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Skill Build Online ~変態スナイパーによるMMORPG挑戦記~  作者: 立華凪
駆けろ流星、星海に響くは鎮魂歌
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#135 侵攻予告



「「【龍王】……!?」」



 ちょっと待て、急に新しい名前が出てきたんだが。このネーミング的に恐らく【粛清の代行者】の内の一体なのだろう、だが、そんな情報は今までどこにも出てこなかった。

 唐突すぎる新たな粛清の代行者の発覚に俺とライジンが硬直していると、黒ローブの男は「そうだ」と呟く。


『【龍王】は昨晩の時点で既に覚醒している。後は時が来れば侵攻を開始するだろう』


 ……昨日?昨日って、1st TRV WARの本選だったよな?……そういえば第四の街フォートレスで何かあったみたいな話は聞いていたが。

 Rosalia氏の口から漏れた『巨壁』の話を思い出す。大会の後少し調べてみたが確かあれは露骨に設置されている障害物という事でアプデ待ちなのだろうという憶測が飛び交っていた。


 壁、という単語から【双壁】である可能性も頭に無かったわけではない。

 

 ……まさか、その壁そのものが【龍王】だというのか?

 大きく開けた空間を丸ごと塞ぐような巨大な壁がモンスターそのものだと?


 ごくり、と生唾を飲み込むと、恐る恐る黒ローブに聞いてみる。


「侵攻って、どこへ?」


『今はサーデストと呼ばれている街へだ。【龍王】は人間に対して恐ろしい程の憎悪を抱いているからな、人間がより多い場所を奴は選ぶだろう。粛清の時が来るのを待つまでもなく、人間を粛清しようとするに違いない』


 サーデストという言葉を聞いて嫌な予感に身を震わせる。

 粛清の代行者、そして【粛清】。その二つの単語とサーデストが結び付き、最悪の展開を想像してしまう。


「仮にだ。もし仮に――――【龍王】の進行を防ぐことが出来なかったらどうなる?」


 話を聞いていてふと湧いた想像。山のように巨大な【龍王】が龍脈の霊峰から降り立った時、そこに広がるのは多くの人が住むサーデストだ。もし俺の想像通りなら、サーデストは……。


『もしそうなれば、三千年前の悲劇が繰り返されるだけだ』


 黒ローブは静かに、それでいて残酷に淡々と真実を告げる。三千年前の悲劇。それは多くの人間が皆殺しにされた【粛清】という出来事。

 ゲームだから何とかなる、ではない。NPCだって人並みに傷を負う事もあれば死ぬ事だってあるのだ。つまり、侵攻を防ぐ事が出来なければもれなくサーデストに住む住人が全員()()()という訳だ。

 じわり、と焦燥感を覚える。発汗機能をオンにしていなくとも、手に汗が浮かび上がる感覚があった。


 ライジンは黒ローブの発言に神妙な面持ちで顎に手を添えると、ぼそりと。


「という事は目下の目標は対【龍王】ってとこか。その為の準備を進めなければならないけど、【双壁】の情報も集めないといけないよな……」


『……【双壁】に挑もうとしているのか?』


 ライジンの呟きに、黒ローブは何故か反応を示す。

 こちらの発言に対しては割と答えてくれてはいたが、独り言に対して反応を示したのはこれが初めてだった。

 その呟きを見逃さないとばかりに、黒ローブとの距離を詰める。


「ああ、一番最初は【双壁】に挑もうとしていたんだが」


 その言葉に、目に見えて動揺する黒ローブ。

 ……もしかしてこの黒ローブ、【双壁】と因縁があるのだろうか?


『そうか……既に【双壁】を捕捉していると』


 驚いた、と言わんばかりに黒ローブは呟くと、言葉を続ける。


『【戦機】と会ったようだな?』


「ああ、既に戦った事がある。ただ、手も足も出なかったがな」


 苦い思い出を思い出し、苦笑する。

 カルマ値の検証、そして【戦機】ヴァルキュリアとの対決。回避全振りだったので戦闘とは到底呼ぶことが出来ない代物だったが。


『もし【双壁】を討滅するつもりなら……【()()】に関する知識を得ておくといい。かの者達は信念を曲げてまで救う道を選んだ者だ。……その最期を、絶望で終わらせるわけにはいかない』


 信念?絶望?


