卑怯でもいいじゃないか
まだ日が登りきっていない薄暗い街の中、俺達は歩いていた。
「このカードって便利なんだなー。」
ギルドカードを見ながらそう言う。
先程、ギルドに寄ってスライムの討伐依頼を受けたときに、このカードの説明をされた。
なんと、このカード自動でどの魔物を何体討伐したのかわかるそうだ。
「なぁ、スライムってどこにいるんだ?」
「街を出た先にある洞窟にいるそうよ。」
少し得意気な顔でリンデがこたえる。
その洞窟には、スライムの他にゴブリンやオーク等もいるらしい。
「洞窟かぁー。結構広いのか?」
「かなり広いわよ。数百体は魔物がいるらしいわ。」
多いな。
リンデによると、奥にはゴブリンキングが最深部にはオークキングがいるらしい。
といっても新人の冒険者が、そこまで奥に行くことはないらしい。
しかし、洞窟か。
少しいい案が思いついてしまった。
思わずにやけてしまう。
「何、急にニヤニヤしてるのよ!」
「いやー、ちょっと面白いことを思いついちゃってさ。少し寄り道してから行こうか。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あの後、俺達は少し寄り道してある物を買ってから出発した。
もちろん、武器や防具ではない。
昨日、王城をでる際に鉄の剣と革鎧を貰ったからね。
「はぁ、はぁ……重いわね。何でこんな物買ったのよ!」
息をきらしながらリンデがそのある物を運んでいる。
もちろん、リンデだけでなく俺も運んでる。
「それが必要だからだよ。」
「こんな物、何に使うのよ!」
リンデは訳がわからないといった顔をしている。
まぁ、説明してないからな。
「そろそろ、洞窟につくんだろ? 後少しなんだから頑張れ。」
まぁ、リンデが文句をいうのもわからなくはない。
これを持って、このろくに舗装もされてない道を歩くのはキツいからな。
しばらく歩き、やっと洞窟についた。
「ふぅ、やっとついたわ!」
「よく頑張ったな。リンデならできると信じていたぞ。」
「べ、別に褒められたって嬉しくなんてないんだからねっ!」
リンデがめっちゃツンデレってる。
頬を少し赤らめながらそう言うリンデ。
ちょっと可愛い。
「で、これはどうするのよ?」
苦労してここまで運んできた、それを指さすリンデ。
俺達が、こんなに苦労して運んできたのは油だ。
「ふっ、決まってるだろ?」
「なにがよ!」
「これから洞窟を燃やすのさ。」
俺が考えた作戦はこうだ。
まず、洞窟のある程度奥まで行き、油をばらまきながら戻る。
次に、俺の火魔法で火をつける。
そして、油まみれの洞窟は炎に包まれる。
洞窟にはスライムの他にも、ゴブリンやオークなどの人形の魔物がいるとリンデは言っていた。
人形というなら息をして生きているはず。
つまり炎に包まれた洞窟の中で酸素を奪われれば息ができなくなるはずだ。
こうして楽に経験値を稼げるという、素晴らしい作戦なのだ。
「それってなんか卑怯ね。なんかセコイわ!」
「そんなことは気にするな。
俺達は勇者なんかじゃないんだから、正々堂々と戦う必要はないんだよ!」
卑怯上等!
最後に生き残ったやつが勝者なのさ!
