2.2:A-SLOT
記憶に刻まれたミッション、これを全て達成する事により新台の創造が可能となる。で、そのミッションの第一の条件がこうなる。
「誰か通らねぇかなぁ。藁運んでる馬車よっ、今すぐこいっ!」
声に出して祈るメーダ。最初の条件は馬車に乗る事、それも藁をつんでいるという限定条件つきである。メーダはこのミッション内容がどういうものなのか、理解をしていた。
簡単に言えば、A-SLOTの題材になった大手作品の道筋を通る必要があるという事である。そう、A-SLOTの題材となったのはあの作品、南斗の脚なのである。核戦争後の世界で、片足を失った格闘家の話なのだが、そのシナリオをいくつか再現する必要があるのだ。
それで、最初のミッションが正確に言えば藁の中に隠れて密入国する事。なのだが、メーダ的には藁をつんだ馬車にのって王都まで行ければいいという想いである。
「おっ、言霊の成果ありってな!」
滅多に人の行き来のない道だが、運よく馬車に乗る若者が一人移動をしていた。馬車が近づいてくるまで待つと、若者も不思議そうな表情をしつつ話しかけてくる。
「君、こんな場所でどうしたんだい?」
興味。身なりはお世辞にも貴族には見えないし、付近に従者の姿もみえない。かといって、こんな場所に少年が一人佇んでいるというのは謎である。運試しの道とも言われるこの場所は、普段は一切の脅威のない安全な交易路だったのだが、つい数か月前から異常な現象が多発。それに釣られるようにドラゴンの目撃情報がたたない場所となっている。
もちろん、ドラゴンと遭遇なんぞしたら命があったもんじゃない。あの草原地帯だったはずの場所が、広大な範囲で焦土化跡があったりと、間違いなく今この道を通るのは運試しという訳なのである。
商人ですら、キャラバンを組んで時期を見計らって移動する道にも関わらず、この少年はジッと一人で佇んでいたのだ。声をかけずにはいられなかった。
「ああ、良ければ馬車に乗せてほしいんだ。ついでに言うと、藁をつんでたりしないかい?」
藁? 馬車に乗りたいだけなら色々と推測が出来る。運試しの道で運悪く、この少年以外が亡くなった可能性。運悪く何かが起こった可能性。だが、そんな悲し気な声色ではなく、更には藁を探して居るという。
「いや、藁は積んでないけど馬車に乗るなら隣空いてるぜ」
「そっか。まぁいいや、お邪魔します!」
「お、遠慮というものをしらんな少年」
遠慮なしに隣に座る少年に、やはり貴族関係のいざこざが背景にあるのではないかと推測する若者。実際、メーダは貴族出の少年なのだが、魔法ギルドに入学するという口実でスロット普及の為に切磋琢磨しているのである。なので若者の直感はニアピンといったところであった。
「ごめんごめん、俺はメーダ」
「ん、俺はンバット。わけあって王都へ向かってるところさ」
「ンバ……ット!?」
「何だよ、珍しいってか? 確かに、ンから始まる名はな……」
「いや、違う違う! いや、うん、良い展開だ!」
一人テンションのあがるメーダ。だってそうだろう、ンバットだよンバット。主人公と一緒に旅をするンバットまんまの名前の若者が馬車をひいているのだ。メーダは密かに感動すら覚えていた。
「変な奴。まぁ先は長い、ゆっくり話でもしよう」
「良いね、宜しくンバット」
足を止めていた馬車が前進を始める。メーダが少し力を使えば王都まで一日もかからないのだが、この速度ならば一週間以上は見たほうがいいだろう。
雑談が弾む二人は、日が暮れる前に隣村へと到着していた。小さな村だが、しっかりと宿もある旅の中間地点といった場所だった。
今日はこの村で休息をとるという事だったので、メーダとンバットは日も暮れる前から酒を仰ぐ。
「おーおー、メーダは良い飲みっぷりだな!」
「そういうンバットこそ、やるねー!」
道中、メーダは金貨袋から三枚ほど金貨を手渡すと、ンバットは目の輝きを変えることも無く笑って見せた。
「ほんとっ、貴族はバカだよなー!」
