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ヤンデレ幼馴染とツンデレ猫、今日も平和です(たぶん)

作者: しぃ太郎

「エリク。近いってば……!」

「だって、リリアはすぐに俺から逃げるんだもん」

「あ〜……。騙されてるにゃん」


 ◇◇◇


 ――その頃の私。


「わたし、自分だけの理想の旦那を作り上げるわ」

「まーた、バカな事を言いだした」


 私は、使い魔のシルの頭を撫でた。

 可愛らしい肉球が、それを阻止する。生意気だ。


「前世の失敗を繰り返したくないんだもの」

「あぁ、男を見る目がなかった話かにゃ?」

「――また、この猫は!」



 その時。


 少し離れた場所から怒鳴り声が聞こえた。

 私は、生垣からそっと覗いてみる。

 身体の大きな子達が、痩せた幼い子を突き飛ばしていた。


(イジメめか。あまり関わりたくないけど)


 私は、ショートケーキを3切れほど取り、走り出した。

 そしてその虐めっ子に向けてケーキをぶちまけた。


 ――グシャ!


 男の子の胸から生クリームがポタリと落ちていく。

 あまりの事に声も出せないようだった。


「ごめんなさい……! 私、足がもつれて。大人を呼んできます……!」

「あ、いや……!」


 彼らは顔を見合わせ、視線をそらした。

 もー!ここはさっさと退散する場面でしょうが!


「……チッ!――行くぞ」


 彼らはすぐにどこかへ消えていった。

 ――よし!


 私は、尻もちをついている少年に声をかける。

 目元も赤くなって、ズボンが汚れてしまっていた。


 まったく、どこの世界にもジャ◯アンはいるのね。

 その子に手を伸ばす。


「大丈夫?」

「あ、ああありがどう……。ぼぼ僕、こ、こんな喋りかたしか、で、できなくて」

「そっかぁ」


 必死にお礼を伝えてくれる。

 しかし、彼の息が浅くなっている。


「きき、きみの名前は……」

「私は、リリア。……大丈夫、ゆっくり話していいから」

「リリリリア。ぼ、ぼくの名前は……」


 視線を下に向け、手が落ち着かないみたい。


「エ、エリク」

「うん、エリク。とりあえず、あっちに行きましょう!」


 ベンチがある方向へ誘導する。

 今にも倒れそうなのに、気の毒すぎる。

 でも、その地味な茶色の髪、安心するわ。


 チラリ、と視線を横にやると彼の耳が赤かった。


(あらあらあら。そのくらいの歳じゃ免疫ないわよね〜)


「微笑ましい」

「え、え。な、なにが?」


 ――はっ!声に出していた。

 うーん。この子に決めちゃう?

 いやいや。純粋そうだから騙してる気分になるわ。


 私はへらっと笑って誤魔化した。

 そして、彼も少し視線を外しながら、口もとを緩めた。


「じゃあ、私はこれで。人を探してるから、またね」

「ま、まままたね」


 彼が服の裾をギュッと握りしめて、挨拶してくれる。

 真っ赤になって、可愛らしい。


「あ〜あ。完全に落としちゃった。罪作りだにゃ」

「違うわ。ただの親切心。私は、同い年か少し年上がいいのよ」


 足元の猫はトテトテとついてくる。

 そういえば、いつから一緒だったっけ。

 なんでだろう、忘れちゃった。


 でも、何でも話せる友達だった。


 前世からイケメン以外にも、溺愛が好きだ。

 この際、顔は気にしない。執着されて溺愛される恋愛がしてみたい。

 ――そんな話を、この猫に何度も聞かせていた。


 そうして、私は再び物色し始めた。

 今日は、貴婦人のお茶会。

 ここは参加者が連れてきた、子どもだけの会場だった。


 私は伯爵令嬢。10歳。

 王族に繋がりなし。

 いいポジション。


 今の私なら、溺愛男子を作れるのでは?

 幼い頃から手懐ければ、浮気しないのでは?

