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激闘、ドラゴンソウルvsエルフの魔術

『そこにいるのは分かっている、今すぐ光のあった方面に向かってゆっくり歩いてこい』

「お前メラエルか!? どうしてこんな事を」


 メラエルのような穏やかな声とは明らかに違って、耳元でキンキン響くような子供らしい声だったが脳内に直接語りかけてくる人物を俺はメラエル以外に知らない、否、俺はこの見えざる扉に入ってから一人としかまだ喋ってないのだ。


『ん? メラエルって誰だ?』

「違うのか? じゃあお前は一体誰なんだ、姿を表せ」

『ああいいだろう、逃げも隠れもしないわ、だからあんたも逃げも隠れもせず私と正々堂々勝負しなさい!!!』

「勝負だと? 一体お前は何を言ってるんだ?」


 名も知らぬ女の声に動揺が増すばかりだったが、雑木林から出てきた少女の姿を見て目に見えた途端その姿に拍子抜けしてしまう。彼女は見えざる扉の空間を俺より先に破って入っていったエルフの美少女だ。35歳のおっさんにとってこんな少女が一人旅をしているのはとても信じられないが、さっきの魔術の威力を見ていればあの王宮戦士が言っていた通り大学の首席というのも信憑性があるというものだが。


「よう、お前、さっきインフィニットの扉前にいた奴だろう」

「最近のガキは言葉遣いがなってないみたいだな、それはそうとお前もここをインフィニット呼ばわりしてるのか」

「当然、無知共はこの場所を虚無(ニヒル)やら見えざる扉やら否定的な意味でしか捉えないが全く持ってその逆だよ、ここは無限(インフィニット)、つまりは無限でありこの大陸にゴールはないと言われてるわ」


 メラエルとこいつの言っている無限(インフィニット)と呼ばれるこの大陸の事はとても気がかりだったが、俺が知ってる虚無(ニヒル)と言われるこの世界とは真逆の意味の無限。教科書にも載っていて著者はアルフ・ローガンと書かれていたがニヒルと名付けたのはどうも意図的にとしか思えない。


「随分とこの世界に詳しそうだな」

「私はお前達無知な人間と違って生まれながらにしてこの世界に立ち入る事が定めとされていたんだわ、もう情報は入っていると思うけどエルフは次々とこの世界に進出し始めている、勿論私の母もね」

「そうか、お前がその小さい体でこの世界に足を踏み入れた理由は母親の乳を飲むためだったか」

「ち、違うわ!!! それ以上私の事を侮辱してみなさい、お前の命はここで朽ちる!」

「すまんなお前みたいなちんちくりんを見るとついからかってしまう、それで? 俺に用があるからここに来たんだろ」

「ゆ、許せないわ……大学にも居なかったような魔術師が見えざる扉を突破しただけでなくこの私を愚弄するなんて!」

「魔術師? 俺が?」

「私と今ここで勝負しろ! お前にその気が無いのなら一方的に血祭に上げてやるだけだ」

「勝負? 本当に? 人一人でも殺した事あるのかお前? 俺は傭兵をやっていてな、物分かりの悪い不法占拠者共は次々とこの手でぶっ殺してきた、戦いを挑むという事はお前もそれなりの覚悟はできてるって事でいいんだな?」

「うう……だ、黙れ!!! このー、人間の癖に! あんたが私を殺すですって? ふざけるのも大概にしろ! 私以上の魔術師がこの世にいて良い訳がないんだ! それも人間なんかが!」


 勿論人を殺した事なんて一切無いし傭兵にそんな危険な依頼は任されないのだが、脅しは効いたようで小刻みだが一歩ずつ彼女が後ろに下がっていくのが分かる。もし命令されようとこんな子供をぶった斬るのは本望ではない、ここはドラゴンの翼を使って逃げるのが得策かもしれない。


「な、なにも殺し合いだけが勝負ではない! よく聞け、お前と私の最高傑作をぶつけ合って力の大きさを測るのが私達大学式の勝負手段だ。お前もそれに従え!」

「なんだ、てっきり殺し合いかと思ったよ」

「お前達みたいな野蛮人と同じにするな! さあ戦え!」


 少女エルフは構えを取っている、勝手に魔術師と勘違いされているようだが今ドラゴンの力で分かっているのは火炎を放つ事くらいだ。結果的に魔法とそんなに差は無いだろうが、見えざる扉の空間を破った事からすれば威力が高いのは間違いないだろう。


「これが大学最高と言われる最強魔法だ……消滅の日満ちる時、汝に宿す神々の怒り、反逆神に背いたその罪を背中に刻み地獄で焼かれろ、神怒(ゴッドアンガー)……」

「こいつでも食らえ!」


 エルフの魔力が禍々しく空間を歪ませながら翡翠色の球体がゆっくりと向かってくる中、紅蓮の火炎弾勢いを増してぶつかる。その球体の速度自体はあまりにも遅いものだったが、火炎弾とぶつかった衝撃波によって地割れを引き起こされ、鼓膜が潰れる程の轟音が耳に響く。

