ドラゴンソウルの力
「はああああああああっ!」
森林から聞こえてきた少女の雄叫びと共に起こったのは大量に舞った、メラエルが仕えるスカルの従者達である。スカルが吹き飛ぶとそこに見えたのは、斧を振りかぶったドワーフと人間の娘であるシャロルである。
「下は任せて、コウジは上を!」
「なんできたんだ!」
「マリスならちゃんと安全な場所で眠ってる、安心して」
「何を言ってるんだ、今すぐ逃げろ! この領土を支配しているメラエルが本気だという事は次々魔物が押し寄せてくるという事だ、勝ち目はない!」
「大丈夫、僕強いから」
親指を立てているシャロルを見て逃げるという選択肢が消える、この数を相手に二人で戦うのは少々無謀にも思えたがただ火炎弾をぶつけるだけが戦い方じゃ無い筈だ、まだ希望はこっちにもある。
『おいコウジ、空を飛んでここから逃げれば奴らには追いつく事ができまい、今すぐメラエルを追うんだ』
「本当か!? じゃあシャロルを掴んでメラエルを追う」
『バカを言うなお前の身体のサイズを考えろ、あの女を背負いでもすれば飛行速度は減速しグレイムパンズ共に軽々追いつかれる』
「俺が追ったら彼女は殺される! ここの連中を倒せる技は無いのか?」
『腐っても元インフィニットの王だ、だがお前の身体でそれを耐えられる可能性はゼロに等しい」
「いいからやれ、俺の身体はどうなっても構わん」
『言っておくがここでお前が死ねば望んでいたセカンドライフとやらもここで終了だ』
「早くしろ!」
ヴァルガの声が静まると意識が朦朧とし始める、体から力が沸いてくる実感は無かったがまるで力を支配されるような苦痛とも言えない圧迫感が押し寄せてくる。呼吸はしているが息はできない、身体は動いているが俺の意思ではない。全器官は何かに操られていた、そして自分が出したとは思えない咆哮を空に向かって吐き出す。
一呼吸は肺を破裂させるような勢いで吸い込まれる、呼吸はできないが痛みは感じる。そして吸い込まれた空気は体内で灼熱にへと変わるのが伝わり、吐き出されると共に大爆発が起こるような衝撃で辺り一帯が火の海と化す。スカルは森林と共に焼かれるも離れた位置にいるシャロルだけは無事でいた、残すは宙に浮かぶグレイムパンズのみである。
『奴らだけは一筋縄ではいかない、増してや三匹もいるのならばな』
『危険なのは重々承知しているつもりだ、なんとかできるかヴァルガ?』
『残念ながら無理だな、ここで逃げなければ全滅は免れない』
『そんな事は言わず何か無いのか?』
『だがファルステッドが最期に封じ込めたあの杖、全盛期の私を追い詰めたあの魔力ならば一掃できるやもしれん』
『場所は知ってるのか? 今すぐ取りに行こう』
『コウジ、そいつは無理な話だ、ここから20キロ離れた位置にある、流石の私でも取りに行くまで1時間はかかるだろう』
『奴ら全員をこっちに引き寄せて飛ぶ、今すぐ俺に体を操らせろ』
『一回はお前の脆弱な身体で火を放った、戻った途端疲労感に襲われるぞ』
『構わん、場所だけ教えて早く俺と代われ』
『北西に向かって飛べ、メラエルが飛んで行った方角と同じだ』
『了解』
ヴァルガから体の操作権を返還させ、言う通り北西に向かって飛び立つ。確かに疲労が蓄積し意識が朦朧とし始め今にも気を失いそうな状況にある。
「こっちだ! こっちに来やがれ!!!」
大声に釣られたグレイムパンズ全員がこっちに向かって飛び、それと同時にファルステッドの元まで向かって飛ぶ、どうやら奴らの知能はそこまで高く無いようだ。
コウジが森林から離れてしばらくが経った、僕は燃える一面をうまい事切り抜け気絶しているマリスの元へと向かう。ドワーフ自体他種族とはあまり仲良くできない性質にいるが、火炎が鎮まらない以上彼女を見捨てるのは道徳に反する行為という事は理解していた。
