17 迷子の子供を面白がって後ろから観察する親はマジで1回反省して欲しい
「はっ!? い、痛……っ!?」
激痛で目を覚ます。
確か私は、ゴブリンの蹴りが鳩尾に入って、そのまま気を失って……。
『ようやくお目覚めか。でもまだ動くんじゃねェ』
「これ……巨大熊の毛皮……? ここ、私達の寝床?」
目を覚ますと、ゴブリンの姿はどこにもいない。
日は完全に暮れ、焚き火の炎はぼうぼうと力強く燃えていて、全身はグリズリーの柔らかくて暖かい毛皮に包まれ、枕元にはクロがいる。
「夢……じゃないよね?」
クロを盗まれ、単身ゴブリンのアジトに忍び込み、3匹のゴブリンと繰り広げたあの死闘。
記憶に刻み込まれた感触と匂い――そして今も全身を蝕むこの痛みが、夢ではなく紛れもない真実であることを物語っている。
それじゃあ……どうして私は生きてるの?
私はゴブリンに負けたはずなのに……。
良くて殺されて、悪ければ処女を奪われてゴブリンを産むための道具にされているはずなのに……。
『俺サマがテメェの肉体を操って、ここまで戻ってきた』
「クロが……?」
クロは私が気を失ってからのことを語る。
曰く――
クロは肉体の操るスキルで、ゴブリンを乗っ取り自害させた。
その次に、気絶した私の肉体を操って、グリズリーの毛皮を置いてある寝床まで戻ってきたという。
「そういえばクロ……初めて会った時も、ゴブリンキングを自害させてたもんね……」
『傷も打ち傷ばかりで、骨も折れてねェから、しばらく寝てりゃ治る』
「でも私……がっつり背中斬られてた気がするんだけど……?」
『この前言っただろ。俺サマの刀身はとっくに潰れてる。獲物を斬るときは仙力を刃に纏わせてるって』
「そういえば……そうだった」
ん? 待って?
クロはいつでもゴブリンの肉体を操ることが出来た。
更に言えば、クロはいつでも私に喋りかけることも出来た。
つまり……。
「アンタ、もしかしてわざとギリギリまで助けてくれなかったってコト!?」
『…………まぁな』
クロはやろうと思えば、私がゴブリンの洞窟に到着したのを察知したと同時に、ゴブリンを操って3匹のゴブリンを同士討ちさせることも簡単だったはず。
いや!
そもそも、私が川で体を洗っている最中、ゴブリンが近づいたときに私に警告することも出来た!
なのにコイツは、大人しく連れ去られた!
「どうして!? あっ!? いたたたっ!」
ガバっと上体を起こそうとしたが、全身に激痛が走る。
『テメェがこの世界にちゃんと適応できてるかどうか、試させてもらった』
「なによ……それ……いてて~」
マジで死ぬかと思ったんだから。
『それに最近のテメェは、俺サマがいれば、どんな魔物にも勝てるという驕りから、気が抜けてやがったからな。食物連鎖の頂点に立つ王者以外に、水浴び中に周囲に意識を向けない生き物は、この森にはいねェ』
「うぐ……」
全身を巡る痛みに加え、耳まで痛くなる。
私のいた世界では、入浴は全身の力が抜けて完全に油断する時間帯。
でも、野生の世界では、寝てるときでさえ警戒心を解いてはいけない。
それを理解せずに、この世界で生きていくことは出来ない。
甘ったれた私を叩き直すため、大自然の厳しさを、身を持って教えようとしたのだろう。
だとしても、いささかスパルタ過ぎる気もするが……。
『だがまぁ……俺サマなしであれだけ動けりゃ十分だ。これならアイツにもなんとか通用するだろうな』
「なに? どういうこと? アイツって誰?」
『この森を出るためにはな、アイツを倒さないといけねェんだ』
焚き火がパチリと弾け、枝が崩れる。
そして――クロは続けた。
『黒貧森の植物連鎖の頂点に立つ魔物――饕餮をぶっ殺しにくぞ』




