13 魔剣なくしました(涙)
「ふんっ! ……66……67……はぁはぁ……ふんっ……98……99……100っ!!」
異世界に転移してから、既に7日が経過していた。
未だ私は、この黒貧森と呼ばれる、人が生活出来ないくらい危険な魔物が蔓延る森の中から、脱出することが出来ずにいた。
初日こそゴブリンの群れに襲われて命の危機に瀕していたものの、クロと出会ってからは安定した毎日を送っている。
森を脱出して人里に出るため、川を下るように移動し、食べられる魔物を狩り、野営に丁度よさそうな場所で眠る。
そうやって、少しずつだけど、この森の外周部を目指している。
それから新たに追加された日課として、訓練と称して素振りを100回するよう、クロに強いられている。
クロは例え持ち主が女子供であろうと、持ち主の肉体を操作して、まるで剣の達人のように振舞うことが出来る魔剣だ。
とはいえ、動かしている肉体の強度が弱ければいつかガタがきてしまう。
原付バイクに大型バイクのエンジンを乗せたら、一時的に200キロの速度を出せたとしても、すぐにフレームなどが耐えきれずに壊れてしまうように。
故に基礎体力と筋肉をつけるべく、毎日の素振りを義務化されている次第であった。
っていうか、たとえ人里に降りたとしても、チートないから人生ハードモードなのに代わりはないんだよなぁ……。
「よし、100回終了! 今日の素振り終わり!」
『終わってねェよカス。最後えぐいくらいサバ読んでんじゃねェよ』
「てへへ……バレたか……」
私の手に握られているクロから叱責が飛ぶ。
とはいえ、クロは鋼で作られた剣で、非力な帰宅部女子にはいささか重い。
朝からヘトヘトだ。
「残りは午後やるからさ」
そういって汗を拭う。
万が一、元の世界に戻れたとしても、腕と足が大阪なおみみたいにムキムキになってたらどうしよう……。
私はあのちゃんみたいなスレンダー体型を目指しているというのに……。
一時期は喋り方まであのちゃんに寄せていたのだが、いつも私のことを全肯定してくれるお兄ちゃんからも「その喋り方はやめた方がいいよ」と、苦言を呈されたのが少しトラウマになってしまい、喋り方は元に戻した。
***
「ふぅ~……気持ちい……」
素振りが終わったので(まだ70回しか終わってないが)、川で汗を流して身を清める。
川を下るように移動しているため、水源の確保には事欠かないでいる。
元の世界にいたころは夜シャン派だが、電気がない異世界では、日が沈んでしまったら何もできないため、朝シャン派になってしまった。
シャンっていうか……シャンプーはないんだけど。
おかげで自慢のツヤツヤ黒髪が少し痛んできて、胸が痛い……シャンプーしたい、リンスとコンディショナーもしたい……。
全身を手で擦って垢を落としたら、後頭部がいい塩梅にフィットする川辺の石を探して、そこに頭を乗せて四肢を投げ出す。
上流から下流へと進む水の流れに、投げ出した手足が煽られるのが気持ちいい。
――ガサガサ。
背後から、枝が擦れる音がする。
しかし、今の私はこの程度ですくみ上がる程神経質ではない。
危険な魔物が近づいてくれば、クロが真っ先に教えてくれる。
クロからの警告がないということは、ただの風か、もしくは、危険のない草食の生き物なのだろう。
「さて、そろそろ出ますか……クロ~、体乾かして~」
クロに熱風を起こす魔法を使って貰い、濡れた体を乾かして貰おうと思ったのだが……。
「クロ? ねぇ、クロ~返事して~」
…………。
しかし、返事がない。
嫌な予感がする。
汗を流した背中から、新しい冷や汗が分泌される。
「クロ!?」
ザバザバと、川をかき分け川辺に立つ。
着替えを置いてある場所に行く。
丁寧に畳んだ白いブレザーの学生服と一緒に置いておいたはずなのに、クロの姿はどこにもなかった。
「クロ……?」
周囲を見ても、クロの姿はない。
クロは接触した人間の肉体を、有無を言わさず強制的に操るスキルを持っているが……。
クロ単体では、せいぜい小刻みに振動する程度しか動くことが出来ない。
考えられる可能性をひり出す。
結果的にたどり着いた結論。
それは――
「盗まれた……!?」
一陣の風が吹く。
川の流水で冷えた私の体温が、更に下がっていくのを、実感するのであった。




