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第三章 買い物 ー初めてのデート?ー

前回から少々時間が空いてしまいましたが「ウチに先生がいる!?」第三章をお届けします。

今回も前回に引き続き日常回ですが、ちょっと前回とは趣を変えてあります。それがどのようなものかは、ぜひ読んでご確認ください。

「ふわぁぁ、おはよー」

「おはよう、って、もう十時だよ」

 リビングでのんびり休日を味わっていたところへ、自室からあず姉が乱れた髪をかきながら降りてきた。

「たまの休みくらいゆっくり寝かせてよぉ」

 まだ声はだいぶ眠そうだ。オレは苦笑する。

「……そういえば、父さんと母さんは?」

 あず姉は首を左右に振って二人の姿を探しているようだ。

「二人なら朝から出かけてるよ。夕食までには帰るって」

「またデート?」

 あきれたようにあず姉が言う。そう、あの二人は結婚してもずっとラブラブなのだ。

「ふむ」

 あず姉が焼きたてのトーストにかぶりつきながら何やら考えている。

「どうかした?」

「いや、今日のうちに夏物の服買いに行こうかなあって」

 なるほど。あず姉は結構帰ってくるのが遅いから仕事帰りに買い物によるのはなかなか難しいようだし、そうなると週末に行くしかなくなってくる。

「いいんじゃない? 行っといでよ」

 そう言うとあず姉は意外そうな顔をしてオレのほうを見てくる。

「何言ってるの。まー君一人この家に置いとける訳ないじゃない。一緒に行くのよ」

「やだよ! レディスの服売り場になんて入りたくねぇよ!」

 オレは婦人服売り場にぽつんと立っている自分の姿を一瞬想像して、即座に頭の中からそれを振り払う。

「えー、そんなこと言わないでさー」

 トーストの最後の一切れをマグに入ったコーヒーで胃に流し込みながらあず姉が食い下がる。

「やだって! 行くなら一人で行っといでよ!」

 思春期男子をショッピングに誘うんじゃねぇ。気恥ずかしいなんてもんじゃないだろうが。

「そんなこと言わないでさー。あ、そうだ。フラペチーノおごるから!」

「む……」

 甘党のオレはその言葉に思わず黙ってしまう。フラペチーノは一杯七、八百円以上するから、高校生の身ではそうホイホイ飲めない。それが一杯ただで飲めるという条件は決して悪いものではなかった。

「ね! このとおりっ!」

 おまけに手を合わせて拝んでくる。そこまでされると断るのもなんだか悪い気がしてくるから始末が悪い。

「ま、今回だけなら……」

「ありがとうっ! やったー、まー君とデートだー!」

「デートじゃねぇっ!」

 とんでもないことを言い出す従姉にオレは盛大にツッコむが、跳ねるように朝食の食器をシンクに入れるあず姉の耳には届いてないようだ。

「はぁ」

 盛大な溜息をつく。行く前からオレは疲れ始めていた。


 瀬戸家から歩くこと二十分ほどのところに大型ショッピングセンターがある。地下にワンフロアあり、そこでは食料品などを扱っている。地上の一階から三階はアクセサリーや雑貨、ファッションなど様々な店舗が入っている。四階から上には映画館もある。それらの中でも特に二階にはレディスのものが集中していた。

「やっぱり混んでるねえ」

 エスカレーターを上がってきたオレ達は買い物客の多さに思わず呟いた。もっとも週末だし仕方ないだろう。

「今日は何を買うつもりなのさ」

「何って決めてる訳ではないんだけど、まあTシャツとかブラウスとかかなあ」

 あず姉は顎に手を当ててやや小首をかしげるようにして考えながらそう答えた。やれやれ、これだと時間かかる可能性が高いぞ。

「あっ、とりあえずここ見てみるね」

「はいはい」

 あず姉が入っていったのはすっかり定番になったファストファッションの店だ。店内は明るく開放的だが、服は背丈より高いラックにかかっていることもあって見通しはきかない。

 まあここならメンズも結構置いているし、実際男性客もそれなりに多くいるからオレがいてもさして目立つことはないだろう。

 しかしそれでも注意しなければいけないことはある。この場面を誰か知り合いに見られることだ。特に学校の奴に見つかると非常に不味い。前に言ったとおり、オレとあず姉は学校では他人ということになっているから、こんなところを見られたら説明に窮してしまう。

