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魔術大学のエルフ

「あんた達全員でやっても駄目なんて、人間の力も大した事ないのね」


「なんだ貴様っ!?」



 突如として現れたのはこの騒音が響く戦場のような場所にふさわしくない長髪美少女である。しかし彼女は人間ではなくエルフだ、俺もエルフを生で見るのは初めてだがその美貌と共に自信に満ち溢れた鋭い碧眼に金髪、王宮戦士のほとんどを魅了しているのは間違いない。そのエルフは右手を前方につきだすと同時に口を開く。




滅亡(デストラクション)……」




 大昔だったが魔術大学が街の中央にあると聞いた事がある、そこは各魔術高校での精鋭達がスカウトのみで集められる選り抜きの大学である。毎年300人程しか入学はできないにも関わらずエルフの割合は9割、他種族が1割なのに対して人間は毎年1人入れれば新聞の一面になる程だ。


 俺は生まれながらにして魔法を使えない事を気にした事は無い、なぜなら人間は魔法には向いておらず、その大学の周辺にある街自体が人間側の領土だからだ。つまりはエルフが集まる魔術大学が強力とはいえ、結局この大陸をものにしている王は俺と同じヒューマンなのである。


 だがこの光景を見れば誰しもが魔法に対しての興味、否、脅威を感じ取る事ができるであろう。


 空間が歪む様な感覚がしたその瞬間、大砲でも数ミリの穴すら空けることができなかった空間に、大きい穴がぽっかりと開く。




「それじゃあごきげんよう人間の皆様方」




 エルフはそう言うとどういう原理なのか空を飛び、彗星の如く現れた後疾風のように見えざる扉の中にへと去っていく。王宮戦士達もそれに続き、エルフが入った空間の穴に足早に入ろうとするも、この要塞に近い空間は、彼女が入った直後に元の状態にへと修復される。




「一体どういう事なんです!? 大砲でも空かなかった空間に何故魔術ごときで穴を空けることができるのですか!?」


「それはお前の考えている魔術が人間が放つものだからだ、お前は見た事があるのか? エルフが放つ本気の魔法を直で」


「いえ……たった今見たのが初めてです」


「それも恐らく彼女はただのエルフではない、本来何百年もの鍛錬を重ねて入学できるウェスポンド大学を人間が大学を受けるわずか17歳で合格し、たった1年在学期間を飛び級で卒業した幼いエルフがいると聞いた」


「ていう事はまさか彼女があの……?」


「その通り、彼女はウェスポンド大学の首席、つまりその年の学生で最も強力な魔術を使いこなすという少女の筈だ」


「なるほど……だからあんなに子供染みた顔をしているのですね、エルフは18でもあんなに若いんだな……」


「お前にやにやしててきもいぞ」




 王宮戦士二人の話を聞き驚きで目を見張る。世の中は俺が思っていた以上に広かったようだ、それも見えざる扉の中だけではなくこのモーガン大陸内でもあのような化け物が存在するという事が何よりの驚きである。大学の首席くらいしか入る事が許されない見えざる扉の中に、この俺がもし入る事ができるのならばこのモーガンロール大陸全域で噂が広まる事は間違いないであろう。目立つのは王国最強の才能があるともてはやされた少年時代のあの頃と重なる部分があって緊張感が漂う。


 ドラゴンは言っていた、『火炎弾を口から吹く事もできる』、つまりはドラゴンソウルが今体内に宿っている以上、俺にもその力が備わっているであろう。それに感覚で見えざる扉に火炎弾をぶつける想像が容易にできた。




 右手に火炎を浮かび上がらせる、決して熱さは感じないがドラゴンソウルはエネルギーとなって体外へと放出させる。少しずつ放出した後、右手の火炎弾をボールのように投げ放つ。この一発で長年の夢だった見えざる扉の中に入るという事が叶うのならば、それに越した事は無い、後は祈るだけだ。


 火炎弾は空間にぶつかると同時に大爆発を引き起こす、俺のみならず周りの連中も巻き込むかのように火花があちこちに飛び散った。




「「「あちっ! あちっ! あちっ!」」」


「大丈夫ですか? 」


「てめえ、よくも……あ、穴が!? 穴が空いている!!!」




 思わず心配して王宮戦士達に声をかけるが、強行した事もあってか狙った空間には見事に人一人分が入れる穴が空いていた。つまりは成功、大砲でも空く事がなかったこの空間にこの俺が放った火炎弾によっては穴が開いたのだ。




