#161 採集組とパワーレベリング組
「お、レベル25になったわ」
ピッケルを振るい続ける事一時間。もう何度目か分からない採掘モーションを終えると、レベルアップ特有の白い光が身体を包み込む。
アイテムストレージを眺めると、大量の石ころがずらっと並んでおり、思わず苦笑いする。
「……お疲れ様。ここから先は【ダマスク鉱石】が取れるようになるから後は運ゲーするだけ」
「ようやく検証タイムって訳か。んで、今んところデータはどんなもんなのよ」
「……攻略サイトによると一応35%程度って書いてある。……だけど、私が調べたいのはエリアごとの採集確率」
「なるほどな。って事は、かなり奥まで進まないといけないわけか」
確かに奥に行けば行くほどレアな鉱石類が取れるだろうから、俺としてもありがたい。
この【龍脈の霊峰】入り口付近のエリアでは、石ころ7割、銅鉱石、鉄鉱石が2割程度採集することが出来た。1割程度は見慣れない鉱石……恐らく【ダマスク鉱石】が顔を出したこともあったが、レベルが足りずに採集することが出来なかった。
シオンがわざわざこの入り口付近でレベル上げを勧めたのは、奥地に行ってレア鉱石が取れない可能性を考慮しての物だろう。全く、実に合理的だ。
「……そういう事。でも、採集職だけで奥地に行くのは危険。だから傭兵の協力が欲しかった」
「割と強かだよなお前……。まあらしいっちゃらしいけど」
「……ぶい」
「褒めてねえ」
どや顔をかますシオンに呆れた顔をしつつ、ピッケルを再び持ち上げて眺める。
レベルアップでSTRが上がったおかげか、最初よりも随分とピッケルの重さが軽く感じる。
採集職と言えど、思いっきりピッケルを振ればモンスターとも戦える気がしてきたんだけど。
「……これで戦えないかな、と思ってるみたいだけど、採集職は想像以上に貧弱。多分、私のレベルでもこのエリアのモンスターと戦えるか不安なレベル」
「なんなのうちの身内エスパー多すぎない?……というかマジか。うーん、なんか【サーチアイ】とか悪用できそうな感じがしたんだけどなぁ」
と言っても、【サーチアイ】は採掘ポイントを見つける事が出来るスキルというだけで、戦闘面に役に立つとは思っていないが、進化すれば指向性を持たせることが可能なんじゃないか、と思っただけなんだが。
「……一応、サブジョブに【採掘士】を入れておけば戦闘しながら採集も可能。……生産職と採集職をメインとサブに据えるのは合理的だけど、フィールドワークに弱いからこうして戦闘職の人間を雇わないといけなくなる」
「ほーん、上手く出来てるもんだなぁ……。でもさ、こういう採集職とかって、スニーキングスキルとか持ってないもんなの?」
「……一応、採集職は総じてレベル30になると【スニーク】が解放される。……だけど、採掘音とかに釣られてモンスターの敵視が向いてくるから、現状あまり意味を為してない」
「使い勝手悪いなそれ……。まあ、採集職メインに据えている人なら【スキル生成システム】で何とかしてるもんか」
そこにリソースを割くかどうかは当人のプレイスタイルを尊重しているからなのだろうか。
まあ、スキル進化さえすればスニークも強化されるかもしれないけどな。
「……まあ無駄話はこれぐらいにしておいて、採集つあーへれっつごー」
「はいはい」
◇
「……なあ、シオン」
「……なに」
「……暑くねぇ……?」
「……そりゃ、火山地帯ですし」
あまりの熱気にむせ返りそうになりながら、歩みを進める。
一応設定で汗腺機能をオフにしているため、見苦しい姿にはなっていないが、オンにしていたら地面が水浸しになっていただろう。
苦しく呼吸する俺の隣で平然とした表情で歩いているシオン。
「……なんでお前、平気なの」
「……この程度、日常茶飯事」
「……お前ん家火口かどっかにでも建ってんのか」
やばい、頭がぼーっとしてきた。やたらリアル指向なゲームだとは思っていたが、ここまでの再現はしなくても良いだろう。
なんかHPバーがゴリゴリ擦り減っていってるし、スタミナバーも減ってるし……。
……って、ちょっと待て。
「……なんでお前HPバーもスタミナバーも減ってないの」
「……君のような勘の良い傭兵は嫌いだよ」
「やっぱなんか対策してんじゃねーか!」
畜生こいつ!!なんかやたら平気そうな面してんなと思ってたら!!
