手紙
眠い。
でも、眠ることはできない。
妹からの手紙を読まなければいけないからだ。
この部屋には机や椅子などはないのでとりあえずベッドに座り、緑の封筒から手紙を出す。
『お兄ちゃんへ。
元気ですか?
ていっても、まだ1日しかたってないけどねっ。
お兄ちゃんが王城から居なくなっちゃった後、これからのことについての話を聞いたよ。
王城で少し戦闘訓練をしてから魔王討伐に出発するんだって。
お兄ちゃんが一緒にいけないのが残念だなー。
淋しいなー。
まぁ、お兄ちゃんには魔王と戦うなんて無理だもんね。
お兄ちゃんには、無理だもんね。
お兄ちゃんは弱々だもんね。
今さら戻ってきても、もう遅いんだからね。
でもどうしてもっていうなら、許してあげないこともないかも。
だから戻ってきて、お兄ちゃん。
王城の夕飯は凄く豪華で美味しかったよ!
お兄ちゃんには食べさせてあげられないのが残念だなー。
ホント、残念だなー。
お兄ちゃんはどうせ、貧相な食事で済ませたんでしょ。
美玲は豪華な食事だったけど。
豪華な豪華な食事だったけど!!
お兄ちゃんが戻って来ないなら、美玲は一人で魔王討伐に行っちゃうよ?
ほんの少しだけ、一欠片ぐらいは戻ってきて欲しいなーって思ってるんだからね!
でも、どうしても戻ってきたくないってならお兄ちゃんは待っててもいいよ。
美玲が魔王を、倒してくるから。
臆病でチキンで最弱で激弱お兄ちゃんは、王都でビクビクしながら待ってるといいよ。
PS.魔王討伐から逃げだしたことは怒らないから、戻ってきてもいいんだからねっ!』
ぐしゃり。
紙を握り潰す音が部屋に響く。
激弱お兄ちゃんだと?
ふざけるな。
そして俺は逃げだした訳じゃない。
チートもなしで魔王討伐に行くなんて面倒な事はしたくなかっただけだ。
勘違いはやめて欲しい。
魔王討伐なんてどうでもよかったが、この手紙で気が変わった。
なんとしてでも、魔王は俺が倒す。
妹より先に。
妹にバカにされたままなんて、お兄ちゃんとして許せないからな。
お兄ちゃんは常に妹より上でなければいけないのだ。
バカにされるなど、絶対にあってはならない。
俺は今、決めた。
妹よりも早く魔王を倒すと。
そして、遅れてやって来た妹にこう言ってやるのだ。
随分と遅かったなぁ、激弱美玲ちゃん、と。
思いっ切り、上から目線で偉そうに。
リンデも顔負けの上から目線で。
そう決めた俺は先程あの騎士に渡された紙に、手紙の返信を素早く書いた。
それを部屋の外で待機している騎士に渡す。
「あっ、返信書いてくれたんですね。ありがとうございます!」
「もし、美玲がまだ寝てても叩き起こして渡してやってください。
多少雑に扱っても構いませんので。」
「すいませんそれはちょっと……。でも、手紙は確実に渡しますね。こんな時間に失礼しました。」
そう言って騎士は去っていった。
美玲よりも先に魔王を倒すということは、かなり頑張らなくてはいけない。
チートを持ったやつに追いつくどころか、追い越さなければいけないのだから。
とういうことは、俺がやることは決まっている。
早速リンデのいる部屋に行き、扉をノックする。
しばらくして、入っていいと言う返事が帰ってきたので中に入る。
リンデを見ると、俺の部屋に入ってきた時とは服装が変わっていた。
「ノックから、返事まで少し時間がかかったな。何をしてたんだ?」
なんとなく予想はできるが聞いてみる。
「着替えてる途中だったのよ!」
やっぱりな。
「やっぱ、ノックは大切だろ?」
「そっ、そうね。コウイチは二度寝するんじゃなかったの?」
リンデもノックの大切さを理解してくれたようだ。
「少し気が変わった。さっさとギルドに行くぞ。」
「なんで急に気が変わったのよ。頭でも打ったの?」
「頭は打ってない。さっき手紙がきてな。それが理由だ。」
「こんな時間から手紙なんて珍しいわね。準備はできてるからさっさと行くわよ!」
リンデは元気だなぁ。
まだ起きてる人なんて殆んどいないような時間だってのに。
俺も負けないようにしなくちゃな。
「じゃ、行くとするか!」
美玲からの手紙への返信には、たった一行だけ書いておいた。
『お兄ちゃんは常に美玲の上を行く。』