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私は最強の力を受け継いでいるようです

作者: 川島由嗣

数ある作品の中から本作品を選んでいただきありがとうございます。

ちょっと気分転換に短編を書いてみました。


よろしければ楽しんでいただければ幸いです!!

※この作品はカクヨムにも掲載中です。

「お母さん!!今日もあのお歌歌って!!」

「また?シャーリーは本当にあのお歌好きねえ。」

 私は母が歌う歌が大好きだった。意味は全く分からない数え歌。だが母はその歌を歌う時は、子守歌代わりに歌ってくれるので私と一緒に寝てくれるのだ。だから私は母によくその歌をお願いしていた。


「ねえお母さん。この歌って何の歌なの?」

「この歌はねえ。ずっと昔から語り継がれている歌なの。お母さんも私のお母さんに教えてもらった歌なの。」

「そんなに昔の歌なんだ?」

「そうよ。だからシャーリーも出来れば覚えてくれると嬉しいわ。」

「うん!!頑張る!!」

 私は力強く頷いた。母は嬉しそうに笑うと布団の中に入った。そして私の方を見るとポンポンと布団を軽く叩いた。


「さあ、おいで。」

「うん!!」

 私は勢いよく母の隣に入る。母は愛おしそうに私の髪を撫でながら、歌い始めた。


「さあ、は~じ~め~ま~しょ~。0は~訓~練。1は~け~ん。2はこ~ぶし・・・。」

「んん・・・お母さん。」

 私は母の歌にあっという間に眠気に襲われ、視界が暗くなっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「夢・・・か。」

 頭を振って眠気をとばす。懐かしい夢を見たものだ。あれは小さい頃の時の母と私だ。


「おはよう・・・。お母さん。」

 私は家に飾ってある母のリボンに向かって挨拶する。母は私が14歳の時に病気で亡くなった。それから私はこの家に一人で暮らしている。家も古い民家に住んでいるため、所々修理して使っている。母の知り合いがやっているレストランで働かせてもらっているおかげで生活できているが、そうでなければ私は野垂れ死んでいただろう。


<対象が16歳になりました。技能を解除します。>


「っ!!」

 唐突に頭の中に声が響く。慌てて周りを見渡すが誰もいない。


「あ、そういえば私今日で16歳だっけ・・・。」

 すっかり忘れていた。祝う人もいない。お母さんが生きていたころは毎年祝ってくれていたが、今はもういない。


「あ~ダメダメ!!」

 懐かしい夢を見たため、感傷的になっているようだ。今日は久々に休みなのだ。まずは毎日の日課である剣の素振りからだ。私は木で作った剣?のようなものを手に家を出て公園に向かう。


 公園に向かう途中で、道を掃除しているオジサンと会う。毎日掃除しているので知り合いのようなものだ。名前などは一切知らないが。オジサンも私を見て嬉しそうに手をあげて笑う。


「お、お嬢ちゃん!!今日も剣の訓練かい?」

「はい!!いつも掃除お疲れ様です!!」

「いいってことよ!頑張りな!!」

「はい!!」

 オジサンと別れ、公園に入る。早朝なので誰もいない。この静けさが好きだった。公園の真ん中で剣を構え、素振りを始める。これが私の日課だった。母さんが私に体力をつけさせるためと暴漢対策に始めさせたのだ。そういう当の本人はやらずに横で見ていただけだったが。


「ふぅ・・・。」

 いつもの素振りを終わらせ、汗をぬぐう。そんな時、遠くにお城が目に入った。うちの国のお城だ。私達庶民が毎日頑張っている中、優雅に暮らしていると思うとイラっとする。


「いいよなあ。あそこに住んでいる人達は贅沢な暮らしをしているんだろうなあ。」

 思わず愚痴を吐く。私は平民だ。まあ五体満足で働けているので、食うに困ったりはしていないが、優雅な生活に憧れたりはする。ふと悪戯心が芽生え、私は城の方に向いて剣を構える。そして精神集中のために目を閉じた。何か頭の中でスイッチが入った感じがしたが、気のせいとして無視する。


