#332 Aims世界大会観戦旅行初日その十二 『聞きたい事』
「さてここで問題です。1600年に行われた、『豊臣秀吉』の死後、天下を狙う『徳川家康』率いる東軍と、それを阻止しようとする『石田三成』率いる西軍が激突した、天下分け目の決戦は何でしょう?」
「は? なんだ急に……関ヶ原の戦い?」
「正解ですがウノって言ってないので二枚ドローでーす!! バーカバーカ!! 愚かなり雷人!! はいウノォ!!」
「はああああ!? ふっざけんなお前!? 急に変な事言い出したかと思ったらそれが目的かよ!?」
何とかして紫音と雷人を引き留めた俺達は、結局俺達の部屋でカードゲーム大会をする事になった。
ルールを変えながらゲームをし続けていて、現在はウノの真っ最中だ。
指差しながらげらげら笑うと雷人が突っかかってくる。それを適当にあしらいながら、回ってきた最後のターンにドロー4を叩きつけて上がる。
「はい上がりィ!」
「ワイルドカードで上がるのって駄目なんじゃなかったっけ?」
「それローカルルールな。実は公式ルールだと上がれるんだよ」
「マジかよ」
ローカルルールだとワイルドで上がれないってルールが人気だが、実は公式ルールだとワイルドでも上がれたりする。サンキュー大場、お前に誘われて休み時間にやってたお陰で、無駄な知識と小細工を身に付けていたから有利に立ち回れるぜェ……!!
「結局渚が一位か。というかなんでお前そんなウノ詳しいんだよ」
「クラスメイトと煽り合いながらウノしばいてたから」
「……煽る必要性ある?」
馬鹿野郎、カードゲームってのは如何に相手の精神を揺さぶって相手のプレミを誘うかがキモのゲームだぞ。ただ、シャカパチとショットガンシャッフルはやめようね。カード傷めるから。
その後、雷人が最下位になるのを眺めていた後、布団の上でくつろいでいる紫音に視線を向ける。
「っつーか、紫音。お前、チームメイト達と過ごさなくて良いのか? 明日大事な試合なのに」
「……良い。各々、好きなように時間を過ごしてるから」
「チケットの礼もあるし、もしあれだったら俺達がスクリムしたって良いんだぞ? ボッサンだって声を掛ければ来てくれるかもしれないし」
「……既に最終調整は終わってる。……むしろ傭兵達とやったら変な癖が付く」
「うぐっ」
確かに、俺達の戦い方はプロ達の一般的な立ち回りとはかけ離れている。跳弾という一点においてなら参考になるかもしれないが、それ以外は全然参考にならないからな。言い返す事も出来ないな……。
「……でも、ありがと。……気持ちだけでも、嬉しい」
薄く笑みを浮かべながら礼を言う紫音。その表情を見た雷人が少し恨めしそうに見てくるので睨み返す。んだよ、その表情をさせるのが俺なのが気に食わねえってんなら自分から絡みに行け。お前が言った方が絶対もっと良い反応するっての。
雷人に呆れていると、紫音がもぞもぞと身体を起こし、真剣な表情のまま尋ねてくる。
「……ねぇ、傭兵」
「なんだ?」
「……正直べーすで言って。……私達が明日勝てる可能性は、何%あると思う?」
「0」
「ちょっ」
紫音の問いに対し本音で返すと、紺野さんが慌てたようにこっちに来る。身体を後ろに向けさせて、紫音に聞こえないようにぼそぼそと話し始める。
「い、いくらそう思ったからって流石にそれは……!」
「勝てないもんは仕方ないだろ。不可避の負け前提イベントみたいなもんだからな。むしろ嘘を吐く方が失礼だよ」
「そ……そうかもしれませんけど……」
「……良いよ、唯。……元々知ってるから。……一応、再確認がてら聞いただけ」
紫音は無表情のまま、静かに頷く。これに関しては本人達の方が良く理解しているだろう。紺野さんだって理解自体はしている筈だ。だが、本人に直接告げるのは違う……そういう優しさからの発言だろう。
「……じゃあ、質問を変える。……HOG相手に、私達は何らうんど取れる?」
「0……ではないと思う」
僅かに紫音は目を見開くが、何も言わずに俺の発言を待つ。
「──お前ら次第だ。俺からアドバイスをするなら──試合に勝とうとするな。勝負に勝て。そうすりゃワンチャン1ラウンドぐらいはもぎ取れるんじゃないか?」
激強チームの『Anstrum』でさえ2ラウンドしか取れないようなバケモン相手だ。1ラウンドでも取れれば上々。負けは負けでも、それ以上の評価のリターンが返ってくる。
それだけHOGにラウンド勝利するというのは大きな意味を持つ。これから先もずっとプロを続けていくのならば、尚更だ。
「……ありがとう。それが聞けただけで十分。……可能性は、0じゃない……か」
自身の拳を見つめ、ぎゅっと握り締める紫音。そんな彼女の様子を見ながら、言葉を続ける。
「向こうがどんだけ仕上げてきてるかって所でもあるけどな。多分大会用に制作された新マップも採用してるだろうし、ラウンド勝利を取れるならそういうマップでの戦いじゃないと厳しいだろうな」
日本大会の時のドストン戦線だって、各国の大会用に制作されたマップだったし、今回の大会にも新マップの採用はあるだろう。……主に跳弾リスキル対策で。誰のせいなんだろうね、全く。迷惑な奴も居たもんだ。
「……因みに、もうりすきるは見つけてるの?」
「いや、まだ。だが、俺の情報はあてにしないでくれ。だって相手は──」
「──傭兵の原点。……跳弾技術の生みの親にして、世界最強のすないぱー……」
普段あまり表情を動かさない紫音でも分かりやすく苦い顔をする。
そう、紫音達の相手は俺の上位互換──Snow_men選手。俺がまだ見つけてないだけで、跳弾リスキルを既に見つけ出している可能性も十分にある。
「警戒しておくに越したことはない。だが、警戒しすぎてる所を利用して──って線もあるからな。ま、臨機応変に立ち回るこった」
「……簡単に言ってくれる」
正直その択が生まれてる時点で相手への牽制としては100点の効力を発揮している。跳弾を駆使した射撃は、実質的に死角が存在しなくなる。意図せぬタイミングで仕掛ける事が出来るからこそ相手チームからしたら常に警戒し続けなければならないので、その分精神をすり減らす事になるしな。
……あれ? 改めて振り返ってみると俺ってもしかして相手チームからしたら大分嫌な存在では? まあいいや、対戦ゲーは相手が嫌がる事を押し付け続けた方が勝つゲームだしな。
神妙な顔で顎に手を添えながら考えていた紫音は、ため息を一つ吐き出して。
「……おっけー、ありがとう。……やるだけやってみる」
「おう」
まあ、考えすぎても明日に響くしな。実際に相対してみて浮かぶアイデアもあるだろう。
俺らがあれこれ言って紫電戦士隊の戦略を乱す訳にもいかない。
その後も、カードゲーム大会は続き、紺野さんが眠くなってきた辺りでお開きとなったのだった。
(おまけ)カードゲーム大会の勝者
ポーカー(テキサスホールデム):渚(27オフスートで大ブラフかましたりしてた)
神経衰弱:唯(カードのズレた位置などで数字を完全に記憶し他の人間のミスを全部かっさらってった)
ウノ:渚(本文通り)
スピード:雷人(持ち前の反射神経でギリ渚に勝利)
ババ抜き:紫音(表情がミリたりとも動かないので場を掌握)
大富豪:唯(無難に立ち回って革命で大逆転)




