その理由
二人が次に目覚めたのは、もう日も傾き始めた頃であった。
二人の会話はどちらからともなく始まる。
「ねえ、シュウ。どうして私たちがこうなっているか分かる?」
「いいえ、全く見当がつきません」
「私も詳しくは分からないけれど、どうやら私たちは世界に嫌われたみたい」
「それは…どういうことですか」
「王国は…忌者狩りを始めたの。王国仇なす存在になり得る人を先に捕まえておくっていう」
それを聞いて秀は今、ものすごく理不尽を被っていることを自覚した。
「そんな……俺にそんな気なんて」
「そんなもの私もよ」
フィーネの叫びが空間に響く。
「私が……私が何のためにこんなに努力したっていうの」
「全ては国民のみんなが安心して暮らせるようにって、それだけのためにここまで頑張って来たのに」
もう既にフィーネは涙声になっていた。
秀はここで無責任に声をかけることが出来なかった。なぜならフィーネと同じだけの年月を同じだけの努力で埋め切れていなかったからだ。
もし俺が勇者のように強力な力を持っていたらフィーネを助けられていたのに。
それは叶わぬ願であった。しかし届かぬ願ではなかった。
「おい、救援を要請しろ」
「もうこれ以上はもたんぞ」
「なんだこいつは」
「忌者狩り反対派の襲撃か」
急に上のほうが騒がしくなった。
「何があったんだろう」
「さあ、分からないけど大人しくしておくのが賢明そう」
すると唐突に牢獄が爆ぜた。一瞬何が起こったのか分からなかった。しかし上を見上げるとそこには空が見える。
「うちの娘を泣かせるとはなかなかいい度胸をしてるね」
空から声が下りてきた。
「父上」
フィーネがその顔を見て叫ぶ。
「君たちに話したいことは山々なんだが生憎そうはさせてくれそうにないねえ」
手をかざすだけで襲おうとした一人の男を吹き飛ばす。
「それじゃあ空の旅へ出発」
そう言うと二人に魔法を掛けて宙に浮かせた。足が地面から離れたと思った瞬間急上昇を始めた。
「「わぁぁぁぁぁ」」
絶叫マシーンもいいところというほどの速さで空を舞う。
しかし途中からは速度も落ちて何もない草原に降り立った。
「はぁ、怖かった」
フィーネの目元は少し濡れていた。あの速さはさすがにこたえたらしい。あれだけフィーネを泣かせたと言っておきながら一番泣かせたのはお父さんではないですか、秀はそう強く思った。こうしてみるとフィーネも軍人ではなく普通の女の子だ。
「お待たせ」
そう言ってフィーネの父、ファラウスも空から下りてくる。
「他の捕まってた人は」
フィーネが間髪入れずに問いただす。
「とりあえず逃げれる状況にはしてきたから逃げたい人は逃げたんじゃないかな」
「ありがとう」
秀はここでもフィーネの優しさに触れる。彼女の言っていた国民のためという言葉は既に疑う余地すらも残さない。
「ところで家の娘を泣かせてくれた君は…」
いや泣かせてねーよ、むしろ泣かせたのはあんただろ。という言葉を抑えて丁寧に話す。
「秀、稲原秀です」
「イナハラシュウ。うぅん、。聞きなれない名前だなあ」
この世界の住人にとって日本人の名前はなじみのないものであろう。
「シュウでいいです」
「そうか、ではシュウ君。フィーネを泣かせてはだめだぞ」
だから泣かせてないって。
「はい」
彼は一応命の恩人、彼に逆らうことはできなかった。




