27 久々の私視点!
今回は久々に主人公の1人称視点です。
「賊を誅した貴殿の剣技を見込んで頼みがある。どうか我が主を甘州が首都――甘都までの護衛を依頼したい」
盗賊をやっつけたことで、馬車は再び甘州へ向けて走り始めた。
対面に座るのは、同じ馬車に乗り合わせた女性と幼女の2人組。
2人には主従関係があると思われ、綺麗な顔の女性の方が従者で、可愛い顔の幼女の方が主人だと思われる。
美人の方は外套のフードを脱ぎ、長い黒髪をポニーテールにしている。
美幼女の方は今もなおフードを被ったままで、辛うじて桃色の髪が見える程度。
「うーん……」
その女性の方が、胡坐の体勢で両拳を着くと、深々と頭を下げていた。
この世界での、座位で礼をするときの作法だ。
「……断ってもいい?」
「なっ、なんと……っ!?」
しかし彼女のお願いを断ると、彼女はポニーテールをぶるんっ――と揺らしながら顔を上げる。
『ギャハハ。別にいいじゃねェか、安請け合いしちまってもよぉ。荒事はいくらあっても良い。血が吸えるからなァ』
「(さっきたっぷり吸わせてやったでしょ――クロ)」
腰の剣帯から吊り下げているクロが、カタカタと揺れながら、私にだけ聞こえる声で言う。
私が黒貪森の主である大妖怪――饕餮を倒して森を脱出してから、かれこれ3年が経過した。
未だクロは私の相棒(棒じゃなくて剣だけど)として、私に力を貸してくれている。
かくして私は――白石鈴蘭という名前を封印し、白蘭を自称しているのであった。
『ここ最近吸ってるのはおっさんの血ィばかりで面白味がねェ。どうだ? どうせ断るってんなら、いっそ目の前の童の血を吸わせてくれよ』
「(確かに私が斬るのは悪人だけと決めてるけど、定期的に私の血を吸わせてるでしょ)」
それともなにか?
17歳のピチピチJKの血では満たされないと?
このロリコンめ!
まぁ……JKではないのだけれど。
ピチピチの17歳なのは確かだけど。
荒ぶるクロを外套の上から握って沈めながら、目の前の2人に意識を戻す。
「異国の白袍に、純黒の直刀――そしてあの剣捌き、貴殿を女侠客――白袍の白蘭殿とお見受けする。弱きを助け強きを挫く、貴殿の侠としての腕前がどうしても必要なのだ」
「うへー……バレてる……」
『だからあのヘンテコな服はとっとと捨てちまえって言ってんだろ』
「(うるさいな。あれは私がこの世界に持ってきた数少ない私物なんだよ。そう易々と手放せないよ)」
バッテリーがとっくに死んでいるスマホを、未だに大切に保管している私だ。
例え変な目で見られようと、この服を捨てるなんてとんでもない。
中学入学の時に買った制服を、未だに着れることにいささかショックではあるが……。
まぁ――そういう訳で。
私はポニーテールのお姉さんの言う通り――【白袍の白蘭】という異名で、そこそこ名の知れた女侠客をやらせて貰っている。
侠客というのは――ざっくり説明すると、法に囚われることなく、自分の信じた正義で世を正す人のこと。
法に従わずに私刑で悪者を退治している時点で、やっていることは犯罪者と同じであるのだが……。
ヤクザだって大昔は侠客って呼ばれてたしね。
しかし――人の血を吸う事でしか生を実感できない呪いにかけられたクロを、自分が助かりたいという理由で、黒貧森から持ち出してしまった。
私はその責任を取らないといけない。
その結果――全国各地を流浪しながら、悪人だけを斬っていたら、いつの間にかそう呼ばれてしまった次第である。
全国各地を渡り歩いているのは、元の世界に戻る情報を集める意味もあるし。
「(まぁ……この3年間進捗0なんですけどね……)」
多分私……元の世界では死人扱いされてるんだろうなぁ……。
今更戻れたとして、家族は成長した私のことをちゃんと把握してくれるだろうか……?