 なんのことやら……と黒ローブの言葉を聞いていると、ふと胸の辺りで温かみを感じる。

 突如として出現した謎の温かみに疑問符を浮かべていると、目の前に立つ存在は目を見開いた。



()()()()?』



 まるで信じられない物を見るかのように、俺の後ろを見る黒ローブ。

 その視線の動きに釣られて視線を後ろに向けてみるが、そこには誰も立っていなかった。


『どういうことだ、ティーゼは()()……』


 今しがた口にした、ティーゼという発言。

 ティーゼ・セレンティシアの事だろう。星海の地下迷宮で対話(一方的)した、少女の事か。

 何故、黒ローブが彼女の事を知っている?彼女は、三千年前の人物の筈だ。



 いや、待てよ。もしかして黒ローブの正体は――――。



『――――話を遮ってすまない。話を戻そう、【龍王】は覚醒した後もマナ補給を続けている。恐らくだが、()()()()にはサーデストに向けて侵攻を開始するだろう』


 黒ローブは一つ咳払いすると、何事も無かったかのように振舞う。

 ここで追及するべきか、否かを選択しようとする前に爆弾を投げ込まれてしまったので意識が完全に逸れてしまった。


「一週間!?」


 待て、あまりにも話が急すぎる。新しい代行者の発覚に加え、それが一週間後に街を滅ぼすべく動き出すというのだから。ライジンに聞いて招待状を使用してなければこの話を聞く事だってできなかっただろうし、知らぬ間にサーデストが壊滅していた可能性だってあり得た。

 内心冷や汗をかいていると、黒ローブはゆっくりと頷き。


『この話を他の個体(トラベラー)と共有して構わない。むしろ、そうしなければあの街が滅ぶだけだ。君達が理解ある者たちだと踏んでの情報だ』


 情報の独占か、共有か。

 ライジンに視線を送ると、向こうも首肯で応じる。勿論、答えはただ一つ。


「勿論、そうさせてもらう。サーデストには世話になった人もいるし、絶対に侵攻は止めてやる。俺達はいくら死のうと問題はねえが、この世界の住民たちは話が別だ。死んだらそこで終了の奴らを死なせるわけにはいかねえ」


 短い付き合いではあるが、サーデストのNPCの知り合いも住んでいるのだ。


 あの夫に先立たれた小物売り店の奥さんと、その娘も。

 面倒くさい性格と思いきや気さくでいて、金銭請求に関してはしっかりしている、俺の相棒を作った兄弟鍛冶師も。

 俺を騙して金をふんだくった、あの行商人も。いや、こいつは割とどうでもいいな。


 そしてこれから世話になるかもしれないNPCだって大勢住んでいる。俺達が動いてそれを未然に防ぐことが出来るなら、この身体をポリゴンへと何度変えようとも、挑み続けるべきだ。


『その意気だ』


 黒衣の男が指を鳴らすと、足元からポリゴンへと変わり、そのまま掻き消えていく。


『もし君達が代行者を打倒出来ればこの場所へと再び招待しよう。またこの場所へと来ることを期待しているぞ、ライジン(アルファ)村人A(ブラボー)



 その言葉を最後に強制的に意識が黒く塗りつぶされ、そのまま俺とライジンはこの空間を後にした。

 








 二人のプレイヤーがいなくなった後、黒衣の男は何か感傷に浸るように虚空を見つめていると、突如何もない空間に粒子が収束していく。

 その粒子はやがて人の形を成し、黒衣の男と対照的な白いローブをはためかせながらゆっくりと降り立つとふぅ、と一つ吐息を漏らした。


『悪い奴だね、君も』


『……何の話だ』


 その空間に突如出現した少女――――黒衣の男から『あの女』と呼ばれた存在は、口角を吊り上げると。


『僕に口封じされてるってのもあるけど、自分の正体を知らせられないから信頼してもらうために()()()()()()()を利用した。君、()()()()()()()()()


 少女は心底愉快そうな笑みを浮かべながらくすくすと目の前の黒衣の男を嘲笑う。

 その言葉に、じろりと睨みつけるように視線を向けると、黒衣の男は一つ舌打ちを鳴らした。


『ち、性悪女が』


『ふふ、いっちょまえに人間らしい所を見せるじゃあないか。まあでも見てる分には面白いから許してあげるよ。だけどね、流石に粛清の代行者の討滅を頼むのはちょっとばかし()()()()()()()


 少女は笑みを崩さないまま、指を立てる。


『そもそも粛清の代行者(アレ)は人の手で打倒出来る存在じゃない。いくら誰かさんと同じ様に不死性があるとはいえ、趣味が悪いね君も』


『だからこその、()()


 少女の言葉に、黒衣の男は力強く断言する。その様子を見て面白くなさそうにふん、と鼻を鳴らす少女。


『……まあ、やれるものならやってみるがいいさ。もし本当に打倒出来ようものなら、僕の領域に足を踏み入れる許可を与えてやってもいい』


 少女が手をかざすと、メニューウインドウによく似た何かが表示され、そこに映し出されたのは二人のプレイヤーだった。

 少女は玩具を見つけた子供のように無邪気に笑う。


()()()()()()()()、トラベラー。せいぜい足掻いてみるがいいさ。君達がどれだけ足掻こうと、この世界の終焉は変えられない』



『君達が■■■■■■■■■■■限りは、ね』



 少女はそう言い残して、再び自分の身体をポリゴンへと変え、自分の居るべき場所へと戻っていった。

 その少女が空間からいなくなったのを確認すると、黒衣の男は忌々しそうに吐き捨てる。



『言っていろ、観測者。私は私の手で、この世界を正常な形に正すだけだ』



 その呟きを、聞く者はいなかった。




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