ノックは大切
ベッドがいつもと違うせいか、俺は普段では考えられないほど早く起きてしまった。
外は薄暗く、まだ日は登りきっていない。
宿はリンデに教えてもらった宿を使っている。
そして、リンデも宿で寝泊まりしているらしい。
つまり、リンデと同じ宿ということだ。
俺は一緒の宿じゃなくていいと言ったんだけどな。
リンデがパーティ組んだんだから、同じ宿の方が便利でしょ!ってうるさくて結局俺が折れた。
正直いってリンデと同じ宿とか、面倒事の気配しかしない。
あぁ、眠い。
まだ日が登りきるまでは、それなりに時間がかかりそうだし、二度寝しようと考えていたときだった。
さぁ、寝ようと再び横になったとき、勢いよく部屋の扉が開かれたのだ。
ノックくらいしろよ。
「おはよう! さぁ行くわよ!」
は?
リンデの声が部屋に響く。
朝からうるさいやつだなぁ。
俺は、リンデが何を言っているのか理解できなかった。
「行くってどこにだよ?」
「決まってるじゃない。ギルドよ! 依頼を受けに行くのよ!」
「まだ朝にもなってないような時間だぞ?
俺は二度寝するからさっさと出てってくれ。」
こんな時間から、行く必要ないだろ。
こいつはバカなのか?
うん、バカだったな……。
「そんなこと言ってないで、さっさと行くわよ!」
「俺が昨日パーティ組むときに言ったこと覚えてるか?」
「コウイチの言うことに従うってやつ?」
早速、あの時の約束を使うときがきたようだ。
「そうだ。まず一つ目、部屋に入る時はノックくらいしろ。
二つ目、俺は寝るから部屋から出ろ。」
「べ、別にノックくらいしなくてもいいじゃない。」
リンデは本当にバカでアホだな。
ノックの大切さを知らないらしい。
「そうか、これに従えないってならパーティは解散だな。」
「わ、わかったわよ。次からノックするわ! コウイチは本当に今から寝るの?」
パーティの解散を脅しに使うと、リンデはあっけなく折れた。
「寝るに決まってるだろ。日が登るまでは寝るから、さっさと部屋を出ろ。」
「仕方ないわね。少しだけ待っててあげるわ。」
そう言ってリンデは少し残念そうな顔をして部屋を出ていった。
リンデもいなくなったことだし寝よう。
ベッドに入ると再びうとうとしてくる。
コンコン、コンコン。
もう少しで寝れるって時に、扉からノックする音が聞こえた。
またかよ……。
俺、さっき日が登るまでは寝るって言ったよな?
ノックをしたのは褒めてやってもいいが、まだリンデが部屋を出てから十分もたってないぞ。
俺は少し、イラつきながら扉を開けた。
すると、そこにいたのはリンデではなく、鎧を全身に纏った騎士だった。
誰だよ。
俺はこんな人知らないぞ。
しかし鎧には見覚えがあった。
王城にいた騎士と同じ鎧だったからだ。
俺は朝からの連続の来客にうんざりしながら、なんの用か聞く。
「こんな時間になんのようですか?」
「ミレイ様からの手紙を届けに参りました。」
つまり、俺の妹は手紙を届けるためにこの騎士をパシったってことか。
まだこの世界に召喚されたばかりだというのに、随分と好き放題やっているようだ。
「こんな時間に申し訳ありません。こちらがミレイ様からの手紙です。」
そう言って騎士は緑の封筒に包まれた手紙を渡してきた。
「もし、よろしけば手紙を読んだ後に返信を書いてくださいませんか?
書き終わるまでは、私は外で待っていますので。」
懇願するような表情でそう頼んできた。
きっとあれだな。
ここで俺が返信を書くのを断った場合、後で上から色々言われるんだろうな。
「えぇ、返信ぐらいでしたら構いませんよ。
なんか俺の妹がすいませんね。」
俺はこの人が可哀想になってきたので、返信を書いてあげることにした。
しかし、手紙か。
美玲は手紙なんて書くようなやつじゃないんだけどな。
この世界にはスマホもないし、当然LINEなどもできない。
だから、手紙を書こうとでも思ったのかな。
美玲は家の中にいても、俺にLINEしてくるようなやつだったからな。
まったく、まだ召喚されてから1日しかたってないってのに。
あいつはいつになったら、お兄ちゃん離れができるようになるのだろうか?
仕方ない、これから二度寝しようと思っていたけど読んでやるとするか。