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入学式 ー新生活の始まりー

「ウチに先生がいる?!」をお届けします。わたしとしては初めてのラブコメ、になる予定の作品ですが、今回はまだ序章的なお話だけになっています。

と言うのも今書いたようにこのジャンルは初めての挑戦で、最終的のどこに着地させようとかまったく考えてないんですよね。わたしとしてはこういうパターンは珍しいんですが、

ラブコメが書いてみたかったんで挑戦しました。

文体もラノベを意識してみたので、気軽に読んでやってください。

 オレは、西口 まこと。今年から高校に通う十五歳の健全な男子だ。

 新しく通う高校は家からでも通えないことはないんだが、微妙に遠いので親戚の家に下宿させてもらうことになり、日曜日の今日、親の車で送ってもらった。といっても小一時間で着く距離なんだけど。

「やあ、久しぶり。よく来たね真君」

 母さんの妹の瀬戸 かなでさんとその旦那さんの兼人さんが出迎えてくれる。この二人とは正月や法事などでときどき会っている。二人ともいつもニコニコと笑顔が絶えない印象だ。

 オレは大きめのボストンバッグ一つを車から降ろすと、兼人さんがそれを持ってくれた。

「荷物はこれで終わりかい?」

 事前に嵩張る荷物は宅配便で送ってあったのでこれが最後の旨告げると、それじゃあ入ろうかと歩き出す。

「勉強しっかりがんばれよ」

「おう」

 そう言うと親父は片手をあげて車に乗り込む。

「それじゃあ、息子を頼みます」

 白いセダンは親父の声を残して走り去ってしまった。

「せわしない奴」

 兼人さんが車を見送りつつそう言ったが、このあたりはあまり道幅もなく、といって駐車場に余裕がある訳でもないので、いつまでも車を止めておくことはできないから、仕方ないといえば仕方ない。

「行こうか」

 車を見送っていたオレに兼人さんは優しく声をかけてくれた。

 ガチャ、とドアを開けると一足先に家に入っていた奏さんが改めて迎えてくれる。

「いらっしゃい真君」

「はい。これからお世話になります」

 オレはやや緊張しながら玄関先でペコッと頭を下げる。と、そこへ誰かがやって来た。

「あー! 真君久しぶり!」

 瀬戸家の長女の梓さんだ。いやしかし久しぶりも何も、こないだの正月に会ったばっかりだろ……。

「高校入学おめでとう、少年!」

 黙っていれば結構美人なんだけどな……案外残念な人なんだよこの人。現に今も上下パーカーにノーメイクというラフ極まりない格好で出てきた。

「ありがとう、あず姉」

 オレは苦笑しながら礼を言う。

「梓、ちょうどいい。部屋を案内してあげてくれ。いったん荷物を置いたらリビングでお茶にでもしよう」

「はいはい、こっちだよ真君」

 そう言いながらあず姉がオレの荷物を持とうとした。

「あ、いや、いいよ。結構重いから」

「大丈夫大丈夫。大人を甘く見るでない」

 そう言いながら床に置いてあったボストンバッグを持ち上げるが。

「お、おう……」

「だ、だから自分で持っていくって」

 慌ててあず姉からバッグを取り上げてオレは背中に担ぐように持った。

 部屋は二階だ。もとはいとこの和人かずひとさんが使っていた部屋なんだけど、この春から大学進学を受けて一人暮らしを始めたので、その部屋を使わせてもらうことになった。だから最低限の家具も置いていってくれてたので、オレ的にはすごい助かる。

 部屋には先に送ってあった宅配の段ボールがいくつか積み上がっていた。

「この辺もあとで片付けないとだねぇ」

 あまり片付けが得意ではないオレはそのあず姉の言葉に曖昧に笑うしかなかった。


 この日の晩は日曜ということもあって簡単なオレの歓迎パーティを開いてくれた。唐揚げや小さなハンバーグ、フライドポテトを盛り付けた大皿をダイニングテーブルの中心に置き、それぞれの席の前にはちらし寿司が盛り付けられた皿が置かれている。特別な料理はないが、手作りの温かいものばかりだ。