 ――そう考えたら、止まらなかった。


 狙い目は、モテなさそうなモブ仲間だ。

 茶髪、くすんだ金髪、緑がかった黒髪。


 金髪、銀髪、漆黒、赤髪。この辺りを避けて生きる。

 奴らはモテる。

 そして真実の愛に目覚めるのよ。知らんけど。


 そう。

 顔で選ぶと失敗する。

 他の女に靡く男なんて願い下げだ。

 どっちにしろ、顔が良すぎるハイスペックな人は面倒だわ。


「あのねぇ。そんなに都合のいい相手なんて転がってないよ?」


 達観したことを告げる猫。退屈そうに欠伸をしている。


「いいの、子どもの夢を壊さないで!」

「欲望の間違いだにゃぁ」




 ――次の日、エリクが会いに来た。


 その手には、小さな花束が握られていた。

 ギュッと目を閉じて私の前に差し出してくる。


「こ、こ、これ。お、お礼で……!」

「ありがとう。お花を貰ったのは初めてよ」


 それを受け取り、顔にそっと寄せてみる。

 とてもいい香りがした。

 そして、花の種類も色も、ばらばらだった。


「じゃあ、今度は私がお礼をしなきゃね!」

「き、き、君は馬鹿にしないんだね……」


 私の答えを待つ間、指が震えている。


「大丈夫よ。馬鹿になんてしないから」

「う、うん」

「だから、お友だちになりましょう?」


 その瞬間、エリクの瞳が輝いた気がした。濃くて深みのある碧い瞳。

 それが私に向けられる。

 ――少しだけ、ほんのちょっとだけ照れてしまうじゃないの。

 私は熱くなった顔を隠すように、彼の手を引いて屋敷の中へと招き入れた。


「にゃぁ。リリア、二回目の罪作り」


 ◇◇◇


  そうして、私の幼少期が終わった。


 早い。

 恋なんてない。

 ――たぶん。


 異性の知り合いなんて、エリクくらいしか出来なかった。

 私は頑張った。出来ることはやった。

 だけど、デビュタント前では、なかなか出会いがない。


「学園よ。学生同士の恋愛。好みの地味な男性が見つかるかもしれないわ!」

「エリクはどうするの?だいぶ懐かれてるけど?」


 エリク。あの出会いから、ずっと付き合いのある幼馴染だ。

 しかし。


「今や金髪碧眼だもの!スペックお化けだもの!地雷だわ」


 そう。彼は頑張った。吃音も治し、今や大人気の公爵令息だ。

 それでも条件が整いすぎている。

 茶髪だった髪は、成長するにつれ金髪へ。


「モブ仲間だと思って油断していたわ」

「結局、見る目がない」

「こら、生意気猫」


 しかし、あの顔、あの身長、そして温和な性格。

 例えるならポスターで中央に描かれるやつだ。

 浮気は……しなそうだけど。

 女の子絡みのトラブルが多そうなのと、今さら感が凄いからなぁ。


 そして、今日は入学式。

 新しい出会いに胸を躍らせるのは仕方がない。

 つい、歩みも軽快なものになる。


「甘いねぇ。リリアは」

「何が?」

「執着溺愛がいいって言っておきながら、全く理解できてないのが、おバカだにゃぁって」


 相変わらず生意気猫め!捕まえようとするが、スルリと逃げる。さすが猫。


「リリア!良かった、一緒に登校したかったんだ」


 後ろから、制服姿のエリクが走ってくる。

 周囲から黄色い声が上がった。

 こら!目立っちゃうじゃない。私は地味でいいのよ……!


 彼は、自然と私の隣を歩き出した。

 ――近い。

 少しだけ離れようと、ふと隣を見ると。

 前とは目線が違う。

 それに、なんだか声も低くなったような……。

 なぜか気まずくなって話しかける。


「エリク……。あなた、首席の挨拶があるんじゃ……」

「そんなもの、他の人に譲るに決まってる」

「色々と敵を作りそうなことを……」


 当たり前のように話す彼に、頭が痛い。


 にゃぁ。シルが一声鳴いた。

 エリクと話していると、いつも割り込んでくる。

 あまりの可愛さに、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「やぁ、シル。猫なのに、ずいぶんとリリアに甘えてるね?」

