#313 VS【迷宮の牛闘士】その一
俺と厨二が最も苦手とする相手。
とんでもなくトリッキーな攻撃をしてくる相手? 違う。
巨大な体躯を持ち、持久戦が強いられる相手? 違う。
圧倒的なスピードで動き回る相手? 惜しいが違う。
答えはシンプル──純粋にパワーでごり押ししてくる相手だ。
駆け引きも何もあったもんじゃない。力こそ力。それ一辺倒で攻めてくる相手が俺達にとって一番戦い辛い相手だ。
そして目の前のこいつは──まさに力の権化。こちらの小細工を、真っ向からねじ伏せるパワーを秘めている。
厨二が吹っ飛ばされた直後、俺は真横の【迷宮の牛闘士】──ミノ公に蹴りを放つが、瞬時に飛び退き、30m先でこちらの様子を伺う。
すぐさま【虚空の閃弓】を構え、空中床を展開。跳弾を使いながら追撃を加える。
だがしかし、ミノ公は俺の跳弾を見てから掴み、矢を粉砕した。
『ヴォヴォッヴォッヴォ!!』
得意げな笑みを見せるミノ公に、乾いた笑いを返す。
「マジかよ……!」
──強い。【双壁】や【反逆者】アルバートとは流石に比較対象にはならないが、それでも俺達二人で相手するにはかなり厳しい相手。攻撃を与えるにしても隙が欲しい所だ。
笑っていたミノ公が再び動き出す。初速が早すぎて先ほどは対応に遅れたが、それは初見であったからこそだ。来ると分かれば予め対策出来る!
「【空中床・多重展開】!!」
自分の正面に空中床を重ねてシールドのように展開。ミノ公は生成された空中床に激突したが、突進の勢いのまま粉砕。若干到達タイミングが遅れたぐらいで、まともに防ぐことも出来なかったが──。
「ナイス遅らせ、その一秒が欲しかった!」
後方からかっとんできた厨二が、俺が渡した武器──【白凍の聖剣】を振るう。
角に直撃し、一瞬の拮抗。氷の破砕音が響き渡り、ミノ公が弾かれたように吹っ飛んだ。
「なっ、厨二!? お前そんな脳筋ビルドにしてたっけ!?」
力任せの相手に対し、厨二が弾き返した事に目を見開く。俺の驚いた顔を見た厨二がにやりと笑うと、俺に対して剣の切っ先を向けてくる。
「種も仕掛けもございませーん」
「ああ、相変わらずのインチキ仕様……」
剣の側面に沿うように、薄い光の膜──【鏡面反撃】という名の反撃スキル──が張り付いていた。このスキルの効果で、厨二はミノ公の突進攻撃を奴自身に跳ね返したのだ。確かに、このスキルはあの【二つ名レイド】で【彗星の一矢】すら跳ね返して見せたのだ、それに比べればただの突進攻撃など跳ね返すのは容易いだろう。
「ま、剣に纏わせるっていう新しい使い方をしてみたから、向こうの攻撃がちょっと届いちゃったんだけどねぇ。少しヒヤッとしたよ」
「氷属性の武器だけにか?」
「……ソウダネ」
うーん、クソ滑った。厨二の事だから割とノリノリで突っ込んでくれるのを待ってると思ったんだが、無意識ボケだったか。
一旦それは置いといて、さっきの氷が割れたような音はそれでか。ただの突進で【彗星の一矢】クラスの火力を出せてると考えると、恐ろしい威力ではあるが……攻撃の線が素直だから、先読みするのは簡単だ。
ただ、あの突進攻撃を愚直にやり続けてくれるとも思えない。通じなかったら通じなかったで対応してくるのがこのゲームのAIだ。
俺の予想通り、ミノ公はこちらの様子を窺うようにじっと観察し、こちらの動き出しを待つ。
「そっちが来ないなら……こっちから仕掛けてやるよ!」
矢を引き絞り、マナを込めてスキルを放つ。
「【ルミナス・レイン】!!」
