#153 ハウジング・ウォーズ! その二
ギャリギャリギャリ、と石畳を削りながら一つの閃光が駆け抜けると、遅れて電撃と火花が散る。
追い抜かれたプレイヤー達は後ろからの猛追に思わず目を剥き、その正体を目で追おうとするがその姿を視界に納める事は出来なかった。
閃光の正体ーーーーライジンは、雷を一層迸らせると、脚に力を込める。
(ここまで快調、後はスタミナ切れとMP管理ッ!!)
曲がり角の手前で急速にブレーキすると、石畳が抉れてしまうが気にせずに跳躍。
そのまま急加速して階段を一息に飛び越えると、絶景が広がる。
その景色の良さに、思わずライジンは笑みを浮かべた。
「っは、良いね良いね!最ッ高の景色だ!!この様子だとまだ30番地に到達したプレイヤーは居なさそうだな。このまま俺が一番を……!」
「それはどうかな」
と、ライジンが呟いた瞬間、その身体が空中で横っ飛びに吹き飛ばされた。
そのまま減速して、転がるように地面へと不時着すると、HPバーがガリガリ削られて半分を超えた辺りで停止した。すぐさま立ち上がって体勢を立て直そうとするが身体に違和感を覚えて片膝をつく。
「がッ……!?げほ、麻痺毒……!?」
身体の隅々まで渡る鈍い痺れと倦怠感の正体に気付き、歯を食いしばる。そんな、いつの間に……!?と目を剥いたライジンはすぐに攻撃が飛んできた方向へと顔を向ける。
すると、そこに居たのは……。
「大会予選ではどうも、ライジン。いやあ、親切な人が君の居場所を知らせてくれたものだからぜひ参戦しないと、と思ってね。……さあ、リベンジマッチの時間だ!」
「――――――オキュラス!」
ライジンよりも先に走り始めていたオキュラスが、万全の準備を整えて待ち構えていた。
◇
「よし、ログイン出来た!」
画面が切り替わり、ハウジングエリアの入り口に出現したポンは、すぐさまハウジングエリアへと移動する。
周囲を見回してみると、プレイヤー達がみな同じように駆け出しているのを見て、すぐさま駆け出した。
「負けませんよ!【爆発推進】!!」
「うおっ!?なんだなんだ!?」
ポンがスキルを発動させると、爆発が巻き起こりそのまま加速していく。
突如として起きた爆発にギョッとするプレイヤー達だったが、ポンの姿を見て各々スキルを発動し始める。
「もっと、もっと加速を!【限界拡張出力】!!」
ポンの掌から放たれる青白いバーナーのような光。そのまま甲高い音をかき鳴らすと、急噴出して加速する。その姿が二重にぶれると、地面を抉りながら上空へと躍り出た。
その急加速に付いて来れるプレイヤーはおらず、地上で必死に走るプレイヤー達。そんなプレイヤー達を見下ろしたポンは再び【爆発推進】を発動させると、角度を調整してお目当ての30番地へと向けてひた走る。
(まだ、誰も到達してない!いける!)
先ほどの【限界拡張出力】の使用により、走っているプレイヤー達の中で一気に上位に食い込む事に成功した。
だが、このまま空中に居ても他のプレイヤーに撃墜される可能性がある。大会予選でのオキュラス戦のように、撃墜されてしまえばおしまいだ。
(なら、私が走るべきなのは……!)
再びポンは地上近くまで加速しながら急降下する。
障害物の多い、地上での爆走。持ち前の空間把握能力を活かして、他人からの妨害も全て躱して見せる。
そのまま地面近くを爆走していたポンの隣に、一つの影が並走し始める。
「おっと……君は。ふふ、因果な物だね。こんな所で出会うとは」
「あなたは……!?」
影から伸びてきた刺突を、足から爆発を起こして全力で身を捩る事で回避する。
そのままポンは地面に降り立つと、攻撃をしてきた主は微笑を浮かべてレイピアを構える。
「かの村人Aをギリギリまで追い詰めた実力、賞賛に値するよ。私もそれなりに健闘していたとは思うが、君程追い詰められたわけでもない」
黒を基調とするフルプレートのアーマーを着こなし、レイピアを縦に構えるその様は、かの代行者を彷彿とさせる立ち振る舞い。
そして、忘れもしない、スタジアムでのあの光景。
「街中のスキル使用は厳禁だぞ、爆発少女。悪いが私のロールプレイの都合上、君を食い止めさせてもらおうか。……折角の機会だ。その実力、見極めさせてもらおう」
(渚君と仲良さそうに会話してた女の人!!)
ポンが鋭く睨みつける先には――――【黒薔薇騎士団】団長、Rosaliaが立ちはだかる。
◇
『現在、順次ログイン処理を行っています。貴方は1340番目です』
「暇だ……暇すぎて虚無……うう、なんかライジンはオキュラス氏と戦い始めてるし楽しそうだなあ、俺も戦闘したいなぁ……」
待機中のロビーにてライジンが配信している動画サイトを映し出して、ウインドウを眺めていた俺は、ぽつりと愚痴を漏らす。
かれこれ五分が経過してしまった。まあ間違いなく30番地へと向かっているプレイヤーは大勢いるだろうし、既に取られている可能性も非常に高い。
ライジンの【電光石火】のように、移動速度を飛躍的に上げるスキルを持っていれば間に合う可能性はあるかもしれないが、生憎そのようなスキルは持ち合わせていないから、今更俺が参戦した所で土地購入は絶望的だろう。
と、ライジンの配信を眺めていると、オキュラス氏が高笑いして紫色の巨体を召喚する。
「うお、オキュラス氏あのスキル使ってんじゃん。……【毒龍】だっけ?あれ一人で倒すの苦労するだろうなあ」
オキュラス氏はライジンの所に行きそうだなあとはぼんやり思っていたが、まさかこのログイン戦争を勝ち抜き、戦闘に至るとは思わなかった。二人ともズルい。
どうせだし、予選では数の暴力で圧倒したオキュラス氏の実力も見ておきたいし観戦に没頭しますかね。暇だしスパチャでも投げておこう。取り敢えず3000円で、『オキュラス氏にノーダメで勝ったら追加投げ銭します』っと。よーし、頑張れライジン。お前に賭けるぜ。
「ポンはどうしてるかなあ、リアルラック強いし一番最初に走り出してそう……」
どうせならポンにも配信してって言っとけばよかったな。二窓しながら観戦してた方が楽しかったかもしれない。ついでにドリンクとポップコーンでもあれば完璧だったんだが。
だが、今更嘆いた所で仕方あるまい。このままライジンの観戦を続けて、ログインできても尚戦闘が続いているようであれば、このお祭りに参加するとしようか。
そのままログイン出来るまで、時折『ライジン君がんばえー』とコメントを打ちながら、俺は戦闘の様子を楽しんで観戦しているのだった。