 そんな事を考えながらきょろきょろと左右を見回しながら前をいくあず姉のあとを着いていく。そのあず姉は目に付く服を手に取ってデザインや手触りを確かめているが、これといったものが見つからないのか、どんどん奥へと進んでいく。

「ねえ、これなんかどうかなあ?」

 あず姉が一着を手に取って自分の上半身に当ててこっちを向いた。淡いクリーム色の生地のど真ん中に大きくどこかの風景写真がプリントされているTシャツだ。

「うん、いいんじゃない」

 オレは曖昧に返事する。と、あず姉は何故がつまらなさそうな顔をしてそれをラックに戻した。

 少し移動して今度は白いチュニックに手を伸ばす。細かいギャザーが入ってシルエット的にもふんわりしているし涼しそうだ。

「涼しそうでいいんじゃない」

 オレは思ったことを素直に言葉にして答える。だがやっぱりあず姉はむーと不満そうな顔を崩さない。

「感情がこもってない」

「いやだってオレ、ファッションとかよくわかんないし!」

 こんなことで文句を言われるのは理不尽だ。しかしそんな言葉を口にできる訳もなく、その後も店内を進んでいくあず姉のあとを黙ってついていく。

 結局この店ではめぼしいものがなかったようで、三十分ほど見ると一度店を出て別の店舗を探してショッピングセンターの通路を二人で歩いて行く。天井は高く、間接照明だが充分な明るさがあった。買い物客は多かったが、そのせいもあってあまり圧迫感は感じない。

「今度はあそこ見てみる」

 そこは二、三十代をターゲットにした比較的リーズナブルな品揃えで有名な全国展開しているアパレルショップだ。店頭には各種デニムが平台で積み上げられ、マネキンにも着せられている。

「デニムもいいんだけどねえ」

 横目で見ながらあず姉は店内へと脚を進める。そういえばあず姉がデニム履いているの見たことない気も……。

 ここは先ほどの店舗とは違ってラックはそれほど高くはなく、視線を遮るほどではない。その代わりラックの上にマネキンが多数立っているので、なんとなく見下ろされているような気分にはなる。店内は通路からはやや暗くなっており、木目調の店内装飾とあいまって落ち着いた雰囲気になっている。

 そう、ここは店頭のデニムといい、全体にカントリー調のファッションを扱っている店だった。今あず姉が見ているのも平台に並べられたTシャツだし、全般にかなりラフなデザインの品揃えとなっている。

(そういえばあず姉の服の好みって知らねぇな)

 普段はひどくだらけた格好をしているくせ、学校ではスーツ姿なので普通?の服装はよくわからない。ただまあこんな店を覗くぐらいだから、あまりカチッとした服ではないことだけは確かだろう。

 あず姉はTシャツが並べられた台からトップスが釣られているラックへと移動している。上に立っているマネキンの格好を見るにキャミソール系か。肩まで出たデザインは確かに涼しそうだし、楽そうでもある。

 しばらくハンガーラックに釣られている服を見ていたが、あず姉はそこから二着ほど取り出してこっちに向いてきた。

「どっちがいいかな?」

 そう言って彼女は一方は淡いブルー、もう一方は淡いピンクのキャミTを交互に自分の上半身に当てて尋ねてきた。

「んー」

 どっちも悪くない。ブルーも涼しそうだし。だがオレは反射的に思ったことを口にしていた。

「ピンクのほうがいいんじゃない? かわいいし」

(いや、十も年上の女性にカワイイは不味かったか?)

 直後にオレは言った言葉に後悔したが、あず姉の反応は予想外のものだった。

「あ、うん。ありがと……」

(へ?)

 やや店内の照明が暗いから屈んだあず姉の表情はよくわからないが、なんだか照れてる……?

 わずかに前屈みになって服のサイズを確認している横顔を少し離れたところから見ながら、これはかすかに混乱していた。いや、何で?