「これは、サービスにゃ。猫の世界では常識なの」


 なぜかこの二人は相性が良くない。

 少し残念だが、猫の良さは私が知っている。


 ――しかし、サービスだったのか……。

 後で何かを貢いでおこう。

 最近は使い魔用のご飯のラインナップも増えている。


 そういえば。


「エリクの使い魔はお留守番ね……」

 彼の使い魔は狼犬だ。あまりにも大きいので、申請が通らなかったようだ。


「あぁ。ウォルなら心配いらないよ。退屈しないように、ちゃんと役目を与えているから」

「へぇ。さすがエリクね。お留守番の子のことも考えてあげるなんて」

「首輪を外してるだけだにゃ」


 その言葉に、クスッと笑いが漏れる。

 そもそも、シルは首輪を嫌うのに。


「何?シルは首輪が欲しい?」

「そういう話じゃなくて――。まぁ、噛みつかなければ関係ないか……」


 うちの猫が意味不明な事を言うのはいつものことだ。

 私は、目の前の彼に宣言した。


「私、この学園で婚約者を探すつもりなの。……エリクがいると邪魔なのよね」

「……え!?」

「……ザマァ」

 シルの尻尾が、パシリとエリクの足を打った。

「……ええ、シル。ザマァは怖いわ……」


 こうして、入学1日目は閉じていった。






 それから数日後。


 移動教室の時に、私は見つけてしまった。

 モブの証、茶髪の彼を。


「名前は何かしら! 騎士科の所属みたい。あぁ、あの地味さが安心できるわ」


 私はうっとりとシルに報告した。

 今はお昼休憩の時間だ。


「……へぇ。俺も会ってみたいね」


 今まで気配がなかったのに、いきなり声が振ってきた。

 聞き慣れた男性の声。

 私の目の前には、常に女生徒に囲まれているはずのエリクがいた。


「え……! エリク、どこから現れたの!?」

「たまたま通りがかったら、楽しそうな話をしてたから」

「あーあ、地雷が作動したにゃ」


 シルは私の後方を見ている。

 パシリ、パシリと尻尾を地面にうつ。

 苛立っている時の癖だった。

 私は振り返ってみる。


 ――何もないけど?

 頭を傾げる。

 そこにあるのは、拓けた芝生だけだ。


 エリクがゆっくりとした口調で話しかけてくる。

 いつもより甘ったるい声音だった。


「それで、騎士科の茶髪?……誰かな? 」

「地味で、とにかく地味。無味無臭みたいな。あ、そばかすがあったかな?」

「地味ねぇ。ブラン・モーブリー?」

「え!……モンブランみたい。昔、好きだったのよねぇ」


 この世界にないケーキを思い出し、つい言葉にしてしまう。

 しかし、なんて覚えやすい名前かしら。


「……そう。俺も地味だよ?」

「何言ってんの、そのド派手な顔面で。とにかく、モテなさそうな人がいいのよ。エリクは却下」


 彼が地味?世の男子が泣いちゃうわね。

 あまりにも勘違いしてるわ。どこの世界基準だ。


「あーあ、リリアは絶妙なお馬鹿だにゃ」

「おかげで名前がわかったわ。ありがとう」


 しかし、騎士科の人にまで詳しいなんて。


「エリクは、相変わらず顔が広いのね。知り合いなら紹介してくれない?」

「嫌だ。それに知り合いじゃない」


 はい?じゃあなんで名前を知ってるの??


「……生徒名簿を丸暗記なんてしてないわよね?」


 さすがに無理よね。

 彼は天才ってわけじゃない。


「してるよ? 特に、気になる生徒が何人も居たからね。ブランもその一人だったんだ」

「してるんかい――じゃなかった。すごいね。 気になる女子でもいた? エリクならすぐにアプローチ出来そうだけど」

「……そうだったらいいのにね」


 エリクの指が何故かこちらに伸びてくる。

 あまりにも自然で、身じろぎも出来なかった。


 にゃぁ、とシルがひと鳴きした。

 ビクッ!

