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「葉那さん、悠です。入ってもいいですか?」
小さなノックが聞こる。続いた悠の声に、葉那はそっと扉を開いた。
「涼君は?」
「向こうで片づけをしていますよ」
顔を扉から出した状態で聞く葉那に、悠は苦笑する。
「入って」
そして、悠のためだけに扉を開いたのだった。
「はるちゃん、なんでみんなに言ったの?ああなるのわかってたんじゃないの?」
ベッドに並んで座ると、葉那は恨めしそうに口を開いた。
「隠し通せるわけないですよね。始めてしまえばいいってわけでもないの、葉那さんもわかっていますよね」
悠は諭すように言った。悠の言い分がわからない訳ではない。だからと言って素直に頷ける訳でもなかった。
「葉那さん、どうして空手部に入りたいんです?」
悠は聞く。
「……私ね、強くなりたいの。この前みたいなことがあった時、私だけが逃げるなんて、そんなのもう嫌」
葉那の気持ちがわからないでもない。しかしだ。お姫様になるんだと言い出す前は、色々やって来た悠とは違う。
「葉那さん、葉那さんはそのままでいいんですよ。戦えることだけが強さじゃありません。守ることも、癒すことも、時には逃げることだって立派な強さです。そうですね。ゲームで例えるなら、葉那さんはヒーラーです。一歩後ろに下がっていて、仲間がピンチの時に回復してあげる存在です。確かに一番弱くて、みんなに守ってもらわないといけない存在かもしれません。でも、ヒーラーがいなければ、パーティーは全滅いてしまいます。とても大切な存在です。それが、葉那さんなんです。だから、葉那さんは私たちが傷ついた時に、癒してください。それが、葉那さんの強さです」
それにと、悠は続ける。
「葉那さんを守りたいって気持ちが私に力をくれるんですよ」
「……はるちゃんはそれでいいの?」
「ええ。もちろん」
悠は綺麗に笑った。
「じゃあ、空手は止める。変わりに看護の勉強をするね」
「はい。そうしてください」
しばらくして、はるはやっとリビングに戻って来た。
「葉那はなんて?」
皐月がソファーに腰をかけるはるにピーチティーを淹れる。そして、その隣に座った。
「強くなりたいからと言っていました」
「はぁ?」
意味がわからなかった。俺はなんとも間抜けな声をあげる。
「この前のことが堪えた様です」
「ああ、それでか」
「人には適材適所ってものがあるだろ」
皐月も唯もそれで納得できた様だ。俺が吐き捨てる様に言った言葉にはるは頷く。
「ええ。葉那さんは戦士にはなれません。でも、戦士にはない強さを持っています。今持っている強さの話をしたところ、空手部に入ることは止めることにされましたよ」
はるはずっと冷静だったのかもしれない。この冷静さは間違いなくはるの武器だ。