「じゃあこれ、ちょっと買ってくる」

 そう言うとそそくさとあず姉はレジのほうへと行ってしまった。

「あ、他のを見なくていいの?」

 オレはその背に声をかける。ここはファストファッションという訳でもないが、それでもアパレルとしてはかなりリーズナブルな値段で服が買える。もう一着か二着、一緒に買っとくという手もあると思うが、どうやらあず姉にその考えはないらしい。

「まあ、あず姉自身のことだからいいけどさ」

 しかしさっきの服、結構肩紐細かったな。あれじゃあオフショルダーも変わんないんじゃないか。そこまで考えて、オレはあることに気が付いた。

(ブラ、どうすんだ?)

 チューブトップってもんがあるのは知っているが、あれって結構サイズ小さめじゃなかったっけ? あず姉のモノが収まるのか?

 実は後々ストラップの外せるブラやら、そもそも肩紐のないストラップレスブラなるものがあることを知るのだが、この時はそんな知識もなく、一人悶々としていた。

「お待たせー、って、どうしたの?」

 神妙な顔で一人考え込んでいたところにあず姉が戻ってきて、オレは我に返った。

「あ、いや、別に……そうだ。他の服は見なくていいの?」

「んー、今日はいいや」

「そう? じゃあとりあえず出る?」

 そう言うと振り返って店の出口を目指したとき、オレの視界に向かいの店が入ってきた。

(え?)

 全般にパステル調の色彩に彩られ、ところどころに赤や黒のようなくっきりした色がちりばめられている。店構えはそこまで大きくないものの、白っぽい内装のせいか閉塞感はない。

 しかし、である。そこに並んでいるのは店内のラックに掛けられているものからマネキンが着用しているものまで全て女性用の下着だった。

 そう、向かいはランジェリーショップだったのだ。


「!」

「? ああ、あれね。何? 興味あるの?」

「んな訳あるか!」

 外出先なので声は抑え気味だが、それでもオレは反射的にあず姉にツッコむ。

「そーおー? 思春期の男の子なんだもん。別にああいうのに興味があっても不思議じゃないと思うけど?」

「いや、ま、それはそうかもだけど……」

 なんとかアパレルショップからは出たが、その場で思わず立ち止まってチラチラ横目で向かいのランジェリーショップを見てしまう。

「あ、そだ。ここでも買い物しようっと」

「ええっ!?」

 いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ。ここだとレディス専門のアパレルショップよりさらにいたたまれないんだが!

 そんなオレの思いを無視してあず姉はそのランジェリーショップへと入っていく。その後を追いかける訳にもいかず、オレは憮然とした表情で店のほうに背を向けて立っている。

「ねーえー、まー君も一緒に選んでよー」

 選べる訳ねぇだろ! オレは内心で絶叫しつつ、ふるふるとその身を震わせてやり場のない怒りに耐えていた。

「んーもーしょうがないなあ」

 そう言うとあず姉はどうやら一人で物色し始めたようだ。オレはできるだけ早く終わりますようにと祈ったが、しばらくしてあず姉と店員らしき女性のやりとりが聞こえてきた。

(あぁ、こりゃあ長くなりそうだなぁ)

「お客様ですとEはありそうですが……」

(ん? E?)

 思わず聞き耳を立ててしまう。

「正確に計ってみましょうか」

「変わってないと思うんだけど」

 奥のほうへと足音が遠ざかっていく。

 オレもあず姉のサイズなんか知っている訳はない。だがまあ、とりあえずバストは結構あるほうだとは思ってはいたが、Eもあるとは思ってもいなかった。

(あれでEなんだ)

 そういえば最近になって暑くなってきたこともあり、授業でもあず姉は上着は脱いでいることが多くなったが、ワイシャツは結構パツパツに膨らんでいた。そう考えるとEくらいはあるのかもしれない。

(しかも今、改めて採寸し直してんだよな。ということはもっと大きい可能性も……)

 ということはFカップ!? そんなの実際にあるんだ!?

 何しろ思春期の男子でそっち方面の知識は恐ろしく偏ってる自覚はあるから、そもそも世間一般の標準というものがわからない。せいぜいがコミック誌のグラビア程度の情報しかないのだから仕方ないと言えばそれまでなのだが。

 そこで背後からシャッとカーテンの開くような音が聞こえる。

「やはりEでしたね」

「カップはEだけど……」

「ま、まあ一時的なものという可能性もありますし」

 ん? 何だ?

