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ドワーフの娘、シャロル

 何時間寝たのだろう。朝だというのに視界は真っ暗、否、明らかに柔らかい何かが目を塞いでいるのが分かる。目隠しに何かを使った覚えは無いが妙に暖かい、それに平らじゃなく少し膨らんだ処が気になったが不思議とそこも柔らかく温かい。そして脳裏の感知器のようなものが反応したのか急いで毛布から飛び降りると、丁度目を覆っていたそれは桃色で髪と擦っていた眼も同色、ベッドから降りたそれは昨日見た主人の娘だった、それも裸姿で立っていたので全身丸見えの状態である。


「おはよ~」

「ふ、服を着ろー!!!」

「なんで~? 寝る時は何も着ない方が楽でしょ~?」

「お前寝る時はいつもそんなすっぽんぽんなのか……」


 いくら娘とは言えこんなでか乳じゃどこに目を向けていいか分からないだろう。ご主人がこの部屋に来る前に何とか服を着るように説得できた。


「それで、お前はまだ若くて人にもそんなに会った事がないから常識というものを分かっていないんだ」

「そうなの?」

「そうだ、とりあえず普通の女の子っていうのは男の前ですっぽんぽんになったりしないんだ、これからはしないって誓えるな?」

「うん、分かった」


 まるで自分が父親のように思えた、少なくともこの暴力的とも思える豊満な身体を生で見せられたらこの先誘拐されるなんて事にもなりかねない。見えざる扉は猛者ばかりがこの地に足を踏み入れているのだ、俺やマリスよりも強い奴に狙われるなんて事は容易にあり得る筈だ。


「そういえばお前名前はなんて言うんだ、これから一緒に旅に出るんだから覚えておかないとな」

「僕はシャロルだよ!」

「そうかシャロル、お前はまだ子供だけどこれから親父さんとは会えなくなるんだ、後から帰りたいって我儘言っても一緒に帰る事は当分できないぞ」

「大丈夫だよ、僕にはコウジがいるんだから」


 ドワーフの娘であるマルクスが抱き着いてくる、彼女は俺がいるから大丈夫と言ったがこれには何も返す言葉が無かった。俺は父親代わりとして彼女の事をご主人に任されたのだ、無責任に自分の命は自分だけで守れとも言える立場にないだろう。


「ちょっ! ちょっと! あんた達何してるの!」


 シャロルと会話している処にノックもせず扉を開いたのはエルフであるマリスだった。確かにさっきの姿で判断すれば俺が少女に変な気を起こした変態に見えるだろう、だが服を着させた事によって少しはましになった筈だ、丁度下半身には彼女の身に付いた柔らかい乳が密着していたが。


「消滅の日満ちる時、汝に宿す神々の怒り、反逆神に背いたその罪を背中に刻み地獄で焼かれ……」

「うわああああああストップストップ!!! こんな室内でそんな魔術打たれたら全員死ぬって!」

「はあ、エルフの嫉妬は見苦しいな~僕とコウジが仲良くしてるからって嫉妬しないでもらいたいな」

「し、嫉妬ですって! 誰がこんな奴に嫉妬なんて!」

「おい、それ地味に俺に対して酷いよな……」


 マリスの眼には今にも俺を地獄に送り込もうとする死神のような目つきで睨んでいた、おまけにシャロルとマリスの間で険悪な雰囲気が漂っている。

 その後も誤解を解く事はできたがマリスの視線は常にシャロルの乳の方を向いていた、彼女が怒った理由にはたまたま連れていく事となった娘の乳がでかかったのもまた原因の一つだろう。


 ドラゴンソウルを手に入れ、仲間に異種族であるエルフのマリスとドワーフと人間のハーフであるシャロルが加わり、冒険の初日は酒屋で泊まるだけで特に危険も無い1日だった。そして物語は二日目に突入する、マリスは呆れ顔でべったりとシャロルがくっついている俺の表情を凝視していた。少しでもにやつけばマリスの怒気が伝わってくる、露出させていた乳に腕は挟まれていたもののマリスは特に何も発さず殺気のようなオーラだけを飛ばしてこちらを睨んでいた。


