まだそれを知らぬ者
「シュウ、そこ、前に出て。」
秀は前方に跳躍し、目の前――ゴブリン……的な敵の真上から剣を一筋お見舞いする。
同じように指示が出て残りの4人もそれぞれゴブリンモドキを倒していく。
その指示を出しているのはもちろんフィーネだ。フィーネは秀たちとは少し離れた場所で指示を出している。普段なら指揮官は本部で作戦の指示を出し、戦闘での指示は班のリーダーが出すのだが訓練ということで今の指揮官との距離はこの近さである。実質今後は訓練なので一緒に戦うのだが。
「ではそれぞれ狩ったゴブリンは教官のところまで持っていくように。」
この敵の名前はゴブリンでよかったらしい。
この訓練校では生徒たちの狩ったモンスターが収益の大部分を占める。そのため狩られたゴブリンたちはそろって教官送りとなる。
訓練だから……といった理由で殺されるなんてゴブリンには少しだけ同情してしまう。
(引っ越せばいいのに)
そうもいかないところはゴブリンの事情と言ったところか。
「ふぅ…。」
秀は軽く息を吐いてゴブリンの重たい体を持ち上げる。
秀は颯爽と自宅へ戻っていくフィーネの後ろ姿を見た。やはりその姿は秀の目に美しく映った。
翌日、秀たちは訓練校に程近い裏山的な場所で訓練を行った。
「今日は魔法を使って敵を倒す訓練をします。」
もちろんまとめているのはフィーネだ。歳は秀と同じほどなのにこの班で最年長のアルフィウスよりも堂々としている。さすがは貴族と言ったところか。
ちなみに秀もこの世界に来てからいくつかの初級魔法を覚えなんとか使えるように猛特訓したのであった。はじめて使えたときの感動は一生ものであった。その時はいかにも”異世界”感を味わったのだった。
一行はフィーネを先頭にどんどん進んでいく。
進んだ先に秀たちは二体のゴリラのような魔物を見つけた。
「あそこのゴラーリを狩るわよ。」
そう小声で言ってゴラーリを囲むようにと支持をだす。
聞くと同時に行動に移る。
これ軍人の鉄則。
秀も任された場所へ足早に向かい、茂みの後ろに身を隠した。
秀は準備ができたとサインで伝える。
フィーネの表情も軍人のものに変わる。
すべてのポディションで準備が終わったことを確認し、フィーネは魔法のトリガーを引いた。
「ハンズバインディング。」
フィーネの魔法でゴラーリたちは地に捕らわれた。
「一斉攻撃!」
フィーネの指示とほぼ同時に茂みから立ち上がりゴラーリに向けて手をかざす。その後1拍をおいて次々に魔法が発動される。
「エアーズカット!」
秀も魔法のトリガーを引く。秀の攻撃は片方のゴラーリの首筋に当たりそこに切り込みを入れる。ただまだ致命傷と言うには程遠い。周りを見ると他の皆は魔法でゴラーリを蹂躙していく。
そんな同胞たちの猛攻を浴び、ゴラーリたちは瞬く間に絶命していった。
「ターゲットの死亡を確認。」
「撤退。」
フィーネの指示と共にゴラーリへの集団リンチが終わる。
「では、次のポイントまで移動します。」
フィーネの口調がいつもと同じ優しいものに戻った。
その後もおなじような戦闘が続き夕日が横から照らしてくる頃合いとなった。
「これで本日の訓練は終了です。 後は倒した魔物を持ち帰るだけです。」
秀は軽く息を吐くと仲間と共に山を下りた。
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次話の更新は1月21日です。