リンデ
冒険者ギルド。
世界をまたにかけて展開されている、依頼斡旋組織。
護衛、薬草などの採取、魔物の討伐等の依頼を、ギルドに登録した冒険者達に斡旋し、膨大な利益を得ている。
冒険者実力に対し、S~Fのランクをつけ、そのランクにみあった依頼を紹介している。
この制度を導入してから依頼の達成率は格段にあがり、大きな信頼を獲得した。
そして、どの国にも属していないのにも関わらず巨大な権力を持つ。
その冒険者ギルドに登録にきていた時のことだった。
「あなた、新人ね! 私がパーティを組んであげるわ!」
?
突然後ろから声をかけられたのだ。
振り返ってみると、気の強そうな、白髪の少女が偉そうに立っていた。
「はい?」
「だ、か、ら、この私があなたとパーティを組んであげると言っているのよ!」
「今、登録の手続き中だからその話後でいいか?」
正直いって迷惑だ。
パーティを組んでくれるというのはありがたいが、俺が登録を終えるまで待てなかったのだろうか?
後、なんでそんな偉そうなんだ。
「リンデさん、彼の登録の邪魔になりますのであちらで待っていてもらえますか?」
名前はリンデか。
俺の登録を担当している、受付嬢さんがそうリンデに注意する。
「し、仕方ないわね! 少しだけ待っていてあげるわ!」
ホント偉そうだな。
リンデはこのギルドでそれなりの、ポジションにいるということなのだろうか?
いや、それは無さそうだな。
「彼女はもしかして、ベテランの冒険者だったりします?」
少し疑問に思ったので、聞いてみる。
「いえ、そんなことはありませんよ。リンデさんは、最近ギルドに登録された新人さんです。」
嘘だろ……。
新人なのにあんなに偉そうなのか。
ちょっと一緒にパーティ組むの嫌になってきた。
その後、ランクや依頼について説明をされた後、ギルドカードという物を渡されて、登録は終了した。
そう、終了してまったのだ。
つまりリンデというあの少女の話を聞かなければいけない。
あぁ、面倒臭いなー。
どうにか頑張って、スルーしてギルドを出れないかなー。
そんな、淡い望みもリンデの方をチラリとみた時に消えていった。
だって、めっちゃこっちをガン見してるだもん。
あの目は、絶対に逃がさないぞって目だ。
「あなた、今逃げようとしたでしょ! パーティ組むまで絶対逃がさないわよっ!」
ちっ、逃げられなかったか。
「逃げるわけないじゃないか。」
「そう? ならいいわ! あなた、私とパーティを組みなさい!」
また、同じこと言ってる。
学習しないのだろうか?
バカなんだろうか?
なんかここまでくると、イエスと言うまで何度も同じことを繰り返す、ゲームの村人みたいだ。
「なんでお前はそんなに偉そうなんだ?」
最大の疑問だ。
「それは私が、あなたより先輩だからよ!」
先輩ねぇ。
まぁ、先輩と言えなくもないけど、さっき受付嬢さんは新人だって言ってたな。
「一応聞くが、お前はいつ登録したんだ?」
どうせ、登録してから一ヶ月もたってないんだろ?
そんな思いを込めて言った。
「登録したのは昨日よ!」
予想よりも、大幅に短かった……。
「昨日ってお前、俺と大して変わらねーじゃねーかっ!」
そんなんで、先輩名乗ってんじゃねーよ!