「はっ!!」


 叫んで城の屋根に向かって剣を振るう。そうは言っても城はかなり遠くにあり、届く距離ではない。ただの八つ当たりだ。


「な~んてね。届くわけないって。」

 そんなことを呟き、剣をしまう。帰ろうと城に背を向けると、背後から爆音が聞こえた。

「え・・・・。」

 嫌な予感がしつつ、恐る恐る振り返る。すると、城の屋根がなくなっていた。


「わたし・・・じゃないわよね。」

 そうはいいつつも、剣を振った角度と城の切れた角度が一致している。しかもタイミングがばっちりだ。思わず周りを見渡して誰もいないことを確認する。先ほど会ったオジサンにも見られた様子はない。


「うん・・・見なかったことにしてかえ・・・・逃げよう。」

 そう呟いて私は家に向かって全速力で走り出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「陛下!!容疑者の女を捕まえました!!」


 はい。無理でした。


 私は屋根がない城の中で、王様の前に連行されていてた。どうしてこうなった・・・。家に帰って一旦落ち着こうとお茶を入れて飲もうとしたら、大勢に囲まれていた。優秀すぎでしょうちの国の兵士?達。多勢に無勢なので、大人しく連行された。正直泣きたい。

 王様は20代前半だろうか?見た目はとてもかっこいい方だったが、何より目つきが怖い。人を射殺せそうな鋭い目つきでこちらを睨みつけている。


「貴様か。我が城の屋根部分をぶった切ったという者は。」

「いえ・・・人違い・・・ひぃ!!」

 否定しようと思ったが、周りの兵士から剣を突き付けられてしまい、思わず悲鳴を上げる。


「言い逃れをするな。貴様がふった剣から黒い斬撃がでて、城の屋根に直撃したという目撃証言が多数ある。」

「目撃証言!?」

 思わず叫ぶ。周りには誰もいなかったはずだ。いったいいつの間に!?王様は呆れたようにため息をついた。


「この国が傭兵国家だというのを忘れたか。」

 そういえばそうだった。我が国は小国だ。だが他の国に潰されないのは、傭兵国家だからだ。魔法、剣術、武術等々。熟練の兵士達がおり、モンスターの討伐依頼や国同士の仲裁をできるほどの武力があるから生き残れている。城には10傑と呼ばれる人達がいて、一人一人が一騎当千の力があるとかなんとか。


「余計な問答は不要だ。真実のみを話せ。」

「わからないんです!!」

 私は抵抗することを諦め、命乞いをするために必死に叫んだ。


「いつも公園で素振りするのが日課で、今日に限って城が目に入って!!お遊びで剣を振ってみただけなんです!!」

「あそびで・・・・だと。」

 王様のこめかみがぴくりと動く。周りの雰囲気も殺気立つ。だが私も必死だった。


「普通、斬撃が飛ぶなんて考えないじゃないですか!!」

「実際飛ばしたお前が言うか・・・。」

「だから今まで飛ばしたことなんてないんですよ!!」

 王様は配下の方をちらり見る。配下は王様の視線を受けてこくりと頷いた。それを見て王様は深々とため息をついた。


「嘘はなしか・・・。信じられないが本当のようだな。」

 それだけ言うと王様は椅子から立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。かと思えば、私を取り囲む兵達に合図をして、私の元から離れさせた。皆統率が取れた動きで武器をしまい後ろに下がる。そしてぽかんとしている私の数歩前で立ち止まった。


「ならその力を今一度試してみろ。」

「王!?いったい何を!?」

「黙れ。不穏な者がいるのだから真偽を確かめるのは本当の事だ。誰か剣を。」

 配下の兵達が騒ぎだすが手をあげて全員を静まらせる。そして静まった中から1人の兵士が王様の前に現れ、王様に剣を渡した。剣を受け取った王様はその剣を無造作に私に向かって放り投げた。剣は音をたてて私の前に転がってくる。意味が分からず首をかしげる私を見つつ、王様は武器を抜いて構えをとった。


