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第3‐3話

俺よりも背が高く、細くてあまり女らしい丸みのない身体。

目の前にヨイヤミがいる。昨日別れたばかりなのに懐かしく感じた。

だけどそんな思いも ヨイヤミが手に掴んでいるモノを見て吹き飛んだ。

白く長い髪を掴まれて、壊れた玩具のように引きずられているのはコウだった。


「コウ……?」


呼びかけてもコウはぐったりしたまま動かない。俺はベッドから飛び降りた。


「ヨイヤミっ!! コウに何したんだよ!?」


ヨイヤミに駆け寄ろうとした俺を、ヨゾラは服を掴んで止めた。俺は勢いあまってつんのめりそうになる。慌てて腕をバタつかせ、バランスを取った。


「なにするんだよヨゾラ!!」

「コウをヨイヤミから取り返す。だから時間を稼げ」


怒鳴った俺にヨゾラが囁く。そして俺の背中を突き飛ばす。今度はバランスをとる暇もなくべチャリと倒れた。


スゲー恥ずかしい。


急いで起き上がって服をはたき、できるだけ何事もなかったように装って俺はヨイヤミに近づいた。

『時間を稼げ』と言われたけど、オーソドックスに話をして時間を稼いでみるか……。

先ほどの質問を繰り返した。


「コウに何をしたんだ?」

「この女の事か…?」


そう言うとヨイヤミは軽々と片手でコウの髪を引っ張りあげた。

コウの血の気の失せた白い顔が露になる。首に赤い指の跡があった。


「首を締めただけだ。まだ死んでない……」

「! どうしてそんなことをっ!?」

「黙れっ!!」


ヨイヤミが急に声を荒げた。黄金色の瞳がギロリと光る。


「双子だけあって、我の嫌いなアイツにそっくりだ……。お前の顔など見たくない。話しかけるな……」

射るような眼で睨まれる。



双子……。


アイツにそっくり……。


頭の中に言葉がぐるぐると回る。


アイツ。

アイツ。

アイツ。



『アイツ』の話は俺にとって禁句タブー

五十年前のあの日から―――…



血塗れの部屋で『俺』が倒れている。


チガウ。『オレ』ジャナイ。『アイツ』ダ。


『アイツ』が倒れている。


俺は血を流し続けているアイツ―― 兄を、血が俺の白い服の裾を汚すことにも気づかずに呆然と立ちつくして見ていた。その間も血は、兄の黒い服に紅い染みを広げていた。


思考が止まる。


双子の兄をみて、自分が死んでいるのかと錯覚した。



俺と一緒に走ってきた男―― クオンが兄に駆け寄ると、その血塗れの身体を抱きしめた。涙を流しながら。


やがて騒ぎを聞きつけた兵士や侍女や大臣やらが集まりはじめた。皆の会話が耳に入ってくる。


「お可哀想に。殺されるなんて……」

「まだ若かったのにね」

「でもまだ良かったんじゃないか? 死んだのがエイコク様じゃなくてヨコク様で」

「そうだな。ヨコク様はあくまでエイコク様の『予備』だし。逆に死んで良かったんじゃね? あの二人、兄弟なのに争ってたんだろ。邪魔者が消えたって事じゃん」



死んで良かった?


邪魔者?


俺ってみんなにそう思われてたのか?


薄々は気付いてた。

でも口で言われるとやっぱりショックだ……。


「エイコク」

「クオン?」


いつの間にかクオンが俺の前に立っていた。その表情は冷たい。


「な、なに言ってるんだよクオン? 俺はエイコクじゃなくてヨコクだ! 他の奴ならともかく、お前は俺達のこと見分けがつくだろ!?」


クオンは今まで双子である俺達を間違えたことなんかなかった。


「なにを言ってるのか解らないね」


クオンの表情変わらず冷たい。


「白はエイコク。黒はヨコクと決まってるんだよ。 今、君は白い服を着てるじゃないか」

「こ、これはみんなに内緒で二人で入れ替わってみただけだ!!」

「その話が本当なら、エイコクはヨコクの代わりに死んだってことだよ? 入れ替わらなければエイコクは死ななかった。どうしてエイコクが死ななくちゃいけない?お前が死ねば良かったのに」


怖い。クオンの口は笑っているのに、目は憎しみでギラギラしていた。

ジリジリとクオンから距離をとるため後退りする。

その僅かな距離はクオンの一歩であっという間に縮まった。


「…返せ。エイコクを返せ!!」


恐怖で動けなくなった俺の両肩をガシッと掴まれた。肩に爪がくい込んで痛い。


「エイコクは皆に必要とされている。ヨコクと違ってね。だから君はこれからエイコクとして生きるんだ。死ぬまでずっと。分かったよね『エイコク』?」


俺はただ黙って頷くことしか出来なかった。


「…いい子だ」

そう言ってクオンは笑った。

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