「うるさいわね! 1日でも先輩は先輩よ! 後、お前じゃなくてリンデよ!」
よし、決めた。
俺は絶対にリンデを先輩として扱わない。
「じゃあ、リンデはなんで俺をパーティに誘ったんだ?」
これも謎だ。
普通、登録したばっかのよく知らないやつに、パーティを組もうなんて誘わないだろう。
いや、リンデの場合は登録したばっかというより、登録中に誘ってきたが。
「昨日、ギルドにいる人全員にパーティを組んであげるって、言ったのに全て断られたからよ!」
そりゃそうだろ。
その行動力は凄いと思うが、そんな偉そうな態度で言われたら、誰だって断るに決まってる。
俺だって嫌だ。
「それで俺もパーティに誘ってきたのか。リンデはどれくらい強いんだ?」
俺はギルドに登録したばかりだ。
そしてこの世界に来たばかりで、知り合いもいない。
だから、リンデの強さ次第では、パーティを組んでやってもいいと考えている。
「私は強いわよ!」
おっ、強さは期待してもいいのかもしれない。
「それは、どれくらい?」
「スライムを一人で倒せるくらいね!」
だめじゃん。
全然強くないじゃん。
いや、待てよ。
そう判断を焦ってはいけない。
ここは異世界、もしかしたらスライムは物凄い強いのかもしれない。
それはもう、スライム1体で街を滅ぼせるくらいに。
無さそうだな……。
「そのスライムはどの程度の強さなんだ?」
一応、聞いてみる。
「武器さえあれば、一般人でも倒せるくらいね!」
弱っ。
やっぱ、スライムは弱かった。
つまり、リンデも弱いってことだ。
「てことは、リンデは一般人ぐらいの強さしかないってことか。」
「いいのよ! これから強くなるんだから!」
「なぁ、俺がリンデと組むメリットが見つからないんだが。
やっぱ、パーティ組むの止めにしないか?」
うん、そうしよう。
それがいい。
「めっ、メリットならあるわよ! 私が先輩として色々教えてあげるわ!」
「登録して1日しかたってない新人が?」
「なっ、なら報酬を半分わけてあげるわ!」
「それは当たり前だろ。」
というか、パーティ組んだ相手に報酬を分けないつもりだったんだろうか。
「じゃあ、優しくしてあげるわ!」
「むしろ、冷たくするつもりだったのか?」
もう、リンデはしどろもどろになってる。
自分でも何を言ってるかわかってないって様子だ。
見ててちょっと面白い。
「じゃ、じゃあ宿の場所を教えてあげるわ! あなた見た感じ、今日この街に来たんでしょ?」
まぁ、この街にきたというかこの世界にきたというか。
「それなら、その辺の人に聞くからいいよ。」
「じゃあ、あなたは何をしたら私とパーティを組んでくれるのよ!」
ついにリンデは、何も思い浮かばなくなったようだ。
うーん、別にして欲しいことはないんだよなぁ。
あっ、いいこと思いついた!
「俺の言うことにに毎日従うというなら、パーティを組んでやってもいいぞ。」
「言うことに従うって、私に何をさせるつもりよ!」
少しリンデは顔を赤らめた。
いや別にそっち系のことを言うつもりは、全くないんだけど。
「例えば、うるさくするなとか。無駄に偉そうにするなとか。少し静かにしろとか、かな。」
「そ、それくらいなら聞いてあげてもいいわよ。」
「本当に大丈夫か? 後になって、なしにしてくれとかはダメだぞ。そういうことを口にしたらパーティはすぐに解散する。」
「わ、わかったわよ! だから私とパーティを組みなさい!」
こいつは今の話を理解しているのだろうか?
「組んで下さい、だろ?」
少し、強めの口調でそう言う。
立場をはっきりとさせなくてはいけない。
俺が下でリンデが上なのではなく、俺とリンデは対等であることを理解させる必要があるからな。
「私とパーティを、く、く、組んで下さい!」
やっと上から目線を止めたようだ。
まぁ、上から目線といっても、身長は俺より下だけどな。
かなり無理をして上から目線を止めたような、口調だ。
「俺はコウイチだ。よろしくなリンデ。」
俺はギルドカードに登録した名前を名乗った。
そして、リンデに向かって右手を出した。
「よろしく、コウイチ!」
そう言って、リンデは俺の出した右手をとり、俺達は握手した。
こうして、俺はこの偉そうなおバカちゃんとパーティを組むことになったのである。