「てか、コウイチって火魔法使えるの?」
そういえばまだ使ったことなかったな。
「スキルはあるから使えるはずだぞ。火魔法ってどんなのがあるんだ?」
「んー、ファイアーアローとかかしらね。」
「詠唱とかはあるのか?」
「私は魔法使いじゃないから、そこまではわからないわ。なんとなくやってみたらできるんじゃない?」
なんとなく、ねぇ。
やってみるか。
「ファイアーアロー!」
火の矢をイメージしながらそう言った。
すると赤い炎で、できた矢が出現し一メートルほど前方にとんで落ちた。
正直いってしょぼい。
でも着火するには問題なさそうなのでよしとしよう。
「さぁ、油をばらまきに行こうか。」
「洞窟に入る冒険者のいうセリフじゃないわね……。」
洞窟の中は薄暗く、じめじめとしていた。
奥に行くほど射し込む光が弱くなり暗くなっていく。
途中、何度かスライムと遭遇した。
プニプニと鈍く動いていたので、剣など使ったこともない俺でも簡単に倒すことができた。
ある程度進んだ所で油を入れた容器を取り出す。
「よし、そろそろ戻るとするか。」
そう言って、俺達は油をばらまきながら引き返す。
「はぁ……、なんで私はこんなことしてるなかしら。」
「それは俺とパーティをくんだからだな。」
そんなことを話ながら進むと、やっと出口が見えてきた。
そんなに時間はたってないはずなのに、外の空気がとても新鮮に感じる。
「さーて、燃やすとするか。ファイアーアロー!」
俺がファイアーアローを放った瞬間、ばらまいてきた油に引火し、物凄い勢いで炎が洞窟の奥へと広がった。
俺達は洞窟の入口からすぐに距離をとったが、ここまで熱風が伝わってくる。
凄い熱量だ。
後は、魔物が炎で焼け死ぬか息ができなくなって死ぬのを待つだけ。
そして、訪れる急激なレベルアップ。
数秒ごとに力がみなぎってくる。
ステータスを見ると凄いことになっていた。
レベルはあっという間に2桁なんて越えていて、凄いスピードでレベルが上がり続けてる。
「ハーハッハッハッ! 力がどんどんわいてくる! くっくっくっ、まさかここまでとはな。」
思わず歓喜の声が漏れてしまう。
テンションも上がりまくりだ。
「もっと、剣とかで戦いたかったのに……。私の夢見てた冒険が失われていく……。」
こんなにも喜ばしいことだというのに、なぜかリンデは悲しそうにしていた。
「なんで喜ばないんだ?」
「もっとこう、苦労してレベルを上げたかったのよ! コツコツ努力してやっと強敵を倒す、みたいなのがよかったの!」
リンデは少し涙目になってる。
俺にはわからないな。
楽に強くなった方がいいじゃん。
そして一時間程たった頃やっとレベルの上昇が終わった。
涙目になっていたリンデも今では笑っている。
レベルの上昇の喜びの方が勝ったようだ。
名前 黒木光一
種族 人間
レベル116
HP1153/1153
MP669/669
筋力1123
防御力926
敏捷931
魔力714
スキル
【鑑定】
【探知】レベル1
【火魔法】レベル2
称号
ついでで召喚された者。
ゴブリンスレイヤー (筋力+30)
オークスレイヤー (筋力+50)
スライムスレイヤー (筋力+10)
レベルは3桁まで上がってしまっていた。
おそらく現時点では、妹より強いだろう。
スライムスレイヤー……スライムを一定期間内に、一定の数倒した者に与えられる。
スレイヤー系の称号はステータスが上昇するようだ。
リンデはどれくらいレベルアップしたのかな?
「リンデ、ステータスを見せてくれないか?」
「いいわよ。」
名前 リンデ
種族 人間
レベル41
HP406/406
MP36/36
筋力415
防御力408
敏捷399
魔力21
スキル
【剣術】レベル1
称号
火を放ったのは俺だからか、リンデはそこまでレベルアップはしてなかった。
「やっぱ上がりかたが異常ね……。1日で40も上がるなんて普通ありえないわ。」
「そうなのか? 俺は100ぐらい上がったけど。」
俺がそう言ってステータスを教えると、リンデは驚愕の表情を浮かべた。
「100?! レベル100なんていったらAランク冒険者と同じ位強いのよ?! 」
「へー、そうなのか。」
「Aランク冒険者は世界に百人位しかいないのよ! この意味がわからないの?!」
「?? それがどうかしたのか?」
「つまりコウイチはたった1日で、少なくとも世界で百人以内には強くなっちゃったのよ!」
まじか。
こうして俺は魔王討伐に一歩近づいたのであった。