「真君が成人してればビールで乾杯もできるんだがな」

 兼人さんがグラスを掲げると、残りの三人もそれぞれウーロン茶の入ったグラスをあげた。

「乾杯!」

「ようこそ、真君!」

「ありがとうございます」

 口々に出迎えの言葉を言われ、オレはそれに応えていく中でふと気が付いた。

「あれ、あず姉はビール飲まないの?」

「この子はビールは飲まないのよ」

「わたしあんまり好きじゃなーい」

「へぇ、じゃあ日本酒とか?」

「飲むとしたらウィスキーとかかなあ。ワインも飲むけど、どっちみち家ではほとんど飲まないよ。飲み会とかあれば飲むけど」

「ふーん」

 ちょっと意外。なんかビールグビグビ飲んでるイメージがあったなんて言ったら怒られるかな?

 その後食事は穏やかに進んでいき、最近は兼人さんもパソコン相手に仕事することが多くなって苦労しているだの、奏さんは週に三、四日パートに出てるだの聞いたりしたが、どうにもあず姉の職場の話になると微妙にぼかされる気がする。

「確か先生になったんだよね、高校の」

「ん」

「どこの高校? 近いの?」

「んー、まあ近いっちゃあ近いかなあ」

 終始こんな感じで一向に教えてくれない。兼人さんや奏さんのほうを見てもニコニコとするばかりでらちが明かない。

 まあでもどうでも知りたいって訳でもないし、そのうちわかるだろうと思ってオレはその場ではそれ以上突っ込んでは聞かなかった。


「お風呂、もう用意できるから先に入っちゃって」

「あ、はーい」

 奏さんが声をかけてくれたので、オレは部屋に着替えを取りに行く。荷ほどきは明日にするので、とりあえず替えの下着と寝間着のパジャマをボストンバッグから引っ張り出して階下の風呂場へ行った。

 脱衣所で服を脱いでいるとあず姉が覗きに来る。

「脱いだ服は洗濯機に入れておいて」

「は、はい……」

 よかった。まだ脱いでいたのが上だけで。

「なんなら背中流したげよっか?」

「いいいいって!」

 きゃはははと笑いながら去っていく背中に向かってオレは言いながら、これからこんな生活が続くのかとちょっとだけ不安になった。


 風呂上がりにリビングソファで兼人さんとテレビを見るともなく見ている。映っているのは夜のニュース番組だが、陰鬱なニュースばかりで気が滅入る。

「お風呂、空いたよー」

 そこへやけに陽気な声であず姉が風呂から出てきた。その声に反応するように視線を向けると、昼間以上に無防備な姿が目に飛び込んできて慌てて目をそらす。

 背中まで届く髪は拭いている途中でまだ湿っているのがよくわかる。顔はノーメイクなのはもちろん、普段ではあまり見ない眼鏡をかけていた。やや上気した頬なのは風呂上がりだからだろうか。そして何より問題なのはパジャマだ。昼間は意識しなかったが、あず姉、結構ボリュームのある身体してる! 上着を押し上げている胸や張りだしているヒップはさすがと言わざるを得ない。

「ん? どうかした?」

「い、いや、別に」

「じゃあ俺ももう入るかな」

 兼人さんがややにやつきながら風呂場のほうへと行った。

「父さん珍しいわね、こんな早くに入るなんて」

 あず姉が髪をタオルで拭きながらソファに腰掛ける。うっ、パジャマのあわせがルーズなせいで隙間から肌色が見えてしまう。オレはできるだけあず姉のほうを見ないようにした。

 彼女のパジャマは淡いピンク色で、視界の端だとうっかりすると裸に見えてしまうことにその時気が付いて改めて視線のやり場に困った。

「どうかしたの? さっきから変だよ?」

 あず姉がソファの座面に片手を突いてこっちに顔を寄せてくる。うわああっ! ルーズな襟元からノーブラの谷間が見えかけてる!

