#003 変態スナイパー、パーティを組む。
「グレポン丸って女の子だったのかよ……。完全に成人男性プレイヤーだと思ってた……」
「まあ、私は基本的におじさんアバターでプレイしていましたからね。傭兵君こそ女の子だとは思いませんでした」
「いや俺は男だから。まあ、といっても女っぽくしたのは俺の責任なんだけど……。なんだよ、グレポン丸が女の子ならわざわざ俺のアバター女っぽくしなきゃよかったわ」
「なんで傭兵……じゃない、今は村人Aか。村人は女っぽくしたの?」
「そりゃお前、寄生女プレイヤーになって炎上させようと……あ」
「よーし一発殴らせろ。お前の悪ふざけでこの前一回炎上しかけたんだからな!?」
「ふははは人気配信者は大変だなぁ!?ほーれほれ、ライジンくぅーん?」
うりうり、と肘でライジンをいじると本気で嫌そうに抵抗してくる。
「ふふふ、やっぱり傭兵君とライジン君は仲良しですね……。良いなあ、私は同年代の子で一緒にゲームする友達いないから……」
「いやポン、これを見て仲良しというのはどうかと思うぞ」
「い~やぁ?ライジン君と僕はぁ、ズッ友、だよぉ?」
「やめろ厨二の口調真似すんな!!お前の物真似くっそ上手いから尚更腹立つんだけど!?」
「あ、あのあの、二人とも……周囲の目線が……」
騒いでたら周りの目線が段々とこちらに集中してきたので、噴水広場から離れるべく町の外へと歩き出した。
「あーまた掲示板に書き込まれてるんだろうなあ……」
「ライジンアンチスレ眺めるだけでご飯三杯行けるわー」
「マジで悪趣味だからやめろ、あのスレ見てると腹が立って仕方ないから」
ライジンがぼやいている隣で愉快な気分で歩いていく。すると、後ろに歩いていたポンが俺の隣まで近づいてきて、笑顔で話しかけてくる。
「結局傭兵君は狩人(弓使い)にしたんですか?」
「あー今は俺は村人Aだから村人で頼む。うん、そうだぞ」
「本当に狩人にしたのかよ……。弓当たんないだろ?ジョブ変えようにも【セカンダリア】まで行かないとジョブ変更できないから寄生で連れてくしか……」
「当たるぞ?」
「そうだよなあ……。弓使いLv10にしても二回に一回当たれば上手いプレイヤーらしいからね。そりゃあスライムにも苦戦する……なんて?」
「いや、当たるぞ?確かに弓使いLv1の時は一発も当たらんかったけどLv3の時には二回に一回は当たるようになったし、Lv5になったら舐めプしながらでも当たるようになったぞ?」
「やーいやーい!!このPSおばけ!!お前のかーちゃんプロゲーマー!」
「事実だけどその煽り方なんなん!?新手過ぎない!?」
「へえ、村人君のお母さんはプロゲーマーなんですか。それは初耳です」
「ポンはポンでマイペースだな……」
「うちはゲーマー一家だからね。俺は一人暮らししてるからしばらく顔は合わせていないけど」
ちなみに父親もプロゲーマーだ。それぞれ違うチームに所属している。ちょくちょくネットで調べているが、結構いい成績を残しているらしい。Aimsではボコボコにしたけどなぁ!
