#305 ベストオブクソボス
「お、村人クン。検証結果はどうだったかい?」
「想像以上にヤバいアイテムだったわ。家事使用人の敵対を無効化出来るやつだぞこれ」
「……それは確かにヤバいね、まさかあのカードにそんな効果があったなんて」
流石の厨二も驚いたのか、目を見開きながら何かを思案するように口元に手を当てる。
「って事は、一人分は時間制限関係無しに行動出来るようになるって訳だ。そうなると階層に留まってパワーレベリングも視野に入ってくるけど……」
「いや、完全に無効化出来るって訳じゃない。頭部のセンサーの色で警戒度みたいなのが判別出来るみたいで、向こうの誘導に従わない場合は普通に襲い掛かってくるみたいだからな。多分だけど1階毎に1、2回ぐらいまで警告だけで済むようになるんじゃないか?」
「ああ、なるほど……回数制限付きの無効化って事か、それでも強力な効果である事には変わりないと思うけどねぇ」
「そうだな」
住民IDカードを持っているだけで、俺達が以前この【アガレスの大穴】に挑んだ時のように、他プレイヤーによって家事使用人が意図的に呼ばれた場合の対策になる。それだけで明確な強みと言えるだろう。
確かに、PVPというコンテンツの性質上戦法の一つとはいえ何も出来ずに家事使用人に轢き殺されるのはあんまりだしな。なんならPVEエリアでも出来る戦法だし、カウンターアイテムが存在するという事を知れただけでもでかいだろう。
「しかし、住民IDカードね……。補給所の存在と言い、やっぱりこの迷宮は人、ないしは知的生命体が住んでいたと見て間違いないかな」
「俺もそう思う。だけど、不可解な事が多すぎてな……」
かつてこの大穴に人が住んでいたとして、そもそもなんでこんな凶暴な魔物達が跋扈する場所に生活基盤を整えているんだって話になるし、それの対策として家事使用人を作り上げたとしても、作ってまで生活する程のメリットを感じないんだよな。
「迷宮の最奥に到達すればそこら辺も分かってくるかもしれないねぇ。初代トラベラーが言っていた地下の最奥も、恐らくこの【アガレスの大穴】の事だろうし、ただ大戦に終止符を打った兵器があるってだけじゃ無さそうだ」
「だな」
兎にも角にも、そこら辺の情報を得る為にもこの【アガレスの大穴】を攻略する事が最優先だ。その為にもまずはNPC最高到達階である50階層を踏破し、アイテムを一つ持ち込み出来るという特典を獲得しなければならない。
「攻略再開するか。ちなみに次の階層ボスってどんな感じのボスなんだ?」
「んー……多分村人クンは得意なタイプのボスなんだろうけど、ちょっとめんどくさい奴でねえ」
「俺が得意なタイプのボス?」
「スピードがかなり速いタイプのボスなんだけど……まあ実際戦ってみれば分かるかなあ」
スピードが速いのなら俺の腕の見せ所だな。だけど、厨二がめんどくさいって言うってことはかなりめんどくさそうだが……一体どんなボスなのだろうか。
まあ、これまでの階層通り、意外と簡単に攻略出来るかもしれないしな。少し警戒する程度で挑むとしよう。
◇
「なんだこいつ、めんどくせえ!!」
「だから予め言ったんじゃないかぁ!」
20階層ボス、【ファントム・ビー】。
特徴は予め厨二から聞いていた通り、やたらすばしっこい蜂だ。ただそれだけであるのならまだマシなんだが……厄介なのはそのボスの能力。
ファントム、という名前が付いている通りあの蜂が通った所に幻影を残す。そして、その幻影はまるで本物であるかのように動き回り、時折本物と入れ替わる。
そして入れ替わった挙句、こちらに攻撃したらすぐ距離を置いて幻影を増やすのヒットアンドアウェイ特化型ボス……これをめんどくさいと言わずして何と言おう。
後ろに飛び退いて針の突き刺し攻撃を回避しながら、厨二に問う。
「厨二は以前どうやってこのボスを倒したんだ?」
「しびれを切らしたライジンが【灼天】ぶっぱで幻影ごとぜーんぶ焼き尽くした感じだねぇ」
「うーん脳筋極まれり」
そっか【灼天】って生成スキルだから【アガレスの大穴】でも使えるのか。やっぱズルいぜあのスキル。
結局の所対処法分からずって事ね……。でもこういうタイプのボスはギミックを解き明かせば割とすぐ死ぬタイプの良ボスだろう。幻影と入れ替えの原理さえ分かっちまえば、後はそのタイミングを予測すれば……!
「僕も法則性があるんじゃないかと踏んでねえ、色々と調べたりして見たんだけど……完全ランダムくさいんだよねぇ」
「は?」
前言撤回、やっぱこいつクソボスですわ!!
ただでさえ神経を逆撫でしてくるタイプの立ち回りの癖に仕様まで終わってるとか、製作陣の悪意を感じるぞオイ!
一体一体検証がてら射撃していた手を止めて、【空中床・多重展開】で一気にこのフロア全体に空中床を展開する。
「ああもうじれったい! こうなったら全員まとめてぶち抜く!」
「そうしてもらえると助かるねぇ!」
幻影の中に本物が紛れ込むというのなら、幻影ごと全部ぶち抜いてしまえば良い。生憎【跳弾】とこのボスの特性は相性が良いし、恐らく俺が重い一撃を叩き込めばボスをすぐに葬れるだろう。
跳弾計算、全員もれなく叩き落せるルートを算出!!
赤雀の効果で通常攻撃に火属性の効果を付与! 害虫駆除と行こうじゃねえか!
「ぶち抜け!!」
【跳弾・改】の効果発動! 跳弾回数が増える毎に火力増強!!
幻影達をまとめて貫き、空中床を伝いながら跳弾し続ける。
やがて矢が本体に命中し、勢いよく炎上した。
『ビィィィィィィィィイ!?』
「よし!!」
さあ後一、二発ぐらいか!? ホラ幻影増やして来いよ! まとめて片付けてやるから……よ……。
……あれ? 俺の見間違い……だよな?
「……えーっと、厨二」
「ああ、言い忘れてたけど」
ボスの隣にあるHPゲージを指差しながら震える声を漏らすと、厨二は深く深くため息を吐いた。
「こいつ、普通のボス並に体力ちゃんとあるよぉ」
「ベストオブクソボス決定だろコイツ!!」
普通に30分掛かりました。二度とやりたくねえ!