「なっ、何でもないっ! お、オレ、眠いから今日はもう寝るっ!」

 え、もう寝るの? とあず姉は訝しんだ。そりゃそうだ。まだ九時をほんの少し回ったくらいで、小学生でもこんな時間には寝ないだろ。でもオレは逃げるようにリビングにいるあず姉や奏さんにお休みと言って部屋に引き上げた。

 部屋に入るとオレはベッドに飛び込む。

「はあ、ラブコメの主人公かよってんだ。こんな生活やっていけんのかなあ?」

 その後しばらくスマホを見ていたが、やがてオレはそれも消して布団を被ると本格的に寝始めた。

 こうして瀬戸家でのオレの一日目が終わる。


「おはようございます」

 翌朝、オレはダイニングに降りてきた。

「おはよう、夕べはゆっくり眠れた?」

「はい、おかげさまで」

 と言いつつ、オレは朝食を受け取り礼を言う。

「兼人さんやあず姉はもう仕事ですか?」

 オレは部屋を見回しながらふと疑問に思ったことを言った。

「ええそうよ。兼人さんはいつも八時には家を出るわ。梓は今日は始業式の準備があるからって早くから出る必要があったみたい」

 始業式か。学校によって様々だが一学期の始業式の後に入学式をやる学校と始業式前に入学式をやる学校があるらしいが、あず姉の務めているのは前者ということか。ちなみにオレが通う学校も前のパターンで、今日が始業式で明日がオレも出る入学式だ。

 バターを多めに塗ったトーストにかぶりつく。焼きたてと言うこともあってカリッとした表面に染みたバターがうまい。

「今日は荷物の整理?」

「そうですね。まあそんなに量ないからすぐ終わると思います。あと足りないものをちょっと買い出しに行かないといけないかな? 明日の入学式のネクタイとか」

「スーツで出るの?」

「いえ、ジャケットです。でも今買っても次いつ着けんだろ」

 しばらく着ける機会はないだろう。

「それなら、兼人さんのを使えば?」

 奏さんが意外なことを言った。

「え、いいんですか?」

「別にいいわよ。一度に一本しか使わないんだし」

 それだと助かる。

「すいません。じゃあお言葉に甘えて」

「いいのよ。あとで選びましょ」

 オレは水分の少なくなった口にカフェオレを流し込む。砂糖は入っていない。

「ごちそうさま。おいしかったです」

 そう言うとオレは食器を流しに持っていって奏さんに渡し、洗面台に向かった。


 四月になったとは言え、まだまだ寒い。荷物を片付けていても暑いとは感じなかった。荷物と言ってもその大半は着替えだった。勉強道具は明日以降、教科書を貰ってから考えるし、文房具の類いは今日買いに行くつもりだった。

 オレは段ボールから出した服をタンスに押し込み、片付けていく。量はないはずだが、冬物が思っていた以上に嵩張って場所を取った。しかも時期的にまだしまい込むには躊躇する。

