Episode2 小さな悟りくん 3
◇
カランカラン――。
来店を知らせるベルが鳴る。
おや――、先程話題に上がっていた少年も一緒のようですね。
その店の主は「お帰りなさい」と言って最近特にこの店に入り浸っている三人とその三人に連れられてやって来た少年を出迎えた。
「マスター、シャワー借りるー」
そう言って武瑠は少年をマスターの居住スペースである二階へと連れていく。
その間に少年が連れていた猫を手際よくささっと手当てする姉弟。
なんとも、いいチームプレーですね。
マスターはその光景を微笑ましく見ていた。
「腹減ったー、マスター」
暫くして、二階から下りてきた武瑠と少年。
「ほら、お前はあっち座れ」
武瑠はいつものカウンター席へと座り、少年にはテーブル席へ座るように指示をする。
マスターはコトリと武瑠の前にデミグラスソースたっぷりのハンバーグを置いた。
「おっ! 美味そ! さっすがマスター、俺の気分分かってるねー」
武瑠は早速ハンバーグをフォークとナイフで切り分け、大口を開けてパクリと食べる。
少年はというと、パンケーキ等のスイーツが所狭しと並べられているテーブルに近づき、シロの膝の上で丸くなっている猫に手を伸ばしていた。少年が来たことに気付いた猫はピクリと反応して顔を上げる。
「はい、どーぞ」
シロは猫をひょいっと持ち上げ、少年の前に差し出した。少年はそのまま猫を抱きかかえるとテーブル席には座らずにテクテクと武瑠の方へと近づいていき、カウンターの隣の席によいしょ、と言いながらよじ上った。
そんな少年に気付き、武瑠はフォークを咥えたままちらりと視線を向ける。
「そこでいいのか、少年? 足つかなくて、しんどいだろ?」
「子ども扱いするなよ、大丈夫だし! それにオレは少年じゃない、サトルだ!」
猫を抱えたまま、武瑠を見上げるサトル。
「ふーん、お前サトルって言うんだ。俺、武瑠。よろしくな」
武瑠はサトルの前に手を出した。
すると、サトルはふいっと顔を背けた。
「なんでオレがオマエとなんか、よろしくしなきゃいけないんだよ。オレは人間なんて嫌いだ」
ありゃりゃ、嫌われたか? と武瑠は掴んでもらえなかった手をぷらぷらさせながら肩を竦める。そして、再びフォークをハンバーグに突き刺して口に運び、食べるという作業を開始した。
「……ねぇ、武瑠が食べてるソレ何?」
顔は相変わらずブスッとしたままだったが、武瑠が食べているものが何なのか気になっているようだ。
「ん? サトル、ハンバーグ知らない?」
「ハン、バーグって言うの? ソレ」
「うん、肉とか玉ねぎを混ぜてコネコネして丸めて焼くんだよ」
(説明、大雑把すぎじゃない?)
「まぁまぁ、舞花。間違ってはいないから」
(シロは心が広いね)
……何か聞こえるけど、今は無視だ無視。
「もう、中から肉汁じゅわ~だ。美味いぞー、食べるか?」
武瑠はフォークに刺したハンバーグをサトルの顔の前に持っていく。
サトルはじぃーっと差し出されたものを見つめごくりと喉を鳴らした。しかし――、
「い、いらない!」
プイッと横を向いてしまう。
「いらないの? 美味いのになー。食べないなんて勿体無い。ま、サトルが食べないんなら俺が食べるけど」
武瑠は見せつけるようにパクリとそれを口の中に入れてしまった。
(武瑠、大人げない)
「舞花、アレは武瑠の優しさだよ。素直になれないサトルのためにわざとああやって大人げない態度取ってるんだよ」
(ああ、そういうことなんだ)
「そうだよ、武瑠が本気でやってるわけないじゃーん」
ここには“悟り”と“悟られ”しかいない。故に皆、自分の性質は解放中なわけで。舞花も気にせずに喋っている。悟られの性質を使って。
(外野うるせーな! ちょっと、お前ら黙ってろよ!)
テーブルにいる姉弟の会話もここにいる皆に聞こえている。――というより、この姉弟はわざと聞こえるようにやっている。
武瑠がギロリと睨んだところで、そんなもの歯牙にもかけない。




