死の恐怖
それからしばらく同じように訓練が続いていった。時間が立つにつれてチームワークも向上していく。しかし、同時にチーム内での強弱関係が現れ始める。
――頼れる強い者
足を引っ張る弱い者――
チームワークが高まるにつれてそれぞれの立場が決定していく。弱者。おそらくそれが秀に付きまとう立場である。
「おはよう!」
挨拶はコミュニケーションをとる上で大切である。しかし取りたくとも誰からも返事が返ってこない。
秀は虚しさに溢れる。それを救う空気はここにはない――ここに秀の居場所はない。しかし逃げる道もない。ただそこにあるのは絶望へと向かう一本の道だけだ。
その日もそんな絶望から始まった。
その日はより強い敵を相手にするために裏山の奥へと進んでいった。普段裏山にそこまで強い魔物はいない。何故ならば強い魔物は王国正規軍の訓練のために狩られてしまうからである。その襲撃から逃れるために多くの優等種はその生活を夜行性へと変えた。それ故、昼間の裏山に強い魔物はいない。
しかしそれは誤謬であった。
油断が故、フィーネさえもその気配に気づけなかった。
フィーネの一隊は茂みの中をひっそりと進む。
その近くに黒い影が差す。
「アルフィウス!」
秀はその影に対してとっさに叫ぶ。
「うぁぁぁぁぁぁぁー。」
彼の悲鳴が森中に響き渡る。
視線の集まった先には熊のような狼のような魔物が彼の肩に噛みついている光景があった。
恐らく肩は砕かれているのであろう、辺りに鮮血が飛び散っている。必死に振り払おうとしたが全く動じない。
ついには魔物は彼の肩を噛みきった。
彼の叫び声が森中にこだまする。秀たちは咄嗟に陣形を整え、反撃の構えに出る。
「ハンズバインディング」
フィーネの十八番の拘束系魔法が発動される。しかしそれはいとも簡単に切られてしまった。
他の四人もそれぞれ魔法を発射するがどれも避けられ無傷に終わる。それどころか魔物が反撃をしてくるため今は一方的な防戦になっている。
「みんな、どいて!」
四人が戦っている間に一人詠唱していたフィーネが叫ぶ。
「ハードバインダーズ」
拘束系魔法の上級魔法を発動する。
その魔法は、少しの時間であったが確かに魔物の動きを止めた。
「スプリングソード」
フィーネかその隙を逃すはずがない。フィーネは持っていた剣を振り、風となった刃が魔物に斬りかかる。
完全に絶命とまでは至らないがそれでも確かに傷を与えた。魔物が立ち上がるまでに残りの四人もそれぞれの持つ最強の魔法を敵に浴びせた。
しかしその姿を見て皆は唖然とした。
魔物は満身創痍であるがその獰猛な殺意を余すことなく攻撃主に打ち付ける。それは皆がたじろいでしまうほどに。
「撤退!」
フィーネは本能からか支持を送る。
四人はそれぞれの後方にステップする。
皆と同じように秀が動いたときヤツは動いた。
ほんの少しであるが秀が地面から浮いたタイミングを見逃さなかった。魔物は噛みつこうと一気に間合いを縮める。秀は咄嗟に剣を一振りし、回避を試みる。しかし避けきれずにその爪が体を引っ掻く。
さらに秀はバランスを崩して倒れ混んでしまう。
魔物は仕留めたことを確信したかのようにゆっくりと近づいてくる。
そのとき秀は死を感じた。自分の生死を目の前の魔物に握られているように感じた。
「スプリングソード」
間一髪。秀と魔物の間に刃が走る。魔物は咄嗟にそれを避けるために秀と距離をおく。その隙に秀は距離を取ろうと試みる。しかし引き裂かれた体を見てか、それとも目の前の脅威に恐怖してか、体に力を入れることがかなわなかった。
そんな秀を悟ってなのかフィーネは秀の目の前に障壁をはる。
その障壁も次の瞬間体当たりによって砕かれるが攻撃するには十分な隙だった。
「総攻撃!」
フィーネの指示と共に魔法の雨が降り注ぐ。
魔物は抵抗を試みたがそれは叶わず地に倒れ伏した。しかしどこからその活力が来るのか、それとも本能なのか立ち上がろうとする。
「秀、止めを。」
「あぁ。」
秀はその刀を深々と差し込む。
その刀には動けなかった自分への情けなさ。それをもたらした敵への怒りなどで強く突き刺さった。
その一撃で魔物は完全に絶命した。
「アルフィウス。」
フィーネがその名前を呼ぶが返事は返ってこない。ほんの少し前まで生きていた人間が今では帰らぬ人となってしまっていることに秀は生命の儚さを感じさせられた。
その日はアルフィウスの骸を安置し寂寥感を胸に山を下りた。
後拝読有り難うございました。
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次の更新は1月28日22時です。