「よ、よっしゃあああああああああ!!!!!」


「バカ! 入れ! 早くしないと扉は閉まるぞ!」


「うっ……」




 背中から翼が生えるまでには少々時間がかかる、これなら何も考えずに扉の方まで走った方が良かったんじゃないかという後悔が脳裏をよぎる。空間が徐々に戻り始めだす瞬間を目に仕舞いと思わず目を瞑ってしまう。




「間に合ええええええええええっ!!!」




 目を開くとそこはモーガンロール大陸と見えざる扉の壁を分けるよう生えていた草木、そして前方にはただ雑木林が終点が見える事なく先まで広がっている。俺は間に合ったのだろうか、先程まで聞こえた騒々しい声が聞こえない事もあって確信が持てなかった。


 腰を上げ王宮戦士の元へ少しずつ近づいていく、しかしある程度近づいた処で頭に固いものぶつかり、衝撃で体は後ろに跳ね返される。




「いててて、間に合ったんだな……」




 その光景を見ていた王宮戦士達が激しく叫んでいるような身振りを見せていたが、この空間からは彼らの声が一切届く事が無かった。


 再び右手の上に火炎を宿す、この先は人間が全くいない筈だ。憧れだったモーガンロール大陸の境にいる王宮戦士達をここに連れ出し、旅を共にするのが心強い。




『待つのです、そんな事をしてはいけません』


「だ、誰だ!?」




 突如として頭に聞こえてきたのは少し年を取ってそうな女性の声、首を振り回し辺りをを見回すもそこには誰一人おらず、生物すら見えないでいた。




『私はメラエル、ここから何十キロも離れた場所にいますがあなたが今やろうとしている行為はこの世界において極めて非道な行動』


「何故だ? 俺だってこの空間に穴を開けて侵入しただろ」


『あなたは正式な手順を踏んでこの地に立った、侵入したなんてとんでもない事です、あなたは許された存在なのです』


「つまりお前はこの場所が自力で空間に穴を空けた者のみ許可されるものだと言いたい訳だな?」


『分かってもらえますか? もしそれでも続けるというのならメラエルの罰があなたを待ち受けています』


「冗談じゃない、罰は嫌だ、この場所に規則のようなものがあるなら俺はそれに従うまでだ」


『物分かりが良くてとても助かります、それともう一つだけ。ヴァルガが起きたらメラエルがよろしく言ってたと伝えてもらえますか」


「何!? あんたあのドラゴンの事が分かるのか!?」


『分かりますとも、彼は遥か昔彼はこのインフィニットの王でしたから、彼とはよくコーヒーを飲んで話し合うこともありました』


「インフィニットって俺達で言う処の見えざる扉の呼ばれ方か? 俺が住んでいる大陸はモーガンロール大陸と呼ばれていて、この踏み入ることができない大陸は見えざる扉と呼ばれている」


『ええ知ってるわ、あなた達が住む世界の事はここによく来るエルフ達が語ってくれますからね、それともういいかしら? 扉に指一本触れない事を誓って後ろに下がって頂戴、私も遠方からあなたに言葉を届けてるから疲れるのよ』


「ああ誓うよ、ゆっくり休んでいてくれ」




 先程まで喜んでいた王宮戦士達は気が付けば見えざる空間を両手で叩き、何かを期待する眼差しでこちらを見ていた。心苦しい限りだがここはメラエルの言う通りに、彼らを無視して先を進む事にする。


 力を持つ者のみが許されるこの地、彼らなりにルールがあるのであれば俺はそれに従うしかない。




 見えざる扉の空間を破りまだそれ程経っていない頃だ、辺りに見えるのは緑に広がった雑木林である。ドラゴンの力を使い飛べばこの森林は容易に抜けて全方位を見渡す事ができただろうが、長年未知だった見えざる扉の世界が一望できてしまうのはあまりにあっけないものだ。




 しかし、そうは言ったもののあまりに出口らしき道が見えなかったためそろそろ飛ぼうかと考えていたが、遠方から僅かながら光が見えた。きっとあれがこの森林の出口だろう、そう思いながら歩いたが徐徐に歩を進めていくと光に近づいているのは自分ではなく、光そのものからだという事に気付く。


 わずか数メートルまで近づいた処でその光の正体が魔法のようなものだという事に気が付いた。咄嗟に地面を蹴り体を後ろに飛ばす事によってその光は紙一重で回避する。




 その光が魔法だという事に確信づいたのはそれから直ぐの事である、その光は宙に浮かび続けると木にぶつかり大爆発を起こす。爆風で数メートル程吹っ飛ばされたが幸いにも怪我は無い、そして森林は燃えず、ただ地面には巨大な穴と違和感を覚えるような何十本もの消えた木という痕を残して光は消滅する。

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