「それ、俺をバカにしてるよな!」
「おうおう、メーダがバカだよなーって言ってんだろう。だってそうだろう? 馬車に乗るだけで金貨ってありえねーだろう。それも三枚! わらえねぇ、はははははっ」
「しょうがねぇだろう? 馬車の相場なんて知らなかったんだから」
「こりゃまいった、本当にこれ以上俺を笑い殺すような発言はやめてくれ」
金貨一枚の価値は、メーダの知る日本でいうところの四百円相当だそうだ。なので、千二百円で馬車に乗ろうとしたらしい。タクシーの移動代と比較しても、良い線をついていたとメーダは思ったのだがこの世界ではその考えはあてはまらないらしい。
「馬車に乗るなら銀貨一枚、そう相場があってだなぁ? まぁいい、メーダがどこぞやの貴族だって事はよーくわかったから」
「いじわるだな、ンバットは」
「悪い悪い、でも金は大切にしな? じゃなけりゃ……」
先ほどまでのテンションとはうってかわって、笑顔に陰りを見せる。
「ん? そういえばンバットの王都へ行く目的聞いてなかったなぁ」
「そういうメーダこそ、王都まで一緒したいとか一体何の用があるんだ?」
雑談をするだけして、肝心の目的を二人とも話し合っていないことに今更ながら気が付く。だが、その目的を聞く前に悲鳴が聞こえる。
「んだよっ、ここまで追ってきたのか!?」
「ん、何かあったのかな?」
血相を変え外に飛び出るンバット。メーダはマイペースに干し肉をしゃぶりながら表へ出た。すると、鍬を持った若者たちが一人の女性を取り囲んでいた。尻餅をつき、壁際に追い込まれた女性は鋭いまなざしで若者たちをにらみつける。
「まだわからないのっ? 今は耐える時なのっ、この村は貿易路として非常に大切な拠点の一つなのよ? なのに、貴方たちがこの村を捨ててどうしようってのよ!?」
「もう我慢できねぇんだ。ここ数か月ろくな収入がねぇ、もうこの村は終わりなんだよ!」
「そーだそーだ!」
「何を馬鹿な、ここから先の道は獣が出る危険な道なのよ? よーく考えて貴方たち、私達は」
「うるせぇ! お前が村長になってから過ごしやすい村になってきたと思ったのに、お前を信じた俺たちがバカッだったよっ!」
若者たちの意思は硬く、村長と呼ばれた女性の声は一切届いてない様子である。そして、若者の一人が鍬を振り上げる。
「まちなっ、寄ってたかってそりゃないぜ?」
「何だよテメェ、はっなっせっ」
「離さねぇよ。お前たちが選んだ村長だろう? 何都合が悪くなったら手のひら返ししてんだよ」
「よそ者が語るなっ! こんな事は今まで一度も無かったんだ! 月に一度しかキャラバンが通らねぇ、通ってもキャラバン小隊はこんな村じゃ金も物も落とさねぇ。これが数か月も続いてんだぞ!? 俺達は貿易と休息の場、そして情報を売ってるってのに、このままじゃぁ……」
「それでもだっ! 一緒になって打開策を」
「うるせぇ! 色々試したさ! 結果が今だ、この疫病神は殺すしかねぇ!」
何だか世紀末的展開だな、と思いつつも原因の一端を担っていることにメーダは気づいて居ない。そんなメーダはンバットの行動を遠目に眺めている。
「ばかやろう!」
ダンッ、とンバットの渾身のグーで殴られた若者は軽く数メートルは吹き飛ぶ。おお、と思わず声が漏れ周囲で囲んでいた若者たちは少し距離をとった。
「こういう時だからこそ、コイツを信じて力をあわせるんだろうがっ! まだ食料もある、豊かな村だよここは! 数か月収益がなくて、この潤沢さ。誰の功労だと思ってんだよ!?」
「うるさいなぁ、よそ者は口を挟まないでおくれ。ここは私達の村だ」
「そんだけ口きけりゃ、まだ大丈夫だよな? ったく、無茶が過ぎる」
「お前こそ。久しいな、ンバット」
ざわ、と周囲に居た若者たちがざわつく。そして、すぐさま鍬を下ろし頭を下げる。
「良い、そんな扱いはしないでくれ」
「こりゃ、耐えた甲斐があったってもんだ。お前が動いたって事はどうにかなるんだろう? この現状を」
「ああ、そのために動いている」