 オレはまた背後でのやりとりに耳を澄ます。心なしか店員の声が引きつってる気がするが。

 そうすると意外にすぐ後ろからあず姉に声を掛けられた。

「これなんかどう思う?」

 ん? とそれまでの店員とのやりとりに気を取られて不用意に振り向いてしまった。そこには手にブラウンのシックな色合いの、サテン地の光沢を放つ二つのカップの付いた物を持つあず姉が立っている。

「!」

 それがブラジャーだと認識するより早く、オレは回れ右をする。

「な、なんでそんなのオレに聞くんだよ!」

「だって他に聞く人いないし」

 いやそれはそうだけど。

「似合ってるかどうかなんて……」

 ちらっとオレは横目であず姉のほうを振り向く。

 今日のあず姉は淡い黄色のシャツ姿で結構胸が目立つ格好をしている。その胸元にブラウンの下着を押し当てている姿は、まるで下着だけで立っているようにオレには見えた。

「ちょっ、と、とにかく中へ!」

 オレは慌ててあず姉を店の奥のほうへと押し込むように連れていく。あれじゃまるで道端に立ってる痴女じゃねぇか。

 そしてそこでオレは自分がした間違いに気付く。右も左もパステルカラーや原色のランジェリーが一杯。中にはレースがふんだんに使われたものもあり、その細かさにオレは思わず見とれてしまった。

「やっぱり好きなんじゃない」

「! ち、ちがっ!」

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべてあず姉がオレの顔を覗き込んでくる。思わず顔を逸らそうとするが、そっちにも可憐な下着が飾ってあって、目のやり場に困ってしまう。

「まー君はこういうオーソドックスな方が好きなの?」

 あず姉がそのあたりにあるハンガーに釣られた上下セットの一つを取ってこっちに見せる。

 オーソドックスとは?

「そ、そういう訳じゃあ……」

「んーでも、こういうのって薄着だと透ける可能性があるんだよねー」

 聞いちゃいねぇ。

 あず姉は手に取ったランジェリーセットをためすつがめつ見ていたが、結局元に戻す。

「今回はこういうのはパスかなあ」

 そう言ってもう片方の手に持っていた、あのブラウンのブラをまた持ち上げる。

「で! どうかな?」

「いやどうかなじゃねえって」

 改めて見るとデカいな、と思う。Eカップってこんなにあるんだと妙なところで感心してしまう。

 そのブラは変に媚びておらず、見ようによっては水着かと思うほど下着感が薄い。ちょっとシックすぎるような気もするが。

「色が濃いね」

「ん? ああ、これだと透けるかなあ?」

 そう言ってすぐ後ろに控えていた店員にあず姉が聞く。

「そうですねえ。上に着るシャツが淡い色の薄手の生地だった場合、この色だと透けることもあるかもしれませんね」

 そう言って同じようなデザインの、今度は淡いブルーのブラを手に取るとあず姉に示した。

「こちらなどでしたらそのような心配もないかと」

 あず姉はそれを受け取ると再び自分の胸元に着けてみた。

「どう思う?」

「うん、いいんじゃ、ないかな?」

 後半は目を逸らしつつオレは答える。いやだって一気に下着感が増したし、まじまじと見ることなんかできねぇって。

「そちらでしたらサイズも問題ありませんよ」

「じゃあこれ頂こうかな」

「ありがとうございます。ではこちらへ」

 そう言って店員はレジのほうへとあず姉を案内する。オレは店内にいてもしょうがないし、そもそもまわりの視線に耐えられそうもないので逃げるように店の前まで待避する。

 思春期男子の純情を弄びやがってと心の内で愚痴るが、そうは言っても普段は目にすることもないレースやサテン地の小さな布の数々は、しばらく脳裏に残りそうだ。オレは男の悲しいさがに頭を抱える。

「おまたせー、待ったー? って、どうしたの? 気分でも悪いの?」

「……別に」

 オレはぼそっと不機嫌そうに呟く。

「えっ、もしかして怒った? 怒ってる?」

 あず姉がちょっと慌てた声でオレの前に立って顔を覗き込んでくる。

「そんなんじゃねぇよ」

 うーん、内容と口調が合ってないのが自分でもわかる。

「ゴメン! ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった!」

 そう言ってあず姉は買ったばかりのランジェリーショップの袋を持ったままの手を合わせて謝ってくる。

「いや、別にそういう訳じゃあ……」

 視線を逸らしつつ、オレはもごもごと口の中で答えた。顔がちょっと火照っている。赤くなっているかもな。

「わかった! じゃあ休憩にフラペチーノ飲みにいこう!」


 オレ達はフロアを移動して喫茶店のある一階に降りてきた。

「もう夏だねー」

 あず姉が窓から外を見て言う。オレもそっちを見るが、ショッピングセンター前の歩道には眩しいほどの日光が反射している。まだ梅雨は明けていないと思うのだが、雨雲はどこに行ったんだろう。