「明日着ていくかなあ?」

 オレはグレーのダウンジャケットをしげしげと眺めながら呟く。できれば着ていきたくはないんだが、寒ければそうも言ってられない。

「どう、片付きそう?」

 こんこんというノックの音の後、奏さんが顔を覗かせてくる。

「ああ、もうほとんど終わりました。明日の服をどうしようかなって考えていて」

「まだ花冷えするかもねえ」

 結局ダウンジャケットはすぐ取り出せるようハンガーに掛けておくことにした。

「この後出かけるの?」

「そうですね。ノートとか筆記具とか買いにいかないと」

「それならわたしもお買い物があるから、一緒に行く?」

 それはありがたいと言えばありがたい話だが。

「すいません、このあたりの地理も覚えたいので……」

 ああ、そうよねと奏さんは言うと、何かを取り出して俺の手に渡してきた。

「はい。この家の鍵。これから必要でしょ」

 ああそうだ。すっかり忘れていた。

「ありがとうございます。大切にします」

 にっこりと奏さんが微笑む。そうするとあず姉を似ているところがある。

「なくさないようにね」

 それだけ言って奏さんは階下に降りていった。その後にオレは初めてのお使いよろしく、まだ馴染めていない街での買い物に出かける。


 その日の夕刻、まだ明るいうちにあず姉が帰ってきた。

「おかえり。早いんだね」

「今日はまだ始業式だけだからね。わたしは新一年生の担任だから、今日は明日の準備がメインだったし」

 あず姉はポニーテールにまとめていた髪留めを外して長い髪を解きながら洗面所のほうに向かう。途中で奏さんと二言三言交わしながら持っていたカバンをソファに放り出す。

 しばらくして戻ってきたあず姉はもうジャージに着替え、眼鏡をかけて着ていたパンツスーツをハンガーに掛けている。

「あーもーめんどくさい。春休み明けが一番めんどくさい」

 言いながらどっかとソファに身体を沈める。

「春休み明けってそんな面倒なの?」

「新年度って言うだけで準備が山のようにあるからね。教科書なんかの選定から用意、クラス分け、教科担任選び。数え上げたらキリがないくらいあるのよ」

 なるほど。確かに言われてみればそうだ。こういう一年の準備的なものは夏休み明けや冬休み明けにはない。

「何か甘いものでも食べる?」

 奏さんがキッチンから聞いてくる。

「あー、じゃあ貰おうかな」

 あず姉がそう答えると、奏さんは冷蔵庫からシュークリームの入ったパッケージを持ってきた。

「よければ真君もどうぞ。コーヒーがいいかしら?」

「あ、すいません。お願いします」

 そう言っている間にあず姉はパッケージをバリバリと強引に開けて、中からシュークリームを一つ摘まんでかぶりついている。こんなに大雑把な人だったっけ?

「んー、甘いものが染み渡るー」

 オレは内心おっさん臭いなと苦笑しながらもテーブルに置かれたパッケージからシュークリームを取って食べ始め、奏さんが持ってきてくれたマグカップでコーヒーをすする。

「あーあ、明日からガキどもの面倒見るのかぁ。それこそ面倒だなあ」

「悪かったねガキで」

 オレの呟きにハハハと笑う。あれ、否定しない?

 んーっとあず姉が伸びをする。ジャージが引っ張られて臍が覗いた。うっかりそれを見てしまったおれは慌てて視線を逸らす。

「ん? なんか見た?」

「い、いや、別に……」

「あなたがみっともない格好するからでしょ」

 奏さんがぴしゃりと言い、それにあず姉も首をすくめる。

 それはオレも同じだった。マズいものを見たという気持ちが奏さんの言葉にビクッと反応してしまう。

「真君は気にしないでいいのよ。この子は普段からこんな感じだから、この機会にもうちょっと普段から気をつけるように言っとくから」

「えー」

 まさに親子だな。オレはなんだか緊張がほぐれた気がした。

 そんなこんなでこの日も平和に過ぎて、オレは翌日の入学式の準備をしてベッドに入った。


 その日は朝からよく晴れて、キリッと寒く感じられた。

 オレは昨日より早く起き出して一階に降りていくと、兼人さんがちょうど出て行くところだった。

「行ってらっしゃい」

「おお、真君、おはよう。真君も今日から学校だったね。気をつけて」

「はい」

 奏さんからカバンを受け取ってスプリングコートを着た兼人さんが出かけていくのを二人で見送る。

「すぐ朝の準備するわね」

 兼人さんが行ってしまうと奏さんはそう言ってキッチンに早足で向かう。オレは肌寒さに首をすくめつつキッチンに行って準備されていたコーヒーの入ったマグを持ってダイニングテーブルに運んだ。するとほどなくしてトーストの乗った皿を持った奏さんが来る。

