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週明け、傷は目立っていたが、それでも、はるは普通に学校へ行った。俺たちに階段から落ちたということにして欲しいと言って。
「ねえ、はるちゃん。部活入らない?」
悠と二人だけになった時、葉那は耳打ちした。
「部活ですか?いきなりどうしたんです?」
「えっと、やってみたくなっちゃった」
葉那はあいまいに笑う。そして、予め考えていた部活の活動場所へ悠を誘う。
『空手部』
そう、書かれたプレートがあった。
「葉那さん、部活に入りたいそうなんです。私はみなさんの夕食があるので、遠慮しようと思っているんですけど」
夕食の席のことだった。突然、はるは言った。
「部活?いったい、何をやるんだ?」
「なんだっていいじゃない」
「空手だそうですよ」
「はるちゃん!!」
ごほっとむせる。それは俺だけじゃなかった。皐月も唯も同じようにむせている。はるはそれを予期していたのだろう。すっと、俺たちの前にお茶を置いた。
「なんでまた……」
他に言葉が見つからない。
「なんだっていいじゃない」
「いいことないだろ。わざわざそんな危ない部活に入ることないじゃないか」
葉那の運動神経は人並みだと思う。運動部に入りたいのなら、他の部活でもいいはずだ。なぜ、怪我のリスクの高い空手なのかがわからなかった。第一、空手なんて葉那には似合わない。
「涼君だって昔、剣道をやっていたじゃない。それと同じよ」
確かに俺は中学では剣道をやっていた。でも、それは、姿勢を良くするためだけだ。
「同じなわけないだろ」
「危険なのは同じよ。棒を持って叩き合うじゃない」
「あれはちゃんと防具を着けている。だいたい、棒ってなんだよ」
「空手だって、ちゃんと防具はあるわ。私、涼君が剣道をやるって言った時、反対しなかったじゃない。なんで、わかってくれないのよ」
バンとテーブルを叩き葉那は立ち上がる。俺と葉那のやり取りを見ながら、唯と皐月はおろおろしている。一方、はるはというと、これも想定範囲だったのだろう。一人、食事の手を止めなかった。
「もう、涼君なんか知らない」
「おい、葉那!!」
葉那はリビングを飛び出した。すぐにバタンと部屋の戸が閉じる音がする。
「はる、どうして、止めなかったんだ!!」
「なぜ、止めないといけないんです?葉那さんはきちんと自分で考えて決めたんですよ。それを、否定する権利はありません。椎名君も、八つ当たりはよしてください」
はるは冷たく言った。八つ当たりでしかないそれは十分わかっていた。俺は言葉を失う。
「でも、なんで空手をやりたいのかは気になりますので、落ち着いたら聞いてきます」




