語り手
坂をすこし登ったところに小さな喫茶店がある。
一日の終わりに一杯の紅茶を頂く。
それが私の日課だ。
店内はアンティーク調にまとめてあるが窓を大きくとっており、オープンテラスもある割りと解放てきなスペースとなっている。そして穏やかな時を演出しているのは、国籍不問オーナーがキレイだと思ったらなんでもありのバラード調の音楽だ。 これでオーナーが猫ならばあるいみ完璧なのだが実際はオーナーでキッチン担当のたれ目とサーブ担当のつり目だ。そしてこの店最大の特徴は片隅に置かれたwillと書かれたノートである。
様々な人が書いていき様々な人が読んでいくこのノートが去り行く側の意思がすこしでも伝わり、すこしでも残される側の慰めとなることを祈る。
人は出会った瞬間から去り行くか残されるかという終着点に向かっていく。
(少なくとも私はそう考えている。)そしていつか自分が人生のラスト・ステーションに辿り着いた時の最後のwill(意思)‥‥。
・ ・ ・ ・
今年も桜の季節がやって来た。北に位置するこの街は冬が長い。桜は雪の白から春の薄紅へと変えていく。その桜がこの店の庭にもある。
そして桜が咲く間だけ特別ゲストがくる。小さなテーブルを専用席として一眼レフと言うのだろか?立派なカメラが桜を見ている。
“彼”は毎朝恋人に抱かれてやって来る。夕方に彼女が迎えに来る。それまでの間じっと桜を見ている。
そう。2人の話をしよう。