 瞬時に体が跳ねる。

 危なかった。これが人気の「王子様」の実力ね。


「僕の前でやめてにゃ」


 う、うわー!

 家族に見られたような気まずさだわ。

 恥ずかしいにも程がある!


「とにかく!エリクはモテ男、その時点でダメなの。周りに女の子ばっかりだわ。私だけを溺愛してくれる人がいいのーー!」

「ねぇリリア。選択肢は多いほうがいいと思うけどなぁ?」


 正直、エリクの好意は薄々感じているけど、これは地味な女には壁が高すぎる。


「俺だって、性格は地味だよ」

「地味じゃなくて、優しいだけよ。大丈夫、「正統派王子様」キャラよ」

「あはは。全然褒められた気がしないね?」


 エリクが目元を隠して笑う。

 うわ、ごめん。


 ――前みたいに、失敗したくないのよ。


「カウントダウンが始まったにゃん」


 なんの事か聞こうとして、下を見るが、すでに向こうまで移動してしまっていた。


 勝手なんだから、もう。


「リリア。……もう、見ないふりしないで」

「……。」


 私は、答えられず。

 小走りでシルを追いかけていった。


 ◇◇◇


 ――その日、私は初めてブラン・モーブリーに話しかけてみた。

 彼によると、私はエリクの取り巻き認定されていたらしい。

 取り巻き……。

 まぁ、背景らしくていいか。


 最初は気さくで話しやすかった。

 しばらくは彼と一緒に行動したり、放課後に街を散策した。


   しかし。


 私を見せびらかすように、周りの生徒に紹介する。

 そして、強請られたから仕方なくプレゼントしたものまで自慢していた。


「今、剣帯が草臥れててさ。少し困ってるんだ」

「そうなんだ。でも……」


 彼の瞳を見ると、既に貰えるものだと確信しているのだろう。気まずさや、遠慮の色はなかった。


 ――嫌だな。私、ブランのアクセサリーみたい。

 なんだろう……。

 全然楽しくないわ。他の人を探した方がいいかしら。


 地面の石を転がしながら歩いていると、見慣れた足元。

 すぐにエリクだと気づく私も大概ね。


「ねぇ、リリア。もうやめてよ」


 顔を上げると、思った以上に距離が近かった。

 彼の眉が下って、口元は引き締められている。

 夕日のせいかな。

 私も、顔が崩れてしまう。


「……うん。やめようかな」


 彼はそう言った私に微笑んで、

 ――ぽん、ぽん。

 と頭を撫でて帰っていった。




 自分の部屋に戻り、使い魔に愚痴る。


「ねぇ〜。シル〜……嫌な思いを、ずっと我慢する必要はないわよね?」

「そりゃそうだよ。――君は、アクセサリーじゃない。ちゃんとした人間だよ」


 肉球で、ポンポンと背中を叩いてくれる。

 爪が痛い。

 でも、元気が出た。


「シルーー!! 今日はお腹に顔を突っ込んでいい?最近させてくれないんだもんーー!」

「仕方ないな。5分だけね……」


 ふわふわのお腹に顔をグリグリとする。

 癒し。

 ああ、癒し。

 シルの我慢の限界が来るまで堪能させてもらった。



 翌日。


 ブランに話があったので、騎士科を訪れていた。

 ほぼ男子しかいないその校舎は、下品な言葉で溢れていた。


 その中で、聞き覚えがある声が。


「もう、あれは俺にぞっこんだね。伯爵令嬢ってのが惜しいけど、見た目も悪くないし、頼み込めばやらせてくれそうだし……」


 机に足をかけ、数人の男子と話していた。

 とっさに隠れてしまう。

 うわ。

 本性が出てるわ……。


「お、おい。それ、リリア嬢の話だよな……? エリク・ヤヴェーバー子息の話、聞いたことないのか?」


 その場にいた、一人が口を挟んだ。


「ああ、あの王子さまが悔しがる姿も早く見たいな。絶対にリリアに惚れてるだろ? 手を出されたと知った時の表情が気になる――」


「へぇ。気になるかい?……こんな顔だよ?」


 ――ブワッ!

