目が覚めれば
目が覚めたらそこは……─────自室のベッドの上でした。
真っ白い世界ではなくて、わたしは心の底から安堵しました。茉莉亜の二の舞などはごめんですから。
「ふわふわ………します」
「それはそうだよ、私の姫。はじめての血に酔ったんだよ。それに朝の血は、特別魔力の強い者の血だから。で、今はふわふわだけかい?気分は悪くない?」
ぼんやりと呟けば、隣から見知った声が聞こえました。
なぜ、ここにルーカスお兄様がいるのでしょう?そして、血に酔ったとはどういうことでしょうか?
わからないことだらけですが、一つだけわかることと言えば………わたし、とっても元気です!
気分も、ちょっぴり頭がふわふわしてますね~くらいの感覚で、悪くはありません。
「気分は悪くはありません!ところで、お兄様。血に酔ったってどういうことですかっ?」
さらさらのシーツをはねのけ、ベッドの上でちょこんと正座して、お兄様が口を開くのを待ちます。
気分はさならがら、べろんべろんに酔っ払った次の日、抜け落ちている記憶の部分を他人から聞かされる二日酔い気分です。
「血はね、魔力の塊なんだよ。だから、より魔力値の高い魔族の値を飲めば、酔っ払うことがあるんだ。なれていない人がお酒を飲んだ時みたいになる。体に魔力量がついていかないせいで、溢れた部分が体に影響して酔っ払ったみたいになるんだよ」
わぉ、初耳です。
やっぱりヴァンパイアって、だれかれ構わず噛みついて血を吸い上げたりしちゃいけないんですね!
はい。肝に命じておきますよ、わたしはッ!!
「ふわふわはもう少し寝てればなおると思うから、大人しくね。あっ、そうだ私の姫に一つだけ伝言。『当分イリーは花の精気だけしか食べてはいけないよ。僕が用意するから、大人しく寝てるんだよ』ってニコラス兄さんから」
……………嘘でしょぉぉぉ!?
やっと皆と同じ食事になったと思ったのに、花の精気ですか!?
離乳食の次は、花ッ!?
というか……………花の精気って、どう食べるんですか?
茉莉亜だった時に、花茶に浮かべられていた食用の花ならば食べたことはありますが………この魔界にそんなものはあるのでしょうか??
気になります。
非常に気になりますよね?
ですが、やっと解禁になった血の方がいいです。たとえそれが度数の高いブランデーだったとしても変わりませんよ!はい。
懲りないのです、わたし。
「そんな悲しい顔しないで、私の姫。大丈夫。所詮は朝だけだよ。他は固形物だから。あとは、たまに家族の血をもらうだけだよ」
ニッコリ笑って頭を撫でてくれるルーカスお兄様に、ふにゃりと顔が緩みます。
「そうそう。私の姫は……イライザは笑ってた方が可愛いよ」
むぅ、たらしっぽいですルーカスお兄様!
でもお兄様ならば、いい気もします。何て言ったって美形ですからッ!!
ちょっぴり足が痺れてきたので正座をとき、シーツのなかにもぐります。
だいぶましになったとはいえ、まだふわふわしていますから、寝た方がいいのだと思うのですよ。
「おやすみなさい、ルーカス、お兄様………」
「おやすみ、私の姫」
穏やかなルーカスお兄様の声を聞きながら、わたしは重くなってくる瞼を感じていました。
おやすみ一分ですから、わたし。
しかし…………特別魔力の強い者って誰でしょう?
────そんな疑問に囚われながらも、わたしは睡魔に身を委ねたのでした。