薄紅彩の想い
初投稿でしたが、
やっと完結です。
この街のモデルの街はまだ桜が咲いているでしょうか?
“カラン”
とベルが鳴り来客を知らせた。
「いらっしゃいませ。」
今日も軽いアルトの声が迎える。
グレイのインクを見てから一年程たっただろうか。私も日々を忙しく過ごし、グレイのインクはいつの間にか記憶の隅に行ってしまっていた。
入って来たのは白いコートを着た若い女性だった。
蒼白い顔色で今にも泣き出してしまいそうに見える。
泣き腫らしたように見える目元だけが紅い。
ダージリンを注文した後、何かを探すようにきょろきょろしている。
探しているのは多分Willノートだろう。
この店が出来てから通っている私はすこしは判る様になってきた。
注文したダージリンが運ばれて来たことにも気がつかずなかばすがるように、救いを求める様にページを捲る。
一冊・二冊と見ていき、店主に尋ねた。
「他‥他にノートはありませんか?」
店主が穏やかに答えた。
「それより以前の物は奥にございます。只今持って参ります。少々お待ち下さいませ。」
店主はしばらく奥にいくと何冊かのノートを持って来た。
それを受け取った彼女はまたページを捲りはじめた。まるでこの世界にはそのノート以外ないかの様に。
しばらくしてページを捲る彼女の指先が止まった。
どうやら見つけたらしい。
文字を追っている彼女の目からは今にも涙が零れそうだ。
温かかったダージリンティーが覚めてしまってもなお彼女はじっとページを見つめたままだ。
店主とサーバーがそっと目線を交わらせ、店主が注文もないのにチャイを作り始めた。
数種類のスパイスをブレンドしたこの店特製のチャイだ。
出来上がったチャイがサーバーのてで静かに運ばれる。
チャイのカップがコトリと置かれると、その音が彼女を現実に引き戻したかの様に、彼女の中の時が周りの時に合わせて動き出した。
はっ。とした表情になり零れる直前だった涙が頬を伝った。
「よろしければお召し上がり下さい。暖まりますよ。」
穏やかな声でサーバーが言った。
彼女はぼうぜんと見つめる。
サーバーは続けて
「温かいうちにお召し上がり下さいませ。」
と言い下がる。
彼女がゆっくりとカップに触れて飲みはじめた。
私はこんなときの彼女達の複雑な胸中を思う。
なぜこの店をはじめたのかを。
そして彼から彼女への最期の意思を思う。
それから、しばらくしてこの街の住人は一人増えた。
そして
―春―
今年も桜を見つめるカメラが一台。
シャッターを切る者はいない。
しかしファインダーは薄紅彩の桜を捉え続けている。
― Fin ―
やっと完結です。
上手くまとまらなかった気がしますが、
読んで下さった方々に感謝します。
ご意見・ご感想もお願い致します。
いただければ嬉しく、参考にさせていただきます。
ありがとうございました。