お兄ちゃんなら……きっとすぐ分かってくれると信じてる。
というか……そうやって希望的に構えてないと、元の世界に戻るなんていう無謀な情報収取なんてやってられない。
と――私のこの3年の歩みについてはここまでとして。
再び視点を現在へ戻そう。
ポニーテールのお姉さんが、隣の幼女の護衛依頼をしてきたのを、断った所からだ。
「まぁ、そうだね……白蘭は……私だね……」
「まぁ! あなたがあの白袍の白蘭様なのですね! お噂はかねがねお伺いしておりますわ! わたくし、あなたの大ファンですの!」
美幼女がフード越しでも分かるくらいに、目をキラキラと輝かせながら声を荒げる。
まるでヒーローショーのプリキュアに出会った幼女ばりのハイテンションだ。
「『かの白袍を纏ひし黒髪の乙女、純黒の剣にて悪影を裂き斬る~♪ されどその雪の如き袍、微塵も汚すことなく~♪ 一片の紅さえ残さず、清廉の舞を舞ふ~♪』――講談に語られる通りの勇ましさで、惚れ惚れしてしまいましたわ!」
「え……? なにその歌……?」
私がかつて解決した荒事が、吟遊詩人の耳に伝わり、武勇伝として全国に広がっていることは把握していたが、まさか小っ恥ずかしい歌まで作られていたいたとは……。
14歳の中二病真っ盛りの頃ならいざ知らず、今の私は冷笑と逆張りに重きを置くお年頃の17歳。
〝白袍の白蘭〟という二つ名だけでも恥ずかしいのに、私の活動が歌になっている様を、目の前で語られるのは、頬が赤くなってしまう程に恥ずかしい。
誰だよそんな歌作った奴。
肖像権の侵害だろ。
使用料払えよ。
ちなみに、件の白袍(白いブレザー)が一片の紅(一滴の返り血)すら浴びていないのは、クロが相手をぶっ刺したそばから血を吸引しているか、高熱を纏って切断面を即座に焼灼して塞いでいるからだ。
「貴殿程の剣士が味方についてくれれば、頼もしいことこの上ない。弱きを助け強きを挫く武勇が真であるならば、どうか我々に、力を貸してくれないだろうか?」
ポニーテールのお姉さんは再び私に頭を下げる。
今度は、おでこが荷台にくっついてしまう程に、深々と。
随分と深刻な事情がある様子だ。
でも私は――斬るべき相手は自分で決める。
「そうだね。〝弱きを助け強きを挫く〟を標語にしているけれど――あなたは達は本当に、守られるべき〝弱き者〟なの?」
「…………っ」
未だつむじを見せているお姉さんのポニテが、ピクリと震える。
悪者に命を狙われているから助けてくれ――その言葉を信じて叩き切った相手が、実は本当の被害者で、依頼人こそが断罪するべき悪人だったという事が、過去にあった。
あれは今もなお忘れることの出来ない、大きな失態だ。
もう2度と同じ過ちを繰り返さないためにも、腐っても侠客として活動している手前、依頼人の善悪を見極める必要がある。
ウルトラマンはビルを壊すが、怪獣しか攻撃しない。
戦隊ヒーローは銃刀法違反を犯すが、怪人しか攻撃しない。
同じように私も――超常の力を持つ者として、力の使い道にルールを決めないといけない。
魔剣に惑わされた怪人にならないために。
「馬車を襲った匪賊だけど、あれは口調こそ賊に寄せていたけど、装備はしっかりとしたものだったし、馬だって訓練された軍馬のように見えた。それにあいつらのターゲットは商人の荷台ではなく、明確にあなたを攫うために乗り込んできたように見えた」
私は過去何度も盗賊の輩と戦ってきたけど、あんなヒャッハー口調の盗賊なんて見たことない。
それこそ京劇・講談の見すぎだ。
私の世界で言うところの、北斗の拳でしか見ないチンピラみたいなもんだ。
「(……まぁ、北斗の拳見たことないけど)」
見たことないけどモヒカンがヒャッハー口調で暴れていることは知っている。
「あれは匪賊ではなく、正規の兵隊だった。兵隊は意味もなく善良な民を襲わない――とも言えないけど」
断言出来ない程度には、この世界に染まってしまった……。
異世界転移する前は、お巡りさんを純粋に正義の味方として見ていたというのに……。
ともかく……。
「正規の兵隊に襲われる理由を、正直に話してくれない限りは、手を貸すことは出来ない」
「ぐ……ぐぅの音も出ない正論だ……。しかし我らには、易々と身分を明かせぬ事情が……」
「よしましょう霍珂――これ以上、身分を偽ることに意味などありませんわ」
「しかしお嬢様……!」
「わたくしの部下である霍珂の数々の無礼、改めてお詫び申し上げますわ、白蘭様。大変失礼いたしました」
「なっ!?」
美幼女はずい――と前に出ると、フードを脱いで頭を下げた。
さっき間近で見た時も、ビックリするくらい綺麗な顔だったけれど、フードを脱いで素顔が完全に露わになると、一際その美貌が際立つ。
「(うおっ! ビジュ良すぎ!?)」
まるで美肌フィルターにかけたような綺麗な肌と滑らかなフェイスライン。
数年後には傾国の美女と呼ばれること間違いなしの顔には、これまた手入れの行き届いた綺麗な桃色の長い髪が広がっている。
「わたくしは――第7代目琅国が琅王、琅桃蔡と申します。どうか我々と行動を共にし、甘州までの護衛をお願いしたく存じます」
「…………天子…………様…………?」
美幼女――この国の現国王の口上を聞いて、開いた口が塞がらなくなる。
どこぞのお金持ちのお嬢様だとは勘づいていたが、まさか王様だったとは……。
『ギャハハ! 幼子の天子ときたか! こりゃあさぞかしうまい血なんだろうなァ! おい白蘭、俺サマ達にとっても因縁の相手だ。ここでコイツら2人ともぶっ殺しちまおうぜ!』
場の空気を読まないクロが、なんとも不謹慎なことを言う。
クロの言葉が私にしか聞こえないことが、今は非常にありがたい限りだった。




