第2-4話
ガシャーンという嫌な音がした方を見ると、皿などの食器類、元はきちんと盛り付けられていたであろう料理が、見るも無惨に床に散らばっていた。
床を見る俺の目線は普段より高い。理由は部屋の中央に置かれたテーブルの上に俺とコウが立っているからだ。
テレポートで運悪くテーブルの上に移動してしまったらしい。つまり、床の悲惨な状態の原因が俺であることは明白だった。
とりあえずテーブルから降りようとした時に、俺の右手とコウの左手が触れ合っていることに気付いた。テレポートする人に触れていないと、一緒にテレポート出来ないのだろう。そう分かっていてもドキドキした。
コウも触れ合っていた手に気付き、慌てて手を離す。顔がいつもより赤い。
今までコウの手と触れていた右手を開くと、握りしめていた石は力を使い果たしたのか、粉々になっていた。
俺達は床に散らばった物を踏まないようにテーブルから降りた。
「ここが八魔族特別室か?」
コウに尋ねる。いぶかしげにコウは答えた。
「ここは八魔族特別室なんですけど…でもおかしいんです。」
「おかしい?」
部屋を一通り見回してみる。暖色系でまとめられた部屋。コウの趣味だろう、所々に可愛らしいぬいぐるみや花が飾られている。特に変なものは目につかなかった。
「
おかしい所はないと思うけど…」
「ヨゾラさんとトチさんがいないんです」
「ヨゾラとトチが?」
八魔族特別室のメンバーか?
「ヨゾラさんは八魔族特別室の責任者で、トチさんはヨコクさんと同じく今日から一緒に働く仲間です。私、探してきますね!」
そういうとコウは駆け出していった。後には一人俺だけがポツンと残される。
え〜と…
ただ立ってるのもアレだし何かするか。
さっきから気になっていた床の料理と食器を片付けることにする。割れた食器を拾おうとした時、強烈なニオイが襲ってきた。
こ、このニオイは…! 俺はバッとその場から飛び退き、壁際まで離れた。
ニンニクの臭い…!
よく見ればどの料理もニンニクが使われている。
これは俺に対する嫌がらせか、ニンニク好きかのどちらかだ。
ニンニクのせいで床を片付けられないまま、コウともう一人が戻ってきた。
「ヨコクさん申し訳ないんですが、トチさんと一緒に待っていてもらえますか?私、もう一度ヨゾラさんを探してきます」
コウは今来た道をパタパタと戻っていった。足音が遠ざかる。
一緒に働く仲間か…
コウの言葉を思い出しながらトチの方を見る。歳は二十歳を過ぎたぐらいだろうか。ブラウンの髪と瞳。地味な男だった。特徴はかけている眼鏡ぐらいしかでてこない。多分地属性の純血魔族だ。
トチは俺を馬鹿にした表情で見ている。その表情で判る。ハーフが嫌いなんだろう。とても仲良くできるとは思えない。
トチが口を開く。
「八魔族特別室は各属性の魔族の代表が集まるはずなのに、なんでハーフなんかが居るんだ?」
「居たっていいだろ!」
喧嘩腰で返す。そんな俺を、トチは鼻で笑う。
「ハーフのくせに生意気だな。じゃあお前何処の国の代表だよ?」
「…一応、闇」
ヨイヤミに送り出されたから、闇の代表でいいと思う。自信を持って言えないけど。
「闇だって?あの腰抜け女王の国の?」
俺の答えを聞いたトチがあざ笑う。
「腰抜け…!?」
腰抜け女王とはヨイヤミのことか!? ヨイヤミが腰抜けじゃないことは、俺がよく知っている。
どうしてこんな奴に姉が馬鹿にされなきゃいけないんだ!! 頭に血が登ってくる。
「ヨイヤミは腰抜けじゃない!訂正しろっ!!」
トチに怒鳴った。トチも負けじと怒鳴り返す。
「腰抜けを腰抜けと言って何が悪い! あのまま人間と戦っていれば魔族が勝てたはずだ! なのに臆病風に吹かれた闇の女王が勝手に人間と和平交渉したんだろう!」
「ヨイヤミにはヨイヤミの考えがあるに決まってる!!」
二人の声は部屋中に響きわたる。
「闇の女王に考えなんかあるか! アイツは人間ごときを怖がった魔族の恥じ知らずだ! 三大魔族(闇、時間、空間の三つ)の魔王も落ちぶれたな」
トチの言葉を聞いた俺は完全にキレた。トチの胸ぐらに掴みかかる。
ハーフの俺だけじゃなく、ヨイヤミのことまで馬鹿にしやがって…!
コロシテヤル
自分では止めることの出来ない衝動が俺を襲う。手をトチの首にかけ、力を込める。首の骨を折るのなんて簡単だ。
トチが苦しそうにもがく。俺は構わずトチの首を曲がることのない方向に曲げようと――――
ガツンと俺の後頭部に衝撃が走る。
なん、だ?
目の前が真っ暗になり、俺の意識が途切れた。