「……暑いエリアは冷気薬を飲まないとデバフが付く」
「何その便利そうなアイテム寄越しやがれください」
「……相場が500マニーだからふれんどぼーなすで750マニー」
「そこは安くなる所だろうが!!でも背に腹は代えられないから払っちゃう!」
取り敢えず三個分、とシオンに2250マニー払い、冷気薬というアイテムを受け取る。
見た目は水色の丸薬だった。それを口の中に放り込み、ゴクリと飲み干すと身体に籠っていた熱が一気に抜けていき、心地よい感覚が身体を支配する。
「うっわ何この夏が明けて秋のそよ風を浴びながらちょうどいい気温になったなあって眠くなるような感覚」
「……表現が具体的すぎてむしろ怖い」
でもこれで先ほどの暑さによる倦怠感は無くなった。
むしろ通常エリアよりも心地よい感覚を覚えながら歩を進めていく。
「……取り敢えずここら辺で採集しよう。……何回ぐらい掘る?」
「まあエリア順繰り回していくんだろ?一エリアにばっか時間割いてたらキリないし300回ぐらいで良いんでねーの」
「……訂正、傭兵に聞いた私が間違っていた」
なんだよ、300なんて検証数では少ない方だぞ。こういうランダム性のあるコンテンツは最低1000回は回さないとある程度の数値が出ないだろうが。
ツルハシを持ち直すと、【サーチアイ】で検知した採掘ポイントに向かって走り出す。
「ま、善は急げだ。よーし掘るぞー!」
「……まあいいか。……とことんまで付き合ってやろう」
◇
――――【龍脈の霊峰】、某所。
「ちょっと待て待て!あの黒いスライム狩りまくってたらなんかどでかいの湧いてるんだが!?」
「……粛清Mobだねぇ、アレ。……串焼き君、もしかして【ダークスチールスライム】以外狩らなかったりした?」
「だって経験値効率重視したらあいつ以外狩る必要無くないか!?」
「……今度、wikiでも見ようねぇ……」
粛清Mobのシステムをいまいち理解していなかったらしい串焼き団子に呆れたようにため息を吐く銀翼。
今しがたポップした、粛清Mobらしき巨大【ダークスチールスライム】は、同族殺しを行ったプレイヤーの在処を探すように高速で徘徊し続ける。
岩陰から顔を出し、逃げられそうにないと悟った銀翼は諦めたように刀を抜刀する。
「……村人君が戦ったアレと同格となるとかなり手を焼きそうだねぇ……まあ、やれるだけやってみようか」
「マジでやるつもりなのか!?あいつレベル80って書いてあるけど!?」
「どうせここで奴を逃がした所で他のプレイヤーが死んでカルマ値稼ぐだけだからねぇ……。湧かした本人が死にさえすれば消えるし、戦うしか手段はないよ」
「ああもうこうなったら自棄だ!死ぬまで付き合ってやる!」
そもそも湧かせたの君だからね?とジト目を向ける銀翼の隣で、カラカラと笑う一人のプレイヤー。
「こういうハプニングもMMOの醍醐味だな!良いぜ、俺も付き合うぞ!」
「折角だし、久々に頼むよぉ。我らが司令塔」
村人Aとシオンが【龍脈の霊峰】が採掘を開始したとほぼ同時刻。
串焼き団子を含む、三人のプレイヤーは【キングダークスチールスライム】との戦闘を開始した。