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ファイナル リベルズ  作者: KD
始まりは底辺から
5/19

己の存在価値

「人の言葉に耳を傾けることは大切である。どんなに無駄な話だとしても多少は自分と違う価値観に出会うことができる。時にその助言が俺のように底辺から這い上がるきっかけとなるかもしれない。もし他人の助言を聞き流しているのならばそれは人生において損である。」

                  稲原秀 「回顧録」

「私がナイトベル=フィーネです。」


目の前の美しさを纏った少女が語る。


ナイトベル家、王国有数の指揮官の一家。代々王国軍の司令官を勤めるお家がらである。目の前にいるのは秀と同じくらいの年の少女。そんな少女でも指揮官という立場にあるのはその家柄が由縁であろう。


秀は彼女を眩しく見上げる。彼女はそこに存在するだけで敬愛の目で見られる。秀とは真逆の存在だ。


「今日の訓練を始めます。」


今日の訓練は陣形の確認やそれぞれの役割を割り当てることに費やされた。秀の役割は……形骸的だった。しいと言うなら邪魔にならないことが秀の仕事だった。秀は頼られないことに空虚感が立ち込めた。


責任を持つこと……秀はこれを自分が縛ることを恐れ、それの拘束から逃れることを夢とみた。


しかし、……今はそれを欲する。確かの今も逃げたいことには代わりない。


ただ、昔はそれが頼られることに繋がると分かっていながらも理解できていなかった。


しかし、今は違う。それを身をもって体感している。


責任……昔嫌ってたそれは今では欲すれども手に入らず。秀は今、それがほしいと切に願う。ただそれは秀の予想よりも遠くにあるものであった。





帰り道、背後を照らす夕焼けがやけに寂しさを増大させる。ついに決壊したそれは秀の目頭をオレンジに映つす。


「あぁ…………何でだろう。

  何で俺だけ…………。」


何度目かわからない思いため息をついた。


秀は意味もなくいつもとは違う道に入る。いかにもスラム街のようである。そんな辺鄙な光景が今の秀には似あってみえる。目指す場所もなく、なんの意味もない。まさに秀の今を具現化している。


「少年よ。そこの少年よ。」


気づくと後ろから声が聞こえる。そこには初老の爺が座っていた。


「俺のことですか。」


老人はゆっくりと頷く。


「お前の顔がやけに元気なさげであったからな。

  なんか悩みがあるんなら聞いてやるぞ。」


秀は少し迷ったが溜め込んでいたやり場のない気持ちを打ち明けることとした。


秀はこれまでの経緯を克明に話した。老人はゆっくりと頷きながら話を聞き、全て話終わるとゆっくりと口を開いた。


「やはり……お前の目には野望が宿っておらぬ。

人間というのはお前の思っている以上に罪、穢れている存在である。お前はそれから逃げている。それがないということは…………つまり…………人間ではないと言うことだ。」


最初はその意味が分からなかった。しかし、確かに秀は今、何かを望んでいない。否、それを望めるほどの余裕がない。


今……俺は……人間ではない?


では俺は何者だ?


もう何度目かわからない思考回路の破綻へと誘われた。


「無いなら今から探せばいい。」


秀の心情を察したのか未来を見せる言葉をかける。


老人はさらに言葉を重ねる。


お前の存在価値(アイデンティティ)を見つけるには自分自身ときちんと向き合う必要がある。」


言外にお前にはそれができるかと老人は尋ねる。


「最後に一つだけワシからの忠告をしておこう。」


秀は唾をのみ真として聞く態度を示す。


「お前はどうやら無理をして高望みすることがある。それはおそらく他人を思ってが故であろうがそれが自分さえも窮地にさらす危険を十分に孕んでいることを確りと留意しておけ。この世界では親切さは道具にすぎない。時には他人を見捨てることも厭わない覚悟も必要だ。」


そう言うと老人は思い腰を上げて歩き始めた。


「達者でな。頑張れよ。」


そう声をかけてゆっくりと去っていった。


「有り難うございました。」


秀は深々と頭を下げ礼を述べた。いくらか気持ちが軽くなったような気がする。


「よし、明日も頑張るぞ。」


そう呟くと夕日に向かって軽快に駆け出していった。


後拝読有り難うございました。


次回から本格的な訓練の話に入ります。作品を書いていて、もっと上手に文章を書けるようになりたいという願いが切実になっていくのを感じます。


誤字脱字、文章の不具合等ございましたらご報告下さい。


次話の更新は1月13日22時を予定しております。

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