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唯と一緒にそっと皐月の部屋を覗く。女の子の寝顔を見るのは罪悪感があった。一人で行く勇気はなく、唯についてきてもらったのだ。はるはベッドから身を起こし、ボーっと窓を見上げていた。きっと、本人のいない部屋でどうしたらいいのかわからないのだろう。俺たちが部屋に入るとはじかれたように、俺たちを見る。
「はるちゃん、調子はどう?」
「おかげさまで、ずいぶん楽になりました」
さっきよりも、顔色もいい。声にも力が入っていた。
「それはよかった」
「何か欲しいものはあるか?」
「大丈夫です」
はなは小さく首を振る。
「じゃあ、何があったか聞いてもいいか?葉那じゃあ、話にならなくて」
「涼っ!!」
唯が咎めるような声を上げる。
「岩城君、大丈夫ですよ。簡単に言えば、そうですね。……裏路地にある雑貨屋さんの帰り道に、ちょっと知らないお兄さんたちに捕まってしまったんです。お兄さんたち乱暴で、葉那さんを逃がそうとしてこうなっちゃいました」
はるは少し考えながら言う。心配かけまいとしているのだろうか。言葉尻は茶化されている。
「どうして、一人で立ち向かったんだ?」
聞かずにはいられなかった。どう考えたって、日頃のはるからは想像できない。
「人通りのあるところじゃなかったですし、それに……狙われていたのは葉那さんでしたから……」
だから、葉那を逃がすことを優先したのだと、はるは言う。
「そいつらはどうしたんだ?」
「……わかりません。阿南君を見たら、すぐに逃げていきましたら」
「そうか」
はるは少し困った様子だった。これ以上は踏み込まれたくないようだ。それがわかると、これ以上は聞くことができない。聞いたとしても、頭のいいはるのことだ。上手く誤魔化されてしまうだろう。
「で、はるちゃん、葉那を泣かせた責任、どう取ってくれるんだよ。怖いお姉様に叱られるじゃんか」
俺の話が終わったのを悟ったのだろう。唯は言った。はるはスッと目をそらす。
「葉那さんを泣かせてしまったことは謝ります。あんなに葉那さんが泣くなんて思っていなくて」
それもそうだろう。俺たちだって葉那があんなに泣いたのを見たことがなかった。でも、仕方がないかもしれない。はるは、葉那の大切な友達だから。
「一人で立ち向かうのを危険だと思わなかったのか?」
さらに唯は続ける。はるはキッと唯を睨みつけた。
「私だってみなさんと同じ様に葉那さんが大切なんです。葉那さんを守りたかったんです」
それで泣かせていたのだから、本末転倒なのだけれども。そして、はるは爆弾を落とした。
「そう言う岩城君は、その怖いお姉様に会いたいんじゃないです」
唯が肩を落とした。
「あのさあ、はるちゃん。察しが良すぎるのもどうかと思うよ」
俺は驚くしかなかった。俺たちとはるが知り合って、一緒に暮らすようになってまだ2ヶ月。それなのにどうして。
「前も言いましたよ。目を見ればわかるって」
唯はぐうの字も出なかったようだ。傷だらけの痛々しい姿でも、はるははるだった。




