」
サトルが返事をすることはなかったが、武瑠には小さくこくりと頷いたように見えた。
暫く静かにしていたはずの姉弟が再び武瑠達のやり取りに入ってくる。
「サトル、それぜーんぶサトルのだからねー」
(武瑠が狙ってる。早く食べた方がいい)
「お前ら、さっきからうるさいんだよ! 俺がサトルのハンバーグ狙ってるわけないだろーが!」
「どーだかー。武瑠、食い意地張ってるからなぁ」
(武瑠はいっぱい食べるから)
「舞花はテーブルにあるものを見てから言えよ」
舞花の前にはズラリと並んだ特盛スイーツの数々。
(…………)
「武瑠……、舞花は怒らせると怖いからね。気を付けた方がいいよ」
(……シロ)
舞花にスッと目を細めて見られたシロは慌てて謝る。
「っ、ごめんごめん舞花。いっぱい食べたくなるのは性質のせいだもんね。エネルギーの消費が半端ないから、いっぱい食べないと体が持たないんだよねー」
舞花はこくりと頷く。
「――って、ことだからね? 武瑠」
「うん……、あーごめんな舞花」
(別に……)
「あー、ほら! サトル、手が止まっちゃってるよ! 早く食べないと武瑠に取られちゃうよ」
「だから、取らないって! シロはどーして俺を食い意地張ってるキャラにしたいんだよ!」
「えへっ」
シロはふにゃりと笑った。