「こい。お前の力を見せてみろ。」

「は・・・・・?」

 何を言っているのだろうこの人は。まさか王様と手合わせするというのか?私はただの一般市民だぞ。だが、それは配下の兵達も同じことを考えていたのか、配下達の中から1人が前に出てきた。30歳くらいだろうか。とてもがっしりとした体つきで怖そうな人だ。私を一瞥し、王様に向かって頭を下げる。


「王よ!!恐れながら申し上げます!!」

「・・・ゼクスか。良い。申せ。」

「このような女に王自らが手を下す必要がございません!!私にお任せください!!」

「ほう。」

 王様は楽しそうに笑い、剣を仕舞って踵を返した。椅子に戻りながらゼクスと呼ばれた配下に視線をうつす。


「なら貴様に任す。ただ無意味に殺すことは許さぬ。力を引き出してみろ。」

「はっ!!」


 そういうと王様は再び椅子に座る。その顔は楽しそうだ。それに加えゼクスと呼ばれた配下は、侮蔑の視線を私に向かける。そして先ほど王様が立っていた位置に立ち、剣を構える。


「こい。貴様の力も含め、存在を否定してやる。」


ぶち!!


 私の中で何かが切れた音がした。なんだ?繰り返すが私は一般市民だぞ。確かに屋根を吹っ飛ばしたのはまずかったかもしれないが、ここまでするか?私は皆の前で拷問されるのか。そんなのはまっぴらごめんだ。


<条件をクリアしました。技能を解除します。>


その時、また頭の中で声がした。意味が分からなかったが、それと同時に母の歌声が聞こえた気がした。生存本能だろうか。そこからは身体が勝手に動き、立ち上がる。


「・・・王様。1つだけいいですか。」

「なんだ?申してみよ。」

「・・・向かってくるということは、私がこの人や王様に手をあげても何も言われないということでいいですか。」

「貴様!!」

 ゼクスと呼ばれた人が激昂している。だが私にとってはどうでもいい。恐らく今の私は目から光が失われているだろう。そして口は勝手に動いている。


「構わん。不問とする。どちらかの剣が折れるまではこの場にいるものには何をしても不問とする。だが城外にいる一般市民に危害を加えた場合はその限りではない。」

「・・・承知しました。」

「ならさっさとその剣を拾え!!」

 ゼクスと呼ばれた人が怒鳴る。だが言質はとった。王様はどちらかの剣が折れるまでは何をしてもいいといった。私の意識なのかはわからない。身体は勝手に動き口を開く。


「No:0、訓練起動。対象No:2、拳、起動。」

「なにを・・・・。」

 次の瞬間、私の意識は途切れた。途切れる直前に見た光景は、私の目の前にいた人が何度も殴られ宙を舞い、吹き飛ばされる光景と、王様に向かって突撃しようとした私の身体が倒れるところだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 恐る恐る目を開くと、目の前で草原が広がっている。目の前には小さい私が走り回っている。その後ろで母が優しそうな瞳で私を見ている。


「・・・・お母さん?」

 2人は楽しそうに歌を歌っている。あの歌だ。私が大好きといった子守歌。


「待って!!お母さん!!」

 私は声をあげて母に向かって走り出す。だが辿り着く前に視界が暗転した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「待って・・・。お母さん・・・。」

 目を開けると見知らぬ天井がうつる。夢を見たせいなのか、目からは涙がでており、右手を天井に向かって伸ばしていた。右手で涙をぬぐう。そしてゆっくりと体を起こした。


「ここは・・・。」

「目が覚めたか。」

「!!」

 声をした方向に慌てて目をやると、王様が真正面に座っていた。仕事をしているのか、こちらを見ずに机に向かって書類と格闘している。隣には配下らしき人が1人。明らかに警戒した様子でこちらを見ている。辺りを見渡すとここはお城の一室のようだ。どうやら私はどこかの部屋のベッドに寝かされていたらしい。


「私は・・・いたっ!!」

「少し待て。・・・・これで終わりだな。下がれ。この者と2人にさせろ。」

「ですが・・・。」

「なんだ。まさか手負いの者に俺が油断するとでも?」

「いえ!!決してそのような!!」

「なら下がれ。この者と2人で話してみたい。何かあれば呼ぶ。」

「・・・承知しました。」

 配下の1人が私と王様を見つつも部屋から出て行った。私は動こうとしたが、体中が痛い。怪我というより筋肉痛に近い。身体はいつの間にか綺麗になっていて、新品の服に着替えさせられている。