 それとは対照的にショッピングセンター内は冷房が効いていて快適だ。あず姉と二人で通路を進んでいく。まだ午前だというのに相変わらず人影は多い。

「ああ、あった! あそこだよ!」

 国内に大規模出店しているチェーンの喫茶店はショッピングセンターの一角にかなり大きな面積を占めているが、それでも店内にはそれなりの人数の客がいた。

「こんな時間なのに結構いるね」

 オレは自分たちのことは棚に上げて半ばあきれたように意外に混雑しているその状況を見て言った。

「暑いし、ここならゆっくりできるからねー」

 この店は店内のレイアウトが比較的ゆったりとしており、またコンセントなども自由に使えるためにノートパソコンなどを広げて学生が大学の課題をやっていたりビジネスマンが仕事をしていたりしている。そんな人たちは当然長居するから、必然的に混雑が常態化するという訳だ。

「カウンターも並んでるな」

 セルフサービスなのでカウンターで注文後、そのまま横へ移動して出される商品を受け取るのだが、そこにも何人か並んで待っている人がいる。もっともそれほど多くはない。

「席取ってから並ぼうか」

 オレ達は店内に入ると空いている席を探してそこにカバンを置くと、財布だけ持ってレジの列に並んだ。

「む」

「ん? どうかした?」

 あず姉が奇妙な声を上げたので、オレは尋ねる。

「まー君、身長何センチ?」

「は? 百七十だけど?」

「むー、わたしより四センチも高いじゃない! まー君のくせに!」

 そう言ってレジ待ちで並んで立っているオレの脇腹をツンツン指で突いてくる。

「痛ぇって。ガチで痛ぇから」

 オレは身体を反らすようにしてあず姉の指から逃れようとする。身長差を責められてもどうすることもできない。別に意図してこうなった訳じゃないし。

 あず姉も女性としては高い方なのだろうが、オレも幸いというか、この年の男子にすれば結構背の高い方になるので、彼女をいつの間にか追い抜いていたようだ。

(別の部分がでっかいじゃなん……)

 こっそりオレは横目であず姉の胸元を見る。ついさっきの店員とあず姉の会話を思い出す。

(これでE……)

 横から見ているので黄色いブラウスを持ち上げているそのボリュームが嫌でもわかる。

「ん? どうかした?」

「いや、別に……」

 オレは視線を逸らして知らんふりをするとあず姉はそれ以上ツッコんでこなかった。気が付いていなかったのかな?

「まー君は何にするの?」

「あー、オレはチョコカカオエスプレッソフラペチーノかなぁ」

 カウンター内の壁面上部にでかでかと表示されている季節限定のメニューを見ながらオレは言った。これは濃褐色のチョコ味のフラペチーノ、だと思う。

「まー君チョコ好きだもんね」

 ニコニコしながらあず姉が答えた。

「……何?」

「いやあ、別にー」

「子供って思ってんだろ」

「ソンナコトナイヨ?」

「こっち見て言えよ!」

 明後日のほうを見て棒読みで答えるあず姉に激しくツッコみながら列に並んでいると、オレ達の順番になった。

「いらっしゃいませー!」

 店内で飲食するか持ち帰りかを聞かれたので店内でとあず姉が答え、オレはチョコカカオエスプレッソフラペチーノを、あず姉はメロンクリームのフラペチーノをそれぞれ注文するとカウンターを横に移動して頼んだものができるのを待つ。