 気を抜けば今にも吹き飛びそうな突風が俺と彼女を襲っていたが、エルフ女の勝負にのみ集中するその表情を見ているとここから離れる訳にはいかなかった。


 いつ収まるかも分からない二人の放った術はぶつかりながらも小刻みに震えていたが、先に異様な動きを見せたのはエルフの放った翡翠色の球体である。彼女の魔力は大きく揺らぐと後方へ吹き飛ぶ、そしてその球体が運悪く彼女の方へと向かってゆく、慌てて背中から翼を生やすも彼女の場所にまで辿りつく事ができるか分からない。だが迷っている暇は無かった、少女が無残な姿になるのは目に入れたいので思わず目を瞑ってしまったが、両手で抱えていたのは少女であって球体は俺から数ミリの処に止まっている。


「間に合えええええええええ!」


 エルフの魔力を避ける事はできたが、二人の放った術は災害のようにこの森林一体を破壊し尽す。森林から離れようと全速力を出しているが爆風に飲み込まれてしまう程に勢いは止まらず、爆風が収まる位置まで移動すると森林を抜けていた。


「ここは?」

「えーい放せ! 放せ!」

「ああ、すまんな」


 エルフから手を放すと逃げるように少女はその場から飛び降りる、怪訝な表情を見る限り彼女は怒っているのが窺えるだろう。


「まあ認めてやるわ、確かに私はあんたに魔術対決で負けた、だけどそれもこれも全部ファルステッドの杖が無かったからと言える筈だわ」

「ファルステッドの杖……?」

「そうよ、杖は詠唱も無く時間がかからないから実戦に向いているのが特徴だけどその分威力は弱いわ、それでもファルステッドの杖は伝説の魔術師ファルステッドがドラゴンに殺される前に最大火力の魔力をその杖に託して、このインフィニットのどこかに隠したといわれる伝説の杖よ」

「詳しい事はよく分からんが詠唱を使わなくてもいいのなら杖さえあれば俺でも魔術を使えるって事なのか? それなら魔術師が自分で魔術を使う意味ってあまりないんじゃ」

「黙れっ!!! それは全エルフに対する冒涜だー!!!」

「す、すみません」

「とりあえず私はそのファルスッドの杖を持ち帰ろうと思うわ、ついでにインフィニットにいるドラゴンを抹殺できれば何よりだけど、ファルステッドの代わりに私がヴァルガ・ミラードをこの手で殺してやる」

「ヴァルガ・ミラード……?」


 ドラゴンという言葉を耳にした時は一切気がかりな事は無かったが、彼女の言った一言が原因で一瞬にして脳内麻薬が引き起こされる。彼女が話した事への何らかの反応なのかドラゴンソウルが反応したのが体内に伝わる、ヴァルガ・ミラードは俺に宿る老いたドラゴンだ。胸の鼓動が早まってくる、この明らかな異常はヴァルガ・ミラードが伝説の魔術師を殺したという事の証明なのだろうか、もしその可能性があるのなら真実を話せば俺が標的になる可能性がありそうだ。


「どうしたの? あんた顔色が急に悪くなったわね」

「ああ、さっきの戦いでちょっと疲れてな」

「そう、まああんたがインフィニットに来た理由も聞きたかったけど休憩が先に必要みたいね、あそこを見てみて、町があるわ」

「おお本当だ! って、お前俺と同行する気なのか?」

「なによ、不満なの? あんたと私は一緒にインフィニットを入った仲でしょ、それにこんな美少女があんたと旅の仲間になってやろうって言ってるのよ、むしろ感謝されてもいいんじゃない?」

「はいはい、そうですね……」

「分かったならいいわ、そういえばまだ名乗ってなかったわね、私はマリス・アルヴァーン、気軽にマリスと呼べばいいわ」

「俺はコウジ・メイルンだ、コウジでもなんでも好きに呼んでいいぞ」

「コウジ、変わった名ね……ひょっとして異世界から転移した訳じゃないわね?」

「この名を付けたのは親父だ、だからもし転移してるなら親父がそうって事だろ、生まれた時にはもう親父はこの世界から消えていたそうだがな」

「それはお気の毒に……」

「いや別にいいんだ、顔も知らねえ親なんざいてもいなくてもどっちでも同じさ」


 自己紹介をした事でマリスとは大分打ち解けたような気がした、彼女は勉学に励むあまり外に出る機会が少なく傭兵の仕事について珍しくも関心を持ってくれたみたいだ。彼女とは会話を続けながら町にまで歩いて向かう事にした。

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