「あの・・・・。」

「あ~疲れた!!」

「!!」

 急に砕けた態度に私は固まってしまう。だが王様は気にした様子もなく足を机の上に乗せる。


「お・・・おう・・・さま?」

「やめやめ。この場では2人しかいないんだから気楽にいこう。俺だってやりたくて王様やってないから。頼むから今だけでいいからのんびりさせてくれ。」

「は・・・はあ。」

 固まる私をよそに、王様はため息をついて思い切り伸びをしていた。あまりにも砕けた話し方に別人ではないかと疑ってしまう。


「あ・・・あの。」

「アーサー。」

「へ?」

「アーサー。それが俺の名前。王様って呼ばれるの実は嫌いなんだ。」

「え・・・えっと。アーサー・・・様。」

「様もいらない。のんびり話そう。別にとって食いはしないからさ。」

「は・・・・はあ。では・・・アーサーさんと。」

「さんもいらないんだけどな。まあいいや。じゃあ本題に入ろうか。」


 アーサーさんは椅子だけを持ってきて私のベットの真横に置き、座り込んだ。最初の時の刺すような視線ではなく、まるで少年のような顔をしている。本当に同一人物なのだろうか。というか目つきが柔らかくなるとただの美少年だ。顔が美しくて目を逸らしたくなるのを必死に堪える。


「それで?どこまで覚えてる?」

「え・・えっと。ゼクスと呼ばれた方が宙を舞っている姿と、私がお・・・アーサーさんの方に走り出そうとして倒れたのが最後・・・・ですね。」

「おお。全部覚えてはいるんだ。じゃあ無意識でやったってわけじゃないんだ。」

「いえ・・・。どこか他人事のような感じで・・・。本当にあった出来事なのか信じられません。」

「全治半年。」

「え?」

「君が吹き飛ばしたゼクスだよ。そこら中の骨が折れていて今も意識不明。まあ回復魔法は使ったから傷は癒えているけどね。」

「ほ・・・ほんとうに?」

「嘘を言ってどうするのさ。そういう君も身体中の筋肉が千切れていたみたいだよ。回復魔法で傷の回復は出来たけど。疲労は治らないからもう少し安静にしてな。」

 そう言われてもう一度身体を見渡す。確かに身体に傷は一切ないが身体を動かそうとすると痛みが走る。


「な・・・なるほど。あの・・・この度は・・・本当に・・・申し訳ない事を・・・。」

「なんで謝るの?いくら城の屋根を吹き飛ばしたとはいえ、勝手に連行してひどい言葉を浴びせた上に拷問に近いことをしようとしたんだよ?憤慨するのはわかるけど謝る必要はないよ。あ、王としてはそんなこと言えないから、これは秘密でね。」

 アーサーさんは不思議そうに首をかしげる。でもそうか。そう思ってくれていたのか。私の気持ちを理解してくれたのが嬉しい。


「い・・・いえ。確かにあの時は怒りで我を忘れた感じなので・・。」

「それ。」

「え?」

「もうちょっとあの時の状況を具体的に教えてほしいな。正直普通の人がゼクスをあそこまでボコボコにはできないんだ。でも君は力を使いこなしているようには見えない。戦う前に聞いた様子では嘘をついていないようだったし。かといってそれに振り回されている感じではない。違う?」

「お・・・おっしゃる通りです。」

「素振りをしたら斬撃が飛んだって言ってたけど、本当に城の人に悪意があるんだったら、もっと下の方を狙うか縦に素振りすると思うんだ。そうすれば城は崩壊して死者が多数出ていた。万が一があっても困るから、わざとずらして振ったんでしょ。えいやって感じで。」

