プロローグ
木の生い茂った薄暗い森のなか、一体の魔物と一人の男が戦っていた。
「うっ……。」
重い一撃を受け地面に転がる俺。
あぁ、なんで俺はチートもなしに魔物と戦っているんだろう。
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俺、黒木光一はリビングでジュースを飲んでいた。
リンゴジュースだ。
程よく甘酸っぱくて美味い。
タッタッタッタッ。
勢いよく階段を降りる音が聞こえてくる。
今、この家には俺以外には妹しかいない。
両親はまだ仕事中だからな。
となると、あの音の正体は妹ということになるわけで。
「はぁー……。」
面倒臭いやつが降りてきた、とついため息をついてしまう。
俺の妹、黒木美玲は容姿端麗、スポーツ万能さらに成績は常に学年上位。
まるで、物語の主人公のように優秀な妹だ。
しかし……。
がちゃり、とドアの開く音がリビングに響く。
あぁ、来てしまった。
「ねーねー、お兄ちゃんなに飲んでるのー。」
「リンゴジュースだよ。」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん一緒にゲームしよっ?」
「やだ。」
「いいじゃん、お兄ちゃんのケチ!」
「ケチじゃない。俺は忙しいんだ。」
少し構ってちゃん過ぎるのだ。
毎日、この調子なので流石に俺も疲れた。
「全然忙しそうに見えないよ!」
「俺は、このリンゴジュースを飲むのが忙しいんだよ。」
まともに相手をするのも面倒臭いので、いつものように適当に受け流す。
「じゃーじゃー、それ飲み終わったら一緒に遊ぼうよー!」
「それは無理だな。俺はこれを飲み終わったら、一人でゆっくりするのに忙しくなる。」
「そんなこと言わないで美玲と遊ぼーよっ!」
あぁ、面倒臭い。
もう誰でもいいからこの妹を、どこかに連れてってくれないかな。
そんなこと思っていた時だった。
突然俺と妹の下のフローリングが光り出したのは。
「お兄ちゃんっ!なんか光ってるっ?!」
それがこの地球で美玲が最後に発した言葉だった。