「いただきます」

 オレが朝食を取っていると、二階からスーツ姿のあず姉が慌ただしく降りてきた。

「今何時!?」

「七時過ぎよ」

「やっべ!」

 入学式の朝も早いのか。オレは他人事のようにトーストをかじりながら出かける準備をするあず姉を見ている。

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 奏さんが答える。オレはタイミング悪くトーストを頬張っていたのでもごもごと口の中でしか言えなかった。

「いよいよ入学式ね。緊張する?」

「まったくしないってこともないですけど……」

 正直なところ、自分でもよくわからなかった。高揚感のようなものはあるが、それが高校入学によるものなのか、それとも始めて親元を離れて親戚の家で生活することに由来するのかの区別が付かなかったのだ。

 結局オレは曖昧な答えしかできないままに朝食を終え、洗面台で歯を磨いてから自室にあてがわれた部屋に戻ってジャケットにスラックスという服装に着替え、ちょっと迷ってからダウンジャケットを手に階下へと降りた。

「あ、さすがにまだネクタイは無理ね」

 シャツの襟元に掛けただけだったネクタイを見て、奏さんが結んでくれた。オレはこの状況になんとなく新婚夫婦のようなものを思い浮かべてしまい、一人で照れてしまう。

「はい、できたわ」

「あ、ありがとうございます」

「もうちょっとしたら自分で結べるようにならないとね」

 そう言って微笑む奏さんは年齢以上に若く、きれいに見え、思わずドキッとしてしまった。

「じ、じゃあいってきます」

「はい、いってらっしゃい。気をつけてね」

 オレはダウンジャケットを羽織るとカバンを持って奏さんの声を背に受けながら家を出た。

 瀬戸家から高校までは歩いても行けるが、それだと確実に三十分以上かかってしまうので、今日は電車を一駅だけ使うことにした。これだと十五分程度で着くし、圧倒的に楽だからだ。通勤通学の時間帯なので電車は混んではいるが、一駅だけなので我慢できる範囲内だ。

 新年度が始まっていることもあって、駅も電車内もかなり混んでいた。電車通学なんて初めてだから普段はどうなのか知らないが、これで長時間乗っているのは大変そうだなと他人事ながら思う。

 学校の最寄り駅に着くと降りる人と乗る人は同じくらいいるように見えた。駅から出てその理由が少しわかる。もう駅前にマンションが林立しているのだ。そして駅から出てくる人は学生らしき人が多い。オレと同じように私服の人もいれば、どこかの制服を着ている人もいる。この近くに少なくとももう一校は学校があるのだろう。オレはその学生らしき人の流れに乗るように歩き出した。

 駅から歩き始めて十分と経たないうちに学校が見えてくる。ちなみに電車を使うと正門側から入ることになるが、徒歩となると裏門を使うほうが近い。その正門には今日の入学式を示す立て看板が出ていて、それとともに記念写真を撮る女子生徒などがいる。少ないが保護者と一緒に来ている生徒もいるようだ。

 校門をくぐるとすぐ左手に仮設テントで受付がある。オレはそこで教員らしき人に自分の名前を告げると生徒手帳を貰った。それには顔写真を貼った学生証が一体になっている。そこに載っている学籍番号をもとにテント脇に立てかけてあるクラス分けの一覧を見るとどうやらオレは二組のようだった。しかしいきなり教室に行く訳ではなく、先に体育館で入学式をやるらしい。

 オレは生徒の流れもあって体育館のほうに向かった。この頃になるとそこここでわいわいとしゃべり合う声が聞こえる。中学から同じ学校だった者同士だったり、小学校以来久しぶりに会った者だったり。特に女子はキャアキャアと賑やかな感じだ。

 学校のあちこちに桜の木が植えてあるが、まだ咲き始めといったところか。だいぶ色付いてはいるが、見頃と言うには少し早そうだ。まだ肌寒いし仕方のないところだろう。天気がいいだけマシというものか。

 体育館は風がない分少し暖かく感じられる。土足で入っていいように床にはシートが敷いてあり、パイプ椅子が並んでいた。まだ座っているものは少なく、後ろのほうには保護者らしい大人が何人か座っている。