「は・・・はい。」

 すごい。私の考えが全部わかっている。私はただ頷くしかできなかった。


「うん。だから力は使いこなせてないけど力に振り回されていない。それをもう少し紐解こう。」

「ど・・・どう・・して。」

「?」

「どうして、そんなにしてくださるんですか?」

「え・・・っとね。」

 アーサーさんが気まずそうに顔をそらす。ちょっと顔が赤いように見えるのは気のせいだろうか。ただ、照れる理由がわからない。


「理由は2つ。個人的に君に興味があるのが1つ。後1つは君の立場が危ういから、君を守るため。」

「え?ど・・・どういうことですか?」

「さっきも言ったけど君がボコボコにしたゼクスはね。おいそれと倒せる相手じゃないんだ。だから配下の中には、君を危険だから処刑すべきだという意見もでた。」

「し!!処刑!?」

 体が震える。だがアーサーさんは優しい笑みを浮かべて首を横に振った。


「大丈夫。黙らせたから。ただ君は危険だという意見は多いんだ。だから俺としては、君は安全で、この国の力になってくれるって言えた方がありがたい。」

「ゼ・・・ゼクスさんって・・・そんなにすごい方だったんですか?」

「うん?うん。あいつは10傑の中の1人だからね。簡単に言うと、この国で上から10人の実力者ってこと。実力者を一般人?が倒したという噂はすぐに広まるだろう。そうするとこの国の威信にかかわる。この国は舐められたら終わりだからね。」

「え・・・・・!?」

 ゼクスさんってそんなにすごい方だったんだ。というかそんな人をボコボコした私って・・・。自分が恐ろしくなり思わず自分の両手を見る。


「まあ、殺すなって言っていたから手加減しようとしていたし、油断していたのもあるけどね。皆にはその辺りを言って黙らせたんだ。実際本気の殺し合いだったら、どうなったかわからないからね。でも君が配下達の前でゼクスを瞬殺したのは変わらない。」

「や・・・やはり・・・処刑ですか!?」

「いや、しないってば。俺としては、皆に気合を入れ直すいい機会だったから助かったけどね。でも残念ながら君を野放しには事実なんだ。だから君のためにも、君の力をもっと理解しないといけない。

「は・・・・はい。よろしくお願いします!!」

 思わず何度も力強く頷く。やっぱり処刑だなんて言われたら困る。それを見てアーサーさんが吹きだした。


「いや。こちらのセリフなんだけどね?まあいいや。じゃあさっそくだけど、あの時の事を思い出してほしいんだ。あの時はどうだった?」

「え・・・えっと・・・。」

 必死に状況を思い出して伝える。憤慨した時に頭の中で声が聞こえたこと。それからは自分が自分でないかのように動き出したこと。それを話している時、アーサーさんは鋭い視線をこちらに向けていたが、話し終わると優しげな表情に戻った。


