7:エウレカヘブン
俺は見てしまう、青年がART1、獲得枚数0という悲劇を。
「なんじゃこりゃー!?」
青年は項垂れ、隣ではほくそ笑む魔王様。やっとSINを引きバッチリ外してARTの準備は整ったのである。
「こ、こ、だっ!」
魔王様が第三停止を離すと、サッカーゴールに見事にボールが突き刺さる。
「やったぜ!」
と、魔王様の画面に出てきたのはARTの始まりを告げる画面ではなく、ボーナス確定の画面。うへへ、ART機に翻弄されてる姿がたまらん。
「なん、でも結果良し」
バシッバシッバシンッ、と白7が見事に並ぶ。そして……。
『決めろ!』
と、台からART獲得チャンスフラグが舞い降りる。
「えい、やー、たぁっ」
ズルリとずれる白7、思わず魔王様はクッと悔しそうに第三停止を押しっぱなしのまま、ネジりながら項垂れる。
が、再びチャンスは舞い降りる。
『狙って!』
今度はヒロインの声でチャンスが来る、主人公の声は3割程の期待度に対しヒロインの声は7割程の期待度があるのである。
「えい、やー……たぁぁぁぁぁ」
ガシンッヴィヴィヴィヴィヴィイヴィヴィ、と魔力ドライブが輝き見事にARTをストックする事を示唆する。
「き、きもちぃ」
と、今度は隣の青年が赤7ボーナスを引く。
「きたぁぁぁ」
こんな感じで、二人はART機を気持ちよく打ってくれているようである。しかし、流石に無視できなくなってきたのか酒好きさんがチラチラと気にしだす。
「なぁ、メーダ。あの台は2台しかないのかえ?」
「はい、魔力不足で今はこれが限界なんです」
「はぁ。まぁいい、ユアジャグより出メダルは少ないようだしの。うわっ、びっくりった」
びっくりった、て何ですか。気持ちはわかりますけど。余所見をしながら打っていたユアジャグが、COCOランプを神々しく輝かしながら視線が戻るのを待っていたのだから。
「ふふふ、まだまだ出せそうだ。邪魔したなメーダ」
「いえいえ、楽しそうで何よりです」
俺のホールも大きくなってきたな、と思いながら巡回をする。魔王様はARTが3セット目に突入していた、ボーナスも絡めて見事に勝利コースまっしぐらである。青年は何というか、モミモミ感が半端なかった。
「おお、これがレギュラーボーナスか……」
ここにきてやっとREGを青年が引き当てる、がここも難関であったりする。
「くそ、五択要素がついてる事は知識でもっていても、実際にやるのはやはり違うな」
そう、エウレカヘブンのレギュラーボーナスはARTを獲得するチャンスがエスパータイプなのである。いわゆる、押し順当てである。
「はっはっはっ、青年、押せぬのなら俺が押してやろうか?」
「じゃ、おま、邪魔すんなよ」
余裕が出来たのか、魔王様が青年を茶化しに入る。
「エウレカヘブンのヒロイン可愛いよな、それにあの板に乗って空を飛ぶ発想もいいよな、でもロボットも欲しいなぁ、作れないかなぁ」
「ふむ、ロボット部隊を作ってみるのも悪くないな」
「ちょ、お前それで人を滅ぼそうとか」
「落ち着け青年よ、俺はもうそんな事に時間を費やすほど暇ではなくなったのだ」
「……だな」
青年と魔王様は何か語り合っていたようだが、何はともあれ楽しそうで何よりだ。俺はここはもう大丈夫か、と思い更なる友を求め旅に出るのであった。
「ちょっと俺、出かけるんでホール任せちゃいますね」
「応、任せろ」
「はい、わかりました」
「閉店まで任せなメーダ、それまでには戻るんだろ? 後で酒でも飲もう」
「お、お前も酒が飲めるのか」
「ん……ほぅ、よく見れば魔王の坊主か」
と、何やら盛り上がってるようなので俺は3人をほってホールの外へ出る。色んな機種増やして、俺も皆と一緒に打ってわいわいしたいな、と夢を膨らませるのだった。