僕自体生まれながらにして他種族を蔑視するこの性質は忌み嫌い、できるなら克服したいものだったが他種族もまた僕達を見下げるのである。特にあのエルフもそうだ、エルフ皆決まって他種族を馬鹿にしドワーフに関しては蔑称まで付けられていると聞く。成人にして四肢が短い者をミゼットと無意識に差別し、小人を馬鹿にしているのだ。きっと僕だってあのエルフにチビな事を馬鹿にされてるに違いない、あのエルフもこれから少しずつ身長が伸びていくのに対して僕はこれ以上伸びる事が無いのだ。
「見つけた」
色々と考えていくうちにエルフの姿が見える、僕はそれを担ぎ一先ずは安全な場所にへと向かう。エルフを担ぐと意識を取り戻したのか、少しずつ瞼を動かし閉じた目が開く。できれば僕がエルフを助けている事なんて知られたくなかったが、状況が状況なら仕方がない。今はこのエルフにどんなに屈辱的な事を言われようと助けてやろう、それがきっとコウジの望みでもある筈だ。
「あなた……なんで火がついて……」
「ここは全部コウジの力で燃やしたんだよ」
「そう……コウジは……コウジはどこにいるの……?」
「コウジならさっき魔物3匹を誘い寄せてどこかに行ったよ、僕達が狙われないようにね」
「そっか、ありがとねシャロル」
「え?」
「私をここまで運んでくれたのあなたでしょ……? あなたに運ばれてるのはぼんやりとしてるけど覚えてるわ……」
「エルフがドワーフにお礼……? 珍しい事もあるもんだね」
「ふふっエルフじゃないわ……私自体があなたに感謝してるのシャロル……もしよかったらだけど私の事マリスって呼んでくれないかしら」
「………」
僕が住んでいた酒屋では色々な種族が来訪するものの、彼らは来訪すると決まって僕を馬鹿にしてきた、時にはママにまで。 僕は今までドワーフを馬鹿にしない種族は人間だけかと思っていた、それもきっと僕が人間とドワーフのハーフだから違和感が無いと思っているのかもしれないが。沢山の他種族を僕は憎んでいたけどママは決して僕に恨むなと伝えてきた、来訪者が来るたび来るたび悪気が無いのがほとんどだと。もしわざと怒らせるような者がいても中には絶対にそんな偏見を持ってない者もいるとまで言い聞かされていた、でも僕はそんなの見た事が無いから嘘だと思っていた。
しかしママが言った事は本当だった、いや僕が絶対嘘だと決めつけていただけなのかもしれない、どうせ結果が分かっているのなら現実から目を背けたいと思っていただけなのだ。
でもその現実は違うのかもしれない。生まれながらの性質がどうとかは関係ない、もし他種族がドワーフに対しての偏見を持ってない者もいるとするなら、僕はきっと他種族に心が開ける気がした。
「マ、マリス、昨日はあんなに当たり散らしてごめんなさい」
「昨日ね、今日も十分当たり散らしていたようだけど……」
「うう……」
「ふふっ冗談よ……全然気にしてないわ……」
「本当? じゃあ僕と、僕と友達になってくれたりなんて」
「シャロル……」
「……何?」
「もう私達は友達よ……コウジもあなたも命に代えても守らなきゃならないかけがえのない友達」
「うう……ありがと……ありがとう……」
目からはボロボロと涙の滴が落ちた、こんな恥ずかしい姿友達には見せたく無かったのに手で擦っても溢れる涙は止まらないでいた。そんな僕をマリスは胸で抱き寄せてくれた、それはとても柔らかくて温かい。今まで生きてきてこんなにも幸せな日は無い、そんな幸せな日でも僕にはまだやるべき事が残されていた。僕達を逃がしてくれたコウジを救わない事にはこの一日は決して終わる事はない、絶対に失う訳にはいかないんだ、大切な友達を。