「なるほどね。嘘じゃなさそうだね。それでその力に心当たりはある?君は確か動き出す前にNo0とかNo2とか言っていたはずだけど。」

「あ・・はい。あるには・・・あるのですが・・・。」

「何?さっきも言ったけど君のためだから嘘や隠し事はなしだよ。」

「わ・・・笑いませんか?」

 アーサーさんは一瞬固まっていたが、再び優しそうに微笑んだ。なんだろう。彼のその様子を見ると、安心する。


「絶対笑わないよ。嘘を言わない限りはね。」

「母が・・・・歌ってくれた子守歌です。」

「子守歌?」

「はい・・・。子守歌というより数え歌ですかね。私が好きな歌でいつも歌ってもらった歌です。」

「ふむ・・・。確かに歌にして隠して伝えるというのはあるね。それって歌える?」

「下手でよければ・・・。」

「うん。絶対笑わないって約束するからできれば歌ってほしいな。」

 アーサーさんが期待した目でこちらを見る。私はその瞳を見て逃げられないことを悟る。


「で・・・では。僭越ながら。

さあ、は~じ~め~ま~しょ~。

 0は~訓~練。

 1は~け~ん。

 2はこ~ぶし。

 3はま~ほう。

 4はや~り。

 5はゆ~み。

 6はい~やし。

 7はしょ~うかん。

す~べて~を、き~わめ~て、つ~ぎ~へ~つ~なぎ~ま~しょ。」

「・・・・・。」

「え・・・・えっと以上です。」

 私は歌を止めてアーサーさんを見た。彼は完全に固まっていた。どうしよう。やっぱり下手だったのか。


「や・・・やっぱり下手でしたよね。ごめんなさい。お聞き苦しいものを。」

「ちょっと待って。」

 アーサーさんが急に立って私の方に近づいたと思ったら、がしっと私の肩を掴む。なんだろう。急に真剣な顔つきになってちょっと怖い。


「今の歌に間違いはない!?」

「え?・・・はい。私が好きでいつも聞かせていただいた歌ですので・・・。本当は2番もあるんですけど・・・。」

「2番!?どんな歌?」

急にアーサーさんが私の肩を揺らす。どうしたんだろう。先ほどの余裕はなく肩を掴む力が強く、ちょっと痛い。


「アーサーさん、痛い・・・です。」

「あ、ごめん。興奮しすぎた。」

 アーサーさんも無我夢中だったのか、慌てて手を放す。私は少し咳をして、申し訳なさそうで彼を見た。


「ごめんなさい。母は1番だけを何回か繰り返してから2番につなげるのですが、私はいつもすぐ寝てしまっていて・・・。思い出せないんです。」

「そっか・・・。」

 彼は明らかにがっかりした様子だった。2番も何度か聞いたはずなのにまるで霧がかかったかのように思い出せない。


「ごめんなさい・・・。」

「いや・・・いいんだ。もしかすると意図して思い出せないようにしているのかもしれない。」

「思い出したら必ずお伝えしますので!!」

「うん。お願い。それにしてもそうか~。こんな爆弾がでてくるか~。」

 アーサーさんは深いため息をついて椅子に座り直した。ん?今の歌に何か変なものでもあっただろうか?私にとってはいつも聞きなれた歌なのだが。


「え・・っと。アーサーさんはわかったんですか?この歌の意味。」

「うん。むしろなんで君が分からないか不思議だよ。まあ歌に意味があると思わないか。いいかい。君はゼクスと戦う前こう呟いた。「No:0、訓練起動。対象No:2、拳、起動。」ってね。つまり歌と紐づけると、君は次の力を引き継いでることになる。剣、拳、魔法、槍、弓、癒しの力、召喚。」

「わ・・・私が!?」

「だって君、拳の技なんて教えてもらった?」

 そう問われて私は力強く首を横に振った。今まで人を殴ったことなどない。いつもやっているのは、剣の素振りだけだ。


「でしょう?ということは君の中には何代も培われた力が眠っていることになる。さっき頭の中で声を聞いたって言ったでしょ。あれ。前に聞いたことない?」

「あ・・・。」

 確か今朝に聞こえた。それで16歳になったことを思い出したんだ。


「いつ聞こえたの?」

「えっと今朝の・・・。」

「今朝?ああそうか。最初に言ってなかったか。あの日から3日経ってるよ。」

「3日!?」

 思わず驚いてアーサーさんを見てしまう。だが彼は大まじめに頷いた。そんなに寝ていたなんて。確かにそれなら傷が全くないのも納得だ。寝ている間に治癒魔法をかけられたのだろう。


「まあ、それはおいておこう。それで?いつ聞いたの?」

「え・・と。あの日が16歳の誕生日で。それを告げる知らせと技能解除すると知らせが・・・。」

「16歳!?」

「え・・・はい。」

「まさか年下とは・・・。」

 アーサーさんが驚いた様子だったが私にとっては全く嬉しくない。ふんだ。どうせ私は年増ですよ。ちょっと拗ねる。


「すみませんね。どうせ私は年増ですよ。」

「いやそんなことないって。俺だって18だけどそんな風に見られたことも一度もないし。」

「18!?」

「ね。見えないでしょ。」

「は・・・はい。」

 てっきり20代前半かと思っていたのでかなり驚いた。口にださないように必死に言葉を飲み込む。


「だからお互いさまってことでこの話は終わり。それにしてもそうか~。君はちょうど能力が解放した時に、その能力を使っちゃったんだ。」

「そ・・・・そうなんですかね?」

「ということで申し訳ないけど残念なお知らせがあります。」

「残念!?」

 やっぱり処刑!?