「あず姉だって結局メロンじゃん」

「メロンは大人も食べるんだよ?」

 知らなかった? とでも言いたげに真顔で返してくる彼女に言い返す。

「チョコレートだって大人も食うじゃねぇか!」

「声が大きいって」

「!」

 慌てて辺りを見回すと、少数だが店内の何人かがこっちを見ている。オレは声を潜めて抗議した。

「あず姉のせいだからな!」

「はいはい、わかったわかった」

 そう言いながらできあがった二つをトレーに乗せ、歩き出す。

「あ、オレが持とうか?」

「いいよ別に、これくらい」

 言っている間に確保していた席に着いたのであず姉がトレーをテーブルに置く。オレは席に着きながら透明なプラスチックカップに入った、ほとんど黒に近い濃褐色のフラペチーノを取ると、ストローを袋から出してカップに突き入れる。わずかな抵抗感をストロー越しに感じつつフラペチーノに刺さるとそれは自立した。

 あず姉も向かいの席で自分のオレンジ色と白がまだらになったフラペチーノにストローを同じように刺す。

「じゃあ、いただきます」

「はい、どうぞ」

 一応おごって貰ったので礼を言いつつストローで吸い込む。なめらかに感じるくらい細かく砕かれた氷が口の中に入ってくるとほのかに感じる苦さに次いで、口いっぱいに広がるほどよい甘さのバランスがちょうどいい。

「うん。うまい」

「暑くなってきたから余計にね」

「それもあるんだろうね」

 言いながらストローでカップの中身を少し混ぜる。これは中にチョコチップ混ぜられ、表面にココアパウダーがかかっているので混ぜると少し味が変わる。

 混ぜたものを再びズズズッと吸い込みながら、オレは上目遣いに前を見た。

 片手で髪をかき上げながら同じようにオレンジのフラペチーノを飲んでいるあず姉が、前屈みになっているせいでブラウスの胸元からわずかに中が見えそうになっている。

「んんっ!」

 思わずむせそうになったオレは慌てて喉のつまりを取ろうとする。

「どうしたの? 大丈夫? むせた?」

 顔を上げたあず姉が心配そうに聞いてくるのが申し訳なくて、ゲホゲホと言いながら顔を逸らして大丈夫と答える。心配してこっちに身を乗り出すもんだから、余計にテーブルの上に黄色い胸が零れそうに見える。

「もう、子供じゃないんだから」

 まだちょっとゲホゲホやってるこっちを見ながらあず姉が苦笑しながら呟く。誰のせいだと思ってんだよ。

「そういえばさ」

「ん?」

 オレはストローを咥えたまま顔を上げて上目遣いにあず姉を見る。

「今度の林間学校の班って、もう決めたの?」

 オレは露骨に眉が寄るのを自覚した。

 来月に学校行事として一年生は一泊二日の林間学校に行く。オリエンテーションとしては少し遅い気もするが、意味合いとしては同じようなもんだろう。

 その林間学校では班行動が原則となっているのだが、それを決めるのがなかなかに厄介なのだ。と言うのも六人で一班なうえ、男女三人ずつにしなければならない。男三人はどうとでもなるが、女子を探すのが大変なのだ。

「その分だと苦労してそうね」

「男子はいいんだけど、女子がねぇ。何で男女別にしてくれねぇんだよ」

「それだと林間学校の意味がなくなるでしょ。集団生活を覚える場なんだから」

 オレは少し遠い目をして考える。國村はまあいいとして、もう一人は楠でも声を掛けてみるか。で、女子はどうしたもんか。

「国生さんとかとはしゃべるんでしょう?」

「あいつに声かけたらもれなく館林が着いてくるじゃん」

「何か問題あるの?」

「逆になんで問題ないと思うんだよ!?」

 オレは食い気味に反論する。

「いい娘じゃない、館林さん」

 そうだった。教師の間ではあいつは評判いいんだ。成績は優秀だし生活態度は至って真面目。国生と並び称される優等生。しかしそこに国生のコバンザメ的な性格は反映されていない。

「アイツあれで面倒なんだよぉ」

 だがしかし他に当てがある訳でもないし。

「……とりあえず国生に声かけてみるか」

 休みが明ける前からオレは重い気分に陥っていた。

いかがでしたでしょうか。梓と真の買い物デート?、お楽しみいただけたでしょうか?

さて、終盤で出てきたように次回から林間学校に入っていきます。これは複数回にわたって描く予定ですが、次回はちょっと(かなり?)間が空いてしまうと思います。すいません。

もし早く読みたいっていう方がいらっしゃったら、感想などで書いていただけると早くなる……かもしれません(^_^;

ではまたどこかでお目にかかりましょう。

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