#184 明日への準備
「ああああ明後日っていつだ!?」
「ふふふ、二日後ですよ村人君!?」
「取り敢えず落ち着け二人共」
Rosaliaの言葉を聞いて【龍王】の事を思い出した俺達は慌てふためく。
頭から完全に抜けていたわけではないのだが、【龍王】侵攻まで後二日という短い時間しか残されていないのは聞いていない。一応、明日【龍脈の霊峰】を攻略するつもりだったのだが、そう考えると残された猶予は非常に短い。
今回の【二つ名レイド】で耐久度が減った装備の修繕に、アイテムの買い出しにetc……。
ああ、考えれば考えるだけ頭が痛くなってきた。
「きっと、【二つ名レイド】で軒並みアイテムを使ってしまったのだろう? 今、【龍王】討伐の為にサーデストやセカンダリアではアイテムの買い占めが起きているからポーション類は高騰しているぞ」
「あぁー……そりゃそうだよな……。このゲームリアタイで相場変わるゲームだしな……」
うげ、と思わず苦い顔をしながら、すぐさまウインドウを開く。
【二つ名レイド】に挑む前に新品同然に修繕していた装備群も軒並み耐久度は三割を切っていて、回復類はほぼ底を突いている。
装備が破損していたら時間も掛かる上に費用もかなり掛かっていたので不幸中の幸いだが、それでも手痛い出費だ。
と、ふと先ほどのオキュラスとRosaliaの問答を思い出して、顔を上げる。
「……そういやRosalia氏がこの場で俺達を助けるメリットがあんまり無いと思うんだけど? 恩を売っといて後で何か要求するつもりか?」
「いや、それは卑怯と言う物だろう。恩の押し売りなど、言語道断。たまたま掲示板で君達の事が話題に上がっていた物でな、もしやと思って駆けつけただけだ」
そう言うと、ふっと口元を緩めるRosalia。あらやだこの人性格イケメン。
と、Rosaliaは何かを探すように視線を彷徨わせる。
「一応私以外にも黒薔薇のメンバーを連れてきてはいたんだが……」
「ちょ、待ってって! クラマス! おい馬鹿クラマス! こいつ止めて!」
ひぃぃぃ!と悲鳴が森林地帯の方から聞こえてくる。
先ほどのRosaliaの静止の掛け声があったのにも関わらず、未だ鳴り響く戦闘の音。
視線をそちらに向けると、怒り心頭と言った様子の厨二が、ルゥに襲い掛かっていた。
「……何やってんの」
「こいつがボクの戦いに水を差したからお仕置きをだねぇ!」
「止めてあげたんだからチャラにしてよ! ちょっと待って、マジで死ぬッ!?」
どうやら厨二がかなり優勢らしく、視界に映ったルゥのHPバーは既に瀕死状態を示す赤にまで到達していた。
そのまま剣戟は続き、ルゥの残りHPが一ドットになると、厨二はその時点で納刀してため息を一つ。
「まあ、君を殺すとボクのカルマ値が上がるからねぇ、ここら辺で勘弁してあげるよ」
「うっうっ……地味にミリ調整されるの腹立つ……嫌がらせの中でも相当悪質……」
半泣きになりながらポーションを飲み始めるルゥ。
その余りの不憫さに思わず同情していると、森の奥の方から爽やかな笑顔を浮かべたライジンが出てくる。
「いやー狩った狩った。久しぶりにPKKしたなー! 沢山狩ったからアイテムが美味しいぜ!」
「最早やってることがPKのそれと変わらないんだが……」
PKしに来た連中が落とした道具袋を引っ提げながら歩いて来たライジンに苦笑する。
と、ライジンが道具袋の中身を確認して、それをこちらに投げてくる。
「その中に回復アイテム類豊富に入ってるから拾っとけ。多分【二つ名レイド】で使った分ぐらいは返ってくるぞ」
「あ、そうか。PK殺してアイテムを奪う手段があったか。ライジンナイス過ぎる」
「本当にやってる事がPKと変わらないですね……」
あくどい笑みを浮かべたライジンに、俺も思わずにやりと笑みを浮かべる。
だって向こうから殺しに来てたんだもの、別に奪ったって誰も非難したりしないだろうしな。
さてさて中身はー? お、蘇生薬あるじゃねーか! 1st TRV WARの時にライジンから話には聞いてたけど、これってめっちゃ高い奴だよね確か。ラッキー!(ゲス顔)