『まもなく令和××年度、入学式を始めます。新入生の皆さんは決められた席についてください』

 体育館に放送が流れ。それに促されるように俺たち新入生ももぞもぞと動き出す。椅子はクラスごとに固められており、学籍番号順に座るようだ。椅子の背に番号が書かれた紙が貼られている。オレは自分の席を確認すると、ダウンジャケットを脱いでその背に掛けて座った。まわりも次々と埋まっていく。

 体育館内のざわめきも徐々に静かになっていく。さらに壇上に教師らしき人物が登壇したことで一気にそれもなくなった。壇上だけではなく、生徒の脇にも何人かの先生らしき大人が並ぶ。そのうちの一人を見て、オレは思わず声を上げそうになった。

(あず姉!)

 ここへ来てようやくオレは瀬戸家の人々が妙にあず姉の勤務先について口が重かった理由を察した。こういうことだったのか。

 あず姉は一瞬こちらをちらっと見たようだが、すぐ視線を前に戻していた。

 スーツ姿でキリッとしているあず姉は、家とはずいぶん印象が違って見える。あんなに背筋がピンと伸びているのは見たことがないし、第一顔つきが普段とはまったく違ってピリッと厳しい表情を見せている。どうにかすれば別人と見間違いそうなほどだ。

 しかしそれ以上に驚いていたのは、その姿があず姉にめちゃくちゃ似合っていることだった。普段のちょっと気の抜けた雰囲気からは想像も付かないこの凜々しい姿にオレは不覚にもドキッとしてしまった。

 いや、それもしょうがないのかもしれない。パンツスーツは身体にフィットしたデザインなのでどうしてもボディラインが出てしまうが、それによってあず姉のプロポーションのよさがはっきりと出ている。さらに小さな顔、ポニーテールにした黒髪、大きめの瞳など顔も平均を遙かに超えていると言っていい。

 左右に並んでいるのが比較的ガタイのいい男性教師と言うこともあって、さらに彼女が際立ってきれいに見えた。


 入学式は、まあどこでもだいたい同じように退屈に進行していき、その後実際の教室にクラスごとに入って担任教師の挨拶やら明日以降の予定などの説明があった。

 二組の担任は、なんとあず姉だった。

 正直、あず姉が教室に入ってきたときには驚いた。入学式で一年を担当するとは聞いていたけど、まさか担任とは。

 あず姉は自分の名前を大きく黒板に書き、改めてオレたち生徒のほうに向き合った。

「瀬戸 梓と言います。担当は世界史。だけどそれ以外でもわからないことがあったらいつでも聞いて」

 そう言うとにっこりとその丸顔で微笑んだ。その顔には愛嬌のようなものが感じられ、教室の男どもばかりか女生徒の目も吸い付けている。

「これから一年間、一緒にがんばりましょう」

 苦笑せざるを得ない。一年どころか三年間、オレの高校生活は一体どうなるんだろう? 教室の中程にある自席で内心頭を抱えていた。

 常識的に考えてあず姉といとこ同士であることはまわりに言う訳にはいかない。ましてや一緒に住んでいるなど口が裂けても言うわけにはいかない。そんな事をすればどうなるのかわかったものではないからだ。

 しかしそれ以上に困ったことがある。

 学校で見あず姉は、家で見より遙かに女らしく魅力的に見えるのだ。

 これは男として非常に問題である。

(家では普通に見えたんだけどなあ)

 いやまあたまに不意打ちを食らうことはあったけどね? とそこまで考えてオレはあることに気付いた。

 これから家でどんな顔してあず姉と会えばいいんだ?

 マジで頭を抱える。前途多難な予感しかないんだが。

 オレの困難に満ちた三年間がこうして幕を開けた。

さて、いかがでしたでしょうか?

今作に手応えを感じられれば続きを書こうかなと思っています。一回日常回を挟んでから大きめのイベントかな。

そのためにはぜひ評価やブックマーク、ひと言でもいいので感想などよろしくお願いいたします。

ではまた次回作でお会いしましょう。

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