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05 全部夢オチでした

 目を覚ます。

 おぼろげな視界がゆっくりとクリアになる。

 最初に目に入ったのは、知ってる天井だった。


「ここ……私の部屋……?」


 小学校に進学した時に、お父さんがくれた私の部屋。

 もう10年弱も寝起きしているので、見間違えるはずがない。


 柔らかい枕。

 スベスベのシーツ。

 ふわふわの毛布。

 枕元には充電コードが差さったスマホ。


 スマホの充電は100%で、電波は良好。Wi-Fiにも繋がっている。


「そっか、全部、夢だったんだ」


 トンネルを潜ったら異世界転移していて、チートスキルもなく、喋る魔剣と契約して命からがらゴブリンの群れを倒した――あの薄暗い森での出来事は……全部夢。


「しばらく異世界アニメは控えよう」


 チート能力持ちの主人公に嫉妬してしまい、純粋な気持ちで見れないから。


「ん~~~~いい朝っ!」


 大きく伸びをして、パジャマのままリビングへ向かう。


「おはよう。鈴蘭りんか


「お兄ちゃん、おはよう」


 リビングには大学1年生のお兄ちゃんが朝ごはんを作っていた。

 丁度完成した所みたい。

 カリカリに焼けたトースト、常温で柔らかくなったバター、塩コショウが振られた目玉焼き。

 カット野菜で作ったキャベツには、私の好きなゴマドレッシングがかけられている。


「丁度これから、起こしにいこうとしてた所なんだ」


「私も今年から受験生だもん。1人で起きれるもん」


「それは頼もしいね」


 お兄ちゃんは去年まで大学受験生で、あまり構って貰えなかった。

 だから大学生になって、時間に余裕が出来てからは、沢山甘えようと思っていたが、気付けば14歳のJC3。

 歳の離れた兄とはいえ、子供のように甘えるのは恥ずかしいお年頃。


 そんなお兄ちゃんは、コーヒーサーバーにキャラメルモカのポーションをセットして、抽出したマグカップを私の席の前に置いた。


 いつもと同じ朝。

 いつもと同じごはん。

 いつもと同じお兄ちゃん。


 いつもと同じ。

 いつもと……同じ。


「うっ……うぐっ……ひっぐ……ううぅ……っ」


鈴蘭りんか!? どうしたんだい!?」


 代り映えしない日常。

 それがとても愛おしくて、思わず涙が出てしまった。


「嫌な夢を見たの……私は気付いたら知らない場所にいて、元の世界に戻れない夢」


 お兄ちゃんは何も言わず、私の涙を拭ってくれる。

 そんなお兄ちゃんに甘えて、ぎゅっと、お兄ちゃんの胸板に顔を預けて、えんえんと、泣き続けた。


「ふふ……鈴蘭りんかはいつまで経っても甘えん坊だね」


 ――なでなで。


 お兄ちゃんは私を抱きとめたまま、ゆっくりと頭を撫でる。

 何度も。

 何度も。



 ――なでなで。



 いつまでも。

 いつまでも。



 ――なでなでなでなでなで。



 延々と。

 延々と。



 ――なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。

 ――なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。



「ちょ、ちょっ!? お兄ちゃん激しい! 摩擦っ! 摩擦でめっちゃ熱い! 頭皮擦り切れる!」


 その熱さに耐えきれず、私はお兄ちゃんの胸をドン、と突き飛ばした。


 そして――――




***




 目を覚ます。

 おぼろげな視界がゆっくりとクリアになる。

 最初に目に入ったのは、知らない天井だった。


「夢じゃ……なかった……」


 岩の天井と、岩の壁と、岩の床。

 洞窟と呼ぶにはあまりにも狭い、岩の窪み。

 そこで私の意識は覚醒した。


「いや、そう見せかけて、こっちが夢かも」


 自分のほっぺをつねる。


「痛い……」


 青臭い草木の匂い。

 湿った土の匂い。

 燃え尽きた灰の匂い。


 五感で感じるリアルな感覚は、これが現実世界であることを証明していた。


『おい。俺サマを湯たんぽとして使っておきながら、随分な仕打ちじゃねェか。俺サマがいなければ、満足に火も起こせないお嬢様の癖によ』


 寝床(岩の窪み)から少し離れた場所に、喋る黒い剣が転がっており、カタカタと振動しながら、私の脳内に苦言を呈してくる。


「別に、お嬢様じゃないし」


 私の実家は一般家庭のつもりだけど、この世界では日焼けしてない、手に傷がない、それだけでお嬢様扱いされるらしい。

 この世界の人間と出会ったことがないが、私のいた世界より文明は劣っているのだろうな。

 まあ、これだけ剣と魔法のファンタジーやっておいて、文明が21世紀の地球より進んでいたら、それはそれで驚きだけれど……。


「っていうか、アンタめっちゃ熱かったんですけど」


 頬が火傷一歩手前みたいに熱くてジンジンしている。

 コイツは火を操ったり、熱を発生させる能力を持っている。

 寝てる私を起こすために、カイロレベルだった熱量を、熱めのお湯レベルまで上げたのだろう。


 目覚まし時計なら確実にインターネットで炎上して、全部回収されるレベルの危険度だ。


「もう辰ノ刻だ。いつまでもぐーすかぴーすか寝てんじゃねェ」


「それって、何時よ」


 私の世界では、1日を24時間――つまり24個に区切っている。

 対して、この世界では12個に区切っていて、現在時刻は4番目の刻らしい。

 私の世界に照らし合わせれば、だいたい朝8時。


 確かに、若干の寝坊であることは認めざるを得ない……。


今回のAIイラストはお兄ちゃんに頭なでなでしてもらう主人公ちゃんです。

挿絵(By みてみん)

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