黒竜山脈
竜。
並大抵の攻撃は通用しない強靭な鱗を持ち、ブレスによって大規模な破壊をもたらす、Sランクの魔物だ。
幼竜でさえ、レベル300~400という圧倒的な力を持つ。
そして成竜となるとレベル500~800という、まさに災害といっていい力を持つようになる。
シャルテ王国の東に黒竜山脈と呼ばれる、数百体の黒竜が生息する山脈があるが誰もそこに行きたがる者はいない。
図書館で本を読み漁る生活を止めた後、俺は数日間新しい火魔法の特訓をした。
それにより、いくつかの新しい火魔法を習得することができた。
『豪炎の勇者』という、昔の勇者が使っていた火魔法について書かれた本を参考にすることにより、強力な火魔法を習得することに成功した。
もちろん、俺の求めていたスピード特化の火魔法も。
昔の勇者に感謝だな。
内容はかなりヤバめだったけど。
万の魔王軍を焼き払い、街ひとつがすっぽりと入るようなデカさのクレーターができる火魔法で、当時の魔王を倒したらしい。
豪炎の勇者は笑いながら、魔王軍を殲滅していたと、この本には記述したあった。
ちなみに、口癖は「とりあえず燃やせばなんとかなる」だったそうだ。
ヤバイね。
豪炎の勇者まじパナイ。
まぁ、俺も同じようなことをする予定ではあるんだけどね。
俺の場合二つ名とかどうなるんだろう。
俺は勇者じゃないから、豪炎の一般人とか?
それは、なんかやだな。
凄いショボそう。
それはそうとして、竜の討伐の準備は整ったという訳だ。
リンデが依頼をこなしてる間に、怪我の回復用のポーション等も買ったしね。
今日の天気は、雲一つない快晴。
今日を逃す手はないだろう。
そう思い、リンデの泊まっている部屋へと向かう。
木製の扉をコンコンとノックする。
入っていいとの返事が帰ってきたので中に入る。
今日も一人で依頼に行こうと思っていたのだろう、リンデはいつもの革装備に着替えていた。
「リンデ、黒竜を倒しに行こうぜ。」
「……コウイチ、今なんて言ったの?」
リンデはそう聞き返してくる。
まるで、今の俺の発言が聞き間違いか確認するかのように。
「黒竜、倒しに行こうぜ。」
俺はリンデにしっかりと伝わる用に、先程より大きめの声でそう言う。
「えっ、……黒竜……?」
「うん、黒竜。準備はできてるんだろ? 早く行こうぜ。」
「り、竜なんて今の私達に勝てる訳ないじゃない! コウイチは自殺でもしたいの!?」
リンデが珍しく弱気だ。
「心配すんなって。ちゃんと勝てるように準備したから。」
俺は『豪炎の勇者』という本を見つけてからの数日間、精神が擦りきれるような特訓をしていた。
冒険者ギルドに併設されている訓練場で新魔法の特訓をしていたのだが、最初の頃は冒険者達が珍しい物を見るような目で集まってきていた。
だか、そんな冒険者達はすぐに俺から離れていった。
MPが無くなってもポーションを飲んですぐに特訓を再開し、またMPが無くなるまで新魔法の練習をするという、俺のあまりの必死さを見て。
「本当に勝てるの?」
「もちろんだよ。この数日間、ずっとそのために頑張ってきたからね。」
それはもう、自分を褒めてあげたいぐらいに。
「それなら、着いていってあげてもいいわ! 洞窟でのこともあるし、なんかコウイチなら不思議と勝てそうな気がしてきたわね!」
「そうか、じゃあ行こうか。黒竜山脈へ。」
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黒竜山脈の近くまでは、王都から出ている馬車で行くことができる。
ただ、行くことができるのは近くまでだ。
どの御者も黒竜を恐れて、近くまでしか運んで貰えない。
なので、ここから徒歩での移動となる。
俺達は馬車の御者に銀貨数枚を渡し、先へ進んだ。
そして一時間程歩き、ついに黒竜山脈へと到着する。
本にも世界最大級の高さを誇る山脈と書いてあったが、めちゃめちゃデカイ。
デカイ、ただそれだけなのだが壮大な景色というのはなぜここまで人に感動を与えるのだろうか。
この大きさの山脈だからこそ、竜という巨大生物が棲みつけるのだろう。
上を見上げると何体もの、黒竜が飛び交っている。
「実際に見てみると、やっぱ勝てる気がしないわ。」
リンデは遥か上空を飛んでいる黒竜を見ながら、不安そうにそう言う。
「実際に戦うのは俺だから大丈夫だよ。怖いなら、リンデだけ逃げてもいいんだぜ。まぁ、逃げたら明日から弱虫リンデちゃんって呼ぶけどね。」
「に、逃げたりしないわよ! コウイチこそ、ホントに勝てそうなの? 今更、逃げるとか言わないわよね?」
「大丈夫、俺が勝つことは確定している。少なくとも百体は倒す予定だからな。」
百体は倒すという言葉に、固まっているリンデをスルーして、俺は黒竜山脈へと足を踏み入れた。