【虚空の閃弓】の持つ武器スキル──【ルミナス・レイン】。系統としては串焼き先輩が持つ【シャイニング・ボウ】同様、光の矢の雨を降らせるスキルだ。曲射で放たれた矢は無数の矢に分裂し、ミノ公に襲い掛かる。
『ヴモッ、ヴモッ、ヴモォォォォオオオオオオオオ!!!』
鼻息を荒くしながらその矢の雨の中を器用に駆け回るミノ公。ちっ、やっぱりこういった手数系のスキルは通用しないか。
矢が煩わしかったのか、その勢いのままこちらに突っ込んでくるミノ公。だが、俺とミノ公の間に厨二が割り込み、再び剣を構える。
「残念ながら突進は跳ね返させてもらうよ!」
【鏡面反撃】を展開し、厨二はミノ公を跳ね返そうとするが、その薄い膜の直前で地面を一段強く踏みしめ、真横にサイドステップ。パワーによる強引な直角カーブをした後、ノータイムで再び突進モーション。
厨二がすぐさま【鏡面反撃】を横にずらす事で対応しようとするが、それよりも一拍早くミノ公が厨二の身体を吹き飛ばす。
「厨二!」
「大丈夫ッ、まともには食らってない!」
地面を跳ねながら、剣を地面に突き立てて無理矢理勢いを殺した後、厨二がミノ公に突貫する。
「ああもう、これだからパワー系は嫌なんだ……!! そうやって馬鹿みたいな挙動を普通にやってくるからさァ!」
【白凍の聖剣】を構え、ミノ公に斬りかかる。軽々と回避したミノ公だったが、厨二が狙ってるのは直に当てる事では無く──。
「【氷葬ノ裁】!!」
剣を地面に突き立てると、氷が地面から勢い良く生えていき、そのままミノ公の全身を包んで巨大な氷塊へと変える。
「村人クン!!」
「了解!!」
氷の中で身動きが取れなくなっている所を一気に畳み掛けるべく、【虚空の閃弓】のもう一つのスキル……【栄光の一閃】を発動。【彗星の一矢】と同等のエネルギーを秘めた光の矢が放たれ、氷塊の中のミノ公の身体を射抜く。
そのまま跳弾・改を駆使してミノ公に【栄光の一閃】を多段ヒットさせ、HPを確実に削っていく。
「まだまだっ、こんなもんじゃ足りないよ!!」
「分かってる!!」
ボスクラスのエネミーの弱点に強力な一撃を叩き込んだところで、削れるHPはたかが知れている。
氷の中という動けない状況を活かさない手はない。このまま一気に追撃を……!!
『ヴモォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
凄まじい咆哮と共に、ミノ公は氷を力任せに粉砕し、氷塊が周囲に飛び散った。
風圧すら感じる程の咆哮によって怯んだ一瞬の隙に、氷から抜け出したミノ公は、何度も何度も自身が閉じ込められていた氷塊を殴り始める。
あまりの異様さに俺と厨二は少し引きながら。
「なんだ、急に……!?」
「閉じ込められたのが不快だった……訳じゃ無いよねぇ」
ミノ公が拳を振り終えると、そこには氷で出来た歪なこん棒が出来上がっていた。
ハンドメイドこん棒で地面を叩きながら、その耐久力を確かめ始める。
出来栄えに満足したのか、ニタァと醜悪な見せてからこちらへと振り向いた。
「おいおい……いくら知能が高いと言えど、こっちの攻撃を利用して武器を自作するなんて聞いた事が無いよぉ」
「だな。やっぱりこいつ、これまでの奴らとはレベルが違うかもな……」
流石節目の階層に割り当てられたボスなだけある。だが、どんなボスにでも必ず弱点は存在する。
俺達は、このパワーモンスター相手に弱点を見つけ出し、そこから状況を打開しなければならない。
『ヴモォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
未だ光明見えない50階層のボス戦は、第2ラウンドに突入する。