「……まあ、向こうも奪われる事を想定してきているだろうから倒した君達が漁るのは正当な権利だろう。私は特別口出しはしない」
「えっ、あの口煩いクラマスが珍しい。どうしたの? なんか変な物でも拾い食いした?」
「流石にそれは風評被害だぞルゥ。私だって、そこら辺の分別は付けているつもりだ」
ルゥが意外そうに目を見開きながら言った言葉に、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くRosalia。
そんな彼女達のやり取りを尻目に、ある程度強奪……げふんげふん、拝借した所で、余りの回復アイテムをポンに渡す。
「……なんかこのアイテムを漁るのに罪悪感があるのは私だけでしょうか……」
「言うなポン。折角向こうから物資を供給してくれたんだ、ありがたく貰おうぜ」
「決して物資を渡す為に襲ってきたのではないと思うのですが……」
まあ、でも残りは貰いますねと無慈悲な言葉を呟いて、ポンも道具袋を漁り始める。
こうなってくると串焼き先輩とシオンを帰したのは勿体無い事をしたか。まあ、彼らの分もアイテムを多めに持っていけば良い話だしな。
ライジンがホクホク顔で道具袋の中身を眺めているのを見て、首を傾げる。
「所でライジン、お前何人ぐらい狩ったの?」
「えーと、落ちてる道具袋の数的に二十人ぐらいじゃないかな? HPギリギリまで攻めたからそれ以上は流石に狩れなかった。逃げ出した奴らも数人しか狩れなかったし」
「お前が本調子だったら全滅させてたんじゃないのか……」
ええ……と思わずドン引きしながら呟く。
こいつ確かMP回復ポーション余ってなかったはずなんだけど……ああそうか、倒した奴の道具袋からMPポーション奪って戦い続けたのか。戦闘中に相手のアーマー拝借とかはAimsでもよくやるし、漁り技術は高めておくに越したことは無いってばっちゃが言ってた。
「取り敢えずアイテム問題はこれで解決だな。後は装備の修繕と、【龍脈の霊峰】の攻略だ」
「む? まだ【龍脈の霊峰】のエリアボスを倒してなかったのか?」
「ああ、ここんところずっと【星海の海岸線】に居たからな。【二つ名】の情報収集に奔走していたから本土側のエリア攻略は手つかずなんだよ」
「そうか。……手伝っても良いのだが、私も【フォートレス】で準備をしないといけなくてな……」
「いや、良いよ。そこまでしてもらう義理は無いしな。明日には攻略してくるよ。……そういえば、なんで明後日って分かったんだ? 一週間後とは言ってたけど、正確な日付までは言ってなかっただろ?」
「あの黒ローブの男から一つだけ何でも聞ける権利を使って時刻まで聞きだしたのだ。ちなみに、あの黒ローブの男が言うには明後日の正午丁度に目覚めると言っていた。……君達も何か聞いたのだろう?」
「うっ」
そういやそんなイベントあったなぁ……無駄にしたけどさ、その権利。
彼女みたいに、しっかり話を聞いた上で質問を投げるべきだったんだろうな……。
「……何故そんなバツの悪そうな顔を?」
「……なんかはぐらかされたっつーか、そんな感じで無駄にしたんだよ。あの黒ローブ、相当性格悪いぞ」
「それはまあ私も何となく感じたがそんなにか……」
だって何でも聞いてね!って言ってきたのにも関わらず核心に迫る質問には曖昧な返答しかしないってトラップだろ。
と、そのまま色々と情報交換をしていると、メッセージの通知音が響く。Rosaliaが徐にウインドウを開くと、ふむと呟いて。
「すまない、用事が出来てしまった。私達はこれで失礼するよ」
「了解。助かったよRosalia氏。このお礼はどこかで」
「謝礼は良いと言っているのに。まあ、そちらがそのつもりなら断るのも失礼だしな。お言葉に甘えるとしよう」
そう言って、Rosaliaとルゥはテレポートしてこの場から姿を消した。
その姿を見送って、隣に立っていたポンに顔を向ける。
「俺達も戻って装備整えようぜ。まずは明日のエリアボス攻略に備えないと」
「ですね!帰りましょうか!」
こうして、【二つ名レイド】後の襲撃事件は幕を閉じた。
戦闘中のアーマースワップは基礎中の基礎。
ただし金アーマー、てめーは駄目だ。