「そうなんですか!私も一人暮らし始めたばかりなんですよ。色々聞いたりしてもいいですか?」
「ポンやめとけ、こいつ自堕落な生活送ってるから」
「おうまかせとけ!まず最初にごみの出し方を教えてやるよ」
「いや流石にそれは私でも分かりますよ……」
呆れた顔でポンがため息を吐く。ふーむ、せっかくごみの効率のいい詰め方を伝授しようと思ったのに。
雑談していたらいつの間にか町の南口にやってきていた。どうやら東口がチュートリアルエリアである【始まりの平原】で、南口側は【フェリオ樹海】と呼ばれるエリアにつながっているそうだ。
「俺とポンは先にフェリオ樹海に来てたからある程度のマッピングはしてあるけど、村人はまだこの樹海に行ったことないだろ?」
「スライムとずっと戯れてたからな。てなわけでナビゲート頼むぜ、シャドウ」
『お任せください』
「いや俺にナビゲート頼むんじゃないんかい!はぁ……。まあ村人らしいっちゃ村人らしいな」
「もしかしたらシャドウと好感度上げといたら何かイベント的なのあるかもしれないじゃん?」
「いや流石に固有イベとか……。いや、あるな。そうだよ、その可能性を懸念していなかった。まずもってなんでファンタジー世界にこんなロボット染みたナビゲートAIなんだ?そもそも記憶を失った主人公の事をマスターとか言っているのにも関わらず記憶を失う前の情報を何も教えないんだ?そんでもって……」
「ご都合主義だろゲームなんだし。あー、やべ。ライジンのスイッチ入っちゃった。これだから考察厨は……。ポン、先に狩りに行こうぜ」
「は、はい!」
「シャドウはどこまで知っている?なぜプレイヤー一人一人にこいつが付き添っている?なあ村人、どう思う……って、いねえ!!」
一人残された事にようやく気付いたライジンは、慌てて二人を追いかけた。
「ポンのジョブって結構攻撃範囲広かったりする?」
「そうですね~。Aimsと同じで爆弾系統の火力はすごいですけど、近接系のジョブの方を巻き込んでしまうのでライジンさんと相性悪いんですよねえ」
「あー確かにな。あいつ双剣士だもんな、そりゃあ巻き込む」
「爆風もあるので魔法を消し飛ばしたり、矢を吹き飛ばしたりしちゃうので文字通り地雷と思われる事が多いらしいです……」
しょぼんと落ち込むポンを見て、苦笑しながら。
「風の向きとか計算すればまあ矢を当てられると思うし、爆風があってもなんとかなるだろ」
「多分それ出来るの村人君だけだと思いますよ……」
ふーむ、そうだろうかと思いながら付近で跳ねていたスライムを射抜く。それを見たポンは驚きながらもため息を吐いた。
「なんでよそ見しながら当てられるんですか……」
「音を聞くのはFPSの基本だぞ。それに、音のした方に決め撃ちするぐらいポンでもやるだろ?」
「確かにしますけど私の場合はグレネードランチャーですから規模と殲滅力が違うといいますか……」
スライムを倒して地面に突き刺さった矢を回収しようとしたところで、炭になるように矢が崩れ落ちてしまった。
「ありゃ、柔らかいモンスターを倒したところで再利用限界は三回ってとこか……。まずいな、そう考えると手持ちのストックのほとんどが後一回しかないぞ……」
てっきり柔らかいモンスターばかり相手に取ってしまえば矢は無限に使える物かと思っていたが、やはりそれは勘違いだったようだ。後でアイテムショップで矢の値段を確認しよう……。あ、そういえば。
「あー、すまんポン、さっきアイテムショップに買い出し行ったんだっけ?矢の値段とか知ってない?」
「すいません調べてないですね……。ミニボムの値段は500マニーだったのですが……」
「うわたっか。最初に選ぶジョブとしては絶対選んじゃいけないジョブだろそれ……。少なくともそれよりは安いだろうけど不人気ナンバーワンの理由にも入ってるからな……。それなりにするんだろうなあ……」
スライム一匹3マニーだから一本10マニーだと仮定しても最大限使用して赤字か……。花火師は大赤字もいいとこだな。序盤なら所持金のほとんどを使って補充しないといけないだろう。
「これは序盤はあのイケメンに寄生しないといけないな…」
「本当に寄生プレイヤーになるんじゃないよまったく…」
ようやく俺とポンに追いついたらしいライジンが、息を切らしながら草むらから出てきた。
それを見た俺は一言。
「やせいの らいじんが あらわれた!」
「俺はポケットで運搬されるモンスターじゃねえ」
あきれ顔でため息を吐くライジン。ライジンの近くに行くと、肩をポンと叩いて、笑顔を浮かべる。
「ってなわけで早速俺らを一人で無双してくれ(にっこり)」
「それ良い感じに言葉変えてるけど寄生に変わりないからな?」
顔を引きつらせながら頭を抑えるライジン。
「俺を利用して優勝賞品を獲得したのにそんな事言えるのかなあ?」
「やっぱり根に持っていたか…。仕方ない、資金的な問題もあるしな。ポンと狩りに出てもまともな攻撃手段無かったし、レベリングしておいて損はない。熟練度も上がるからな」