「いやだからそんなことは・・・しないとは言えないのか。うん。ちょっと真面目モードで行こう。正直君の力は未知数だ。全ての能力がもし本当にあって、それを自由につかえるとかなら君は1人で世界を亡ぼせる。」

「そんな」

 馬鹿なと言おうとしたが、アーサーさんが真剣な表情でこちらを見ていた。思わず口を閉ざして姿勢を正す。


「悪いけど本当だよ。例えば魔法。火をつける程度だったら問題ないよ。でもそれが火の嵐をおこしたり雷を落としたりできたら?召喚だってそうだ。猫とかならいいよ。でも悪魔とか魔獣とかいったら?」

「それは・・・。」

「そう。あくまで可能性の話。でもないとも言えない。だから世界を支配じゃなくて亡ぼすと言ったんだ。支配は1人じゃほぼできないけど、亡ぼすのは1人でできるからね。」

「私に・・・そんな力が・・・。」

 思わず両手を見る。全く分からない。本当にそんな力が私の中に眠っているのだろうか。


「俺にはもうさっきの話を聞かなかったことにはできない。この国の王だからね。だから君には2つの道しか選ばせてあげられない。」

「2つ?」

「うん。1つは軟禁または監禁。何もできないようにさせてもらうしかない。俺としても処刑はしたくないからね。」

「いいいいいいい嫌です!!もう1つの方でお願いします!!」

「うーん。」

アーサーさんが少し恥ずかしそうにしている。なんで?この話の流れで何故そんな態度になるのか?


「アーサーさん?」

「もう1つはさ。俺と結婚かな、」

「は・・・・・?」

 けっこん・・・・?けっこん・・・・?結婚!?何故!?どうしてその流れになる!?


「どうしてそうなるんですか!?」

「いやだって・・・。兵としても君は強大すぎるから自由には出来ないし。そうなると国に取り込んでしまう方が早いんだ。」

「そんな!?」

「申し訳ないんだけどね。だから10傑の中か、俺かで選んでもらうしかない。」

「じゃあ・・・私は・・・普通の暮らしは・・・・。」

「うん・・・。無理だね。申し訳ないけど。君の力は継がれていくようだから、国としては放置できない。下手に他国に行かれてもまずいしね。」

私はがくりと肩を落とした。確かにお城の人を羨ましいとおもったけれど自分がなるとは思っていない!!


「何?俺とは結婚嫌?」

「そんなことは・・・。アーサーさんは嫌じゃないんですか?私なんかと・・・。」

「全然。さっきも言ったけど、理由の1つは君に興味があったからなんだ。それに俺としては素の自分で話せる人は貴重なんだ。大体は怯えられるか金と権力に憧れて迫られるかして嫌気がしていたし。今話していてわかったけど、君はどちらでもないからね。」

「まあ・・・。ですが私に興味とは?やはり力ですか?」

「きっかけはそうだけどね。でも最初に会った印象や、今君と話しているだけでどんどん惹かれていっているよ。」

 アーサーさんは立ち上がり、私の方に近づいたと思うと私の髪をとり口づけをした。


「ぴぅ!!い・・・いったい何を。」

「あはは。可愛いね。なにはともあれ1ヵ月かな。この城で暮らしてみて俺や10傑の皆と話してみて。それでいい人がいたら、その人と婚約してもらう形かな。」

「ちなみにそれって拒否は・・・。」

「できないね。俺も王としての立場があるから。それに俺も君に好かれるように頑張るよ。」

 そう言って彼は優しそうに笑う。さっきの話で彼の顔をまともに見えない。私の顔は真っ赤だろう。


「うん。とりあえず皆と話してくるから大人しくしていて。といっても動けないだろうけど。」

「は・・・はい。」

「じゃあね。」

 そう言ってアーサーさんは出ていった。残された私は呆然とするしかなかった。


 16歳になってから私の人生は大きく変わってしまった。

 そしてこれからアーサーさんの猛アタックを受けることになる。


 それと私をめぐってこの国だけではなく、他の国の陰謀にも巻き込まれていくことになる。



稚拙な文章ですが、読んでