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第2-2話

「八魔族特別室のことを説明する前に、この国の事をまず話しますね」


 少し長くなりますと前置きして話始めた。

コウはやたら詳しく説明した。


コウの話をまとめると、人と魔族の戦争は終わったとのことだった。人間達と主に戦っていたのは闇、空間、時間、火の四魔族。

魔族が優勢だったのだが、数十年前のとある事件が原因で戦争は膠着状態になっていた。

時の魔王が誕生しなかったのである。こんなことは魔族の歴史上初めてだった。

人間の場合、王が亡くなったら王の息子が次代の王になるが、魔族の場合は魔王の血筋の中から次代の王に相応しいと判断された者の瞳の色が黄金色に変わり、その瞳を持った者が新たな魔王となる。

時の王族に瞳の色が変わった者はいなかった。

時の魔王が存在しなくなったせいで、時の国は混乱に陥り、戦争どころではなくなった。

そして十数年前、闇の魔王が代替わりした。魔王ヨイヤミは人間と戦う事を止め、和平交渉を始めた。空間、火の魔族は反対したが、闇の魔王は考えを変えなかった。

空間、火の魔族は納得せず不満を持ちながらも、魔族の中でも強大な力を持つ闇の国の意志に従った。


「魔族と人は共に生きていくことにしました」

コウはそこで話をいったん切った。


「ここから八魔族特別室の話に入りますけど、何か質問はありますか?」


何でも聞いて下さいねと、ニコッと笑って言う。俺の聞きたいことは…


「今の時の国の状態はどうなっているかと、魔王は誰が決めるかを知りたい」


これが俺の最も知りたいこと。

この質問に対する答えをコウは持っているのだろうか。

期待と不安を持ってコウを見る。

コウの笑顔が消え、表情が沈む。ややして、答える。


「時の国は、国を治めるべき魔王が存在しないせいで混乱状態に陥ってしまい…国の治安は悪化する一方で、とても酷いことになっています…」


時の国はそんなことに…一気に空気が暗くなる。

コウの表情も重く、悲しそうだ。時の国の事を考えているのだろう。

コウのそんな表情は見たくない。女の子は笑っているのが一番だ。


「もう一つの質問の答えは?」


無理矢理話を変える。

コウも暗い空気を変えたかったのか、わざとらしい明るい声で答えた。


「『魔王を決めるのは誰か』…まだ解明されてません。王族の中から選ばれますが、歴代魔王達の遺志とか、神が決めているのだろうとか、いろんな説があります。私が知っているのはこれくらいです」


この質問の答えをコウは知らないのか…。

現在の時の国のことを知ることが出来たけど、黄金色の瞳のことは分からなかった。

俺は考えたい事があって黙りこむ。しばらくの間無言で俺達は歩く。

コウは様子を窺うように何度か俺の方を見た。そして心配そうな顔と声で言う。


「時の国のことが心配ですか?」

「何で俺が時の国の心配をするんだよ?」


声は平静を保てたものの、心中はけっして穏やかじゃない。

バレたのか?


「だってヨコクさん、時と闇のハーフじゃないですか。自分の国のことを心配するのは当たり前です!」


やっぱりバレてる。


「いつから俺がハーフだって気づいた?」

「ヨコクさんの名前を最初に見た時です。夜刻―名前に時を表す字が入っていましたから」


名前か…。今度からハーフだとバレないように、偽名でも使った方がいいかもしれない。

ハーフ=混血魔族(俺みたいに別属性の魔族の間に産まれた子のこと)または人と魔族の間に産まれた子のことをいう。

ハーフは魔力、体力ともに純血魔族(同じ属性同士の間に産まれた子。魔族の98%は純血魔族)と比べて大幅に能力が落ちる。

それに別属性の魔族達はけして仲が良いわけでもない。

よって別属性の魔族が結婚すると国と仲間を裏切った異端者扱いだ。ハーフは異端者の子供といわれ、忌み嫌われている。

ハーフを見分ける簡単な方法は、外見的特徴である左右色違いの瞳だ。

最近のハーフはハーフだと知られるのを嫌がり、人間の作ったカラーコンタクトをつけている。俺も紅い右眼は生まれつきのものだが、左眼は赤いカラーコンタクトだ。


コウは見たところ純血魔族のようだが、ハーフの俺を侮蔑したりせず、普通に話したりしてくれる。それだけで俺は嬉しかった。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、コウは俺に話しかける。


「ヨコクさんあの、八魔族特別室の話をしたかったんですけど、する前に仕事場に着いちゃいました」


コウの足が止まった。俺も足を止める。


「ここが仕事場か…」


五階建てのかなり大きな白い建物だ。建ってから大した年月が経っていないのか、傷や汚れは見当たらない。

入り口はガラス張りのドアで、ソファーやら観葉植物などが見えた。建物の周りには背の高い樹が数本、間隔を空けて立っている。

俺とコウは建物に近づけなかった。

間に鍵のついた門があったからだ。門には『本日は終了しました』と書かれた札が掛かっている。

試しに門を開けようとしたけど動かない。コウが言っていた門限が過ぎたからだろう。


「それではヨコクさん頼みます」


そう言ってコウは門から離れる。

すっかり忘れてたけど俺がどうにかするって言ったな…何の根拠もなく。

チラッとコウを見る。俺が失敗するなんて、これっぽっちも思ってない顔だ。

どうする、俺…。コウの期待を裏切りたくない。

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