「すいませんライジンさん。私からもお願いします」
「はぁ~、ポンが素直だから本当にいい子に見える。村人も少しは見習えよ」
「あん?」
ライジンにジト目で見られたのでメンチを切って返す。
「まあまあライジンさん。……あっほら出てきましたよ!てなわけでお願いします!」
草むらがガサゴソと蠢き、そこから人型の醜悪な顔をした全身緑色のモンスターが飛び出す。
王道RPGモンスターの一角であるゴブリンだろう。
「あーはいはいやりますよっと。あっでもポンはともかくまだ村人をパーティ承認してなかったからすまないけど一撃はいれてもらえるか?」
「了解。少しでも入れればいいのか?」
「カスダメでも良いから当ててくれれば経験値はいるからよろしくっ……!?」
『ゲギャアアアア!?』
どうせなら狙い撃ちの練習でもしてみようと弓矢を放つと、見事狙い通りゴブリンの足に突き刺さった。突き刺さった矢は使用限界を迎えて崩れ落ちる。
「お前本当にPSいかれてんな!?まさか、もうスキルレベルカンストしてたりする?」
「まだレベル5だぞ?」
「ですよねー。まあ、お前がいろいろとおかしいのは今に始まったことじゃあないからなぁ」
ライジンは雑談をしながらもきっちり初期装備の双剣、【ツインダガー】でゴブリンを切り裂いていく。みるみるうちに傷が増えていき、そのままポリゴンとなって爆ぜた。
——————————————
【Battle Result】
【Enemy】 【ゴブリン】
【戦闘時間】 0:54
【獲得EXP】 8EXP
【獲得マニー】 10マニー
——————————————
「おっしゃ今の戦闘で【双剣術】のスキルレベルが4に上がったわ」
「おめー。おっマニー10も入るなら最初はゴブ狩りが一番良さげかな」
「狩人は弓矢でも金がかかるから不便だよなあ。あっ、村人、そういえば始まりの平原で二時間も狩ってたなら弓自体の耐久度は大丈夫か?」
「えっ、弓にも耐久度あるのか?」
FPS———Aimsでは弾薬こそ費用がかかれど銃器毎に耐久度なんて設定されてなかったからそんなこと考えてなかった。そうか、MMORPGだからそういう要素があるのか……。
視界の隅にある歯車のマークに意識を集中すると、メニュー画面のウインドウが表示される。メニューから装備を選択すると、自身の身体のマークと共に防具と武器が表示された。木の弓と表記されている武器をタップしてみる。
——————————————
【木の弓】 耐久度15/100
素朴な木の素材で作られた質素な弓。狩人の初心者が扱う物として用いられる。
STR+4
——————————————
「うわもうボロボロじゃんこれ…。どうしよ、替えの弓っていくらぐらいするんだ?」
「確か800マニーで木の弓を買えたはずだぞ」
「はーい大赤字確定でーすこんちくしょう!」
ライジンの言葉に頭を抱える。ほんとどうしてくれようかこのジョブ。どうしてこんなリターンが少ないんだよこのジョブ。まあ花火師もそうだけど。
「はあ、まあいいか。ライジン先輩がキャリーしてくれるし」
「おう寄生宣言堂々とすんのやめーや」
「てなわけでパーティ申請よろしく」
「複雑な心境だがやむを得ないな……」
ライジンからパーティ申請が届き、それを承認すると、視界の右上の自分の体力バーの下に並んでポンとライジンのプレイヤー名、そして各自の体力バーが小さく表示される。
「おおすっげ、便利なもんだなあ」
「Aimsだと似たような感じの表示こそあれど、こういった表示無いもんな。村人がなんか初々しくて面白いわ」
「なんだか最初のころの私を見てるみたいです」
そう言って笑うライジンとポンに少し恥ずかしくなり、思わず赤面する。
「VRゲーム歴は長いけどこういったオンゲのRPGは本格的にやったことないんだから仕方ないだろ……」
「いいと思うぜ?そうやってゲームを楽しむ気持ちが大切なんだぜ少年?」
「何のキャラなんだよお前は……」
そう言いながら弓矢の残り本数を確認する。残り本数は……8本。うち2本は再利用回数が2回、あとは残り1回なので無駄にはできない。
「でもなんだか物足りないんだよなあ……」
「やっぱPVPしないと物足りなかったりする?」
「いや普通に楽しいよすっごく。だけどなんか俺のアイデンティティが損なわれてるといいますか」
「と、言うと?」
ライジンが首を傾げるので弓を構えて地面に向かって放つ。すると、矢は普通に地面に突き刺さった。
「な?」
「なってお前、何が?」
ふむ、言わないと分からないか。
「というわけで初めてのスキル作成に挑みたいと思います」
「何がというわけでって……あ、おい、まさか」
「そのまさかです。というわけで」
俺のアイデンティティ。Aimsで変態スナイパーと呼ばれる俺を俺たらしめるもの。その象徴を、今。
「【跳弾】スキルをつくりたいと思います」
血と弾丸とは縁遠い、この世界で。
変態弓使い、誕生。