 その一瞬で、数人が吹き飛んだ。


 突然のエリクの出現と共に、室内が魔力の渦で覆われる。

 背後には、彼の使い魔、狼犬の気配もする。


(これは大変だわ)


「シル……。私の鞄を取り寄せてくれる?」

「……いいよ。でもさ。……大丈夫? 簡単には止まらなそうだけど」


 シルは顎で教室内を示す。

 まずい。私では力でも魔力でも敵わない。


 でも。


 ――エリクは大切な人だ。

 こんな奴らのせいで、壊れるなんて。


 シルが空間から取り出した私の鞄。

 中から取り出したマフィンに、私がいつも愛用している激辛ソースをかける。


 それを持って、彼らのもとへ。

 物凄い魔力の渦の中を、腕で視界を庇い前に進んでいく。

 圧が凄い。

 ようやく――、

 ブラン・モーブリーの前までたどり着く。


「これ、すぐに売り切れて食べられないから、取り寄せてほしいって言ってましたよね」


 シルは健気にも、エリクと狼犬の間で私を守ってくれているようだ。


「リリア嬢……! もしかして助けにきて……」

「いいえ、最後にご所望のデザートを持ってきました」


 両手に持ったそれを、彼に見えるように掲げた。

 ブランが、真っ赤に染まったそれを見て、顔を青くする。


「私の痛みを思い知れーー!」


 そして、無理やり詰め込まれた彼は声を詰まらせた。

 くるりと数人の男子を視界に入れる。


「どうぞ。味には自信がありますよ?」


 両手には、新たに取り出した真っ赤なマフィン。

 誰もが喉をゴクリと鳴らして、覚悟した放課後だった。



 ◇◇◇


 ――リリアが帰った後の教室。


 先ほどの激辛ソースが効いたのか。

 誰もが咳き込んでいた。


「……誰かに言っちゃダメだよ。その時は、僕が本当の『お仕置き』を教えてあげるから」



 同時に、何もない空間から犬の唸り声が聞こえた。

 それは窓の外にいたシルにも届くほどだった。


「……ひ!?」


 エリクの視線が窓に向かう。

 そこからは、ふらふらと動く尻尾が覗いていた。


「シル。君のご主人様には内緒だよ?」

「……君の味方じゃないけど。やり足りないとは思ってたんだよね」

「じゃあ、共犯だ」

「さあね」


 シルは猫。でもリリアは気に入っている。

 味方になるかどうかは、エリク次第だ。


「それにしても、シル……。君は不思議だね……」


 彼の言葉に答えもせずに、シルはいつも通りに帰って行った。


 ◇◇◇


「この前のマフィン、今度一緒に食べる?有名店なのよ」


 学園のテラスで二人でランチを取る。

 何故だろうか。

 エリクのファンは、いつの間にか解散していた。

 今では睨まれることもなく、快適な日々だ。


「モーブリーはもういいの?」

「いいのよ。地味だから優しいなんて幻想だわ!もう、何を信じればいいのかしら」


 ブスリとミートボールを突き刺す。

 うん。前世と似た味だ。

 でも、それに拘り過ぎていたかもしれない。


「目の前の事を信じればいいんじゃない?」


 エリクがふわりと笑った。

 春の日差しに照らされた彼の髪は、柔らかく輝いた。


 だからといって。

 それがどうしたというのだろう。


「エリクの髪は優しい金色ね。この暖かい陽気に似合っているわ」

「……! お、おお俺も。……リリアの淡いミルクティーみたいな髪も、チョコレートみたいな瞳も。――してるよ……」


 最後の言葉は小さすぎて聞き取れなかった。


 幼い頃に出会った彼は茶髪で気弱で。

 成長した彼は金髪になって格好良くなっていた。

 ただ、それだけの変化だった。


 まだ桜が舞っている時期だ。春は出会いと期待。

 そして、何かが始まる季節だ。


 少し離れた木の上で、一匹の猫が身体を丸める。


「リリア……そいつは思った以上に厄介だよ」

 猫は、尻尾でパチンと枝を叩いた。

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