腹心と野心
「彼、ガバドール氏は言っていた。
何のために強くなるのか、それは己の欲望を実現するためだ。」
稲原秀「回顧録」
「防衛組早く最前線へ。」
反乱軍の到来に王都は揺らいでいた。実は刃は近くにあった、それが王国最大の失敗だった。王家の腹心、ガバドール氏。彼が今回の首謀者だった。王国の彼への信頼も人望も厚かった。今思ってみればそれも演技だったかもしれない。しかしその信頼が仇となった。信頼の厚さが故に彼への警戒が甘かった。あの人がやるわけがない。それが皆の共通見解、それが招いた惨事がこれである。市民は逃げ惑いあちらこちらから火の手が上がっている。もう既に最前線は王都に接続する西門である。これ以上は下がることも許されない。
彼ら防衛軍は死闘を繰り広げていた。もう既に半数以上が敵に殺された。武友を失ったそんなこともう茶飯事を通り越す。彼らは文字通りその身の全てを掛けて王都が地獄と化すことから守っていた。
「突撃。」
首謀者がガバドールの指示で人の波が押し寄せる。
「我らの明日を掴み取るぞ。」
「オォー」
ガバドールは元王国軍最高指揮官であった。
彼がその職を捨てたときは王国中がざわついた。
彼は実に有能な指揮官だった。
今戦っている人の中にも彼の指示の下戦ったことのある人も少なくない。
そして最強の軍人でもあった。彼に負けという言葉は似合わない。かつて人々を困らせた巨大な魔物も、王都に根付いてしまった裏組織の壊滅も、人々の望むことに全て成功を修め、治安の維持に貢献していた。彼を目指して軍に入った者も少なくはないだろう。
そんな正義のヒーローが今は凶悪なボスモンスターと化している。
遠くの火の手に向かって走る秀は目にはいる惨事に胸を痛めていた。
「くそっ、俺たちの寮舎が、学舎が。」
完全に壊されていた、否消えていた。
秀の中には怒りと恐怖が共生していた。
怒り。何でお前らはこんなことが出来るんだよ。お前らには良心が無いのかよ。
恐怖。そんな奴らを相手にするなんて生きて帰れるだろうか。
しかしこれが戦争というものである。
<奪わなければ奪われる>
それが戦争の摂理である。
これらのことはその摂理からは外れていない。しかし明瞭にこの事が秀の心を蝕んでいた。
まだ覚悟もままならない時、秀たちは西門に着いた。そのすさまじさは遠目でもわかるほどだった。
「一旦正門から入りその後王都の中で本隊と合流します。」
確かにこのまま、感情のままに突撃しても新たに五人の犠牲が増えるだけだった。
秀たちは敵に見つからないように且つ全速力で走った。しかしそこまでうまくいくことはなかった。
「ウッ」
ドスンといって一人が倒れる。どうやら脚に深々と矢が刺さっているようだった。
「ディルター」
誰かが叫ぶ。そこへ次々に矢が飛んでくる。
「早く行ってく」
「ディルター」
彼の言葉を遮り、遠方からの矢はディルターの心臓に深々と刺さった。
「動きましょう、早く。ここは危険です。」
フィーネの指揮官としては指示の最適解であると秀は理解していたが心の奥ではフィーネの冷たさを感じていた。
フィーネ班、残り4人。もうこれ以上は人の死に様を見たくはない。
しかし人を殺すことに禁忌感を覚えないあいつらは許さない。
自身が微力であるのを忘れ、闘志を燃やす秀であった。
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次話の更新は2月18日22時です。