 森林を抜けて酒屋に着いたと思えば、また森林を通らなければならない状況である。長時間歩き続けているが中々ゴールは見えない、ご主人があの酒屋に籠りっぱなしなのも理解できる気がした。この先どんな生物がいるかは警戒した方が良い、虚無(ニヒル)については著者であるアルフ・ローガンがたった一匹でモーガンロール大陸全域を蹂躙する程の魔物何万といると聞いた。それは奥に行くに連れて危険な魔物が存在し、最奥に住んでいた体内に宿るフォーム・ミラードは相当な怪物と踏んでいい。こういう時こそ実に頼もしいものだ、問題はその力をどこまで操れるかだが。


 数時間は歩いただろう、俺とシャロルに関してはまだ全然歩けたがマリスに関しては大学出のお嬢様だ。本当はもう少し先に進むべきだと思ったが、それにしても森林があるばかりで出口すら見えなければ、生き物一匹すら生存している様子は無かった。休憩の間はアルフ・ローガンの虚無を読んでいたがどれもこれも子供の空想のような事が書かれているばかりで、有益な情報は何も手に入ら無さそうだった。そもそも彼自身が人間でありこの地に足を踏み入れたかも定かではないのだ、しかしページを捲っていくと最後のページに着眼する事となった。


 言語学者が数十年かけて熱心に研究をしているが未だに解読に至らないこの三ページ。その三ページが何故か理解できる、隈無く目を通すがこの世界を揺るがしかねない出来事が最初の一ページ目に書かれていた。『これを読んでいる君はドラゴンソウルを体内に宿す者、もしくはドラゴン自身が読んでいるのかのどちらかだろう。しかしドラゴンであれば最後の三ページしか分からず特に意味もない、だからここまでこの書物を読んできた君の力がこの世界には必要なのだ。この先書かれてある事は非常に重要であり絶対に最後まで読んでほしい、この世に生きる全ての命は君に託されたと思ってくれ。君達の故郷であるモーガンロール大陸、そしてその世界の住人が言う処のインフィニット、しかしその世界がまとめて虚無に変わってしまうのも時間の問題だ。まず君がこの世界を救うためにすべき事はインフィニット内でメラエル像を探し女王の復活に手を貸す事だ、そこからの手順は全て彼女が話してくれる筈だ。この世界を救うも救わないたった今君次第となった。もしもでいい、この世界をほんの僅かでも好き、そして守りたい家族や仲間、愛する者がいるのであれば絶対に虚無(ニヒル)の王は復活させないでもらいたい。この本は私に良くしてくれた最後のプレゼントとなるだろう、それではこの世界の無事を祈っている。


この世界を愛するものより。』


 何を書かれているかはしばらく理解できず、気づけばまた最初から同じページを何度も読みまわしていたが一つだけ理解できる事があった。恐らくアルフ・ローガンが言いたい虚無というものは見えざる扉でもインフィニットでもない、この世界全ての大陸が今後どうなるかを示す単語だったのだ。


「コウジ~何読んでるの~?」

「本当よ、大学でも解読する事のできなかったページをずっと眺めて、あんたひょっとして傭兵を片手間に言語学者でもやっていた訳?」


 彼女達の声が耳に入ってから現実に再び戻されたような、なんだか間の抜けた気分になる。どうも彼女達はこの世界の現状を分かっていないようだ、昨日までの俺と同じである。

 この書物に書かれていた事が本当かどうかは定かではない、だがこの本にも書かれていた通りドラゴンソウルを宿すもののみが全てを読めるのだとすればこの著者が見えざる扉に来た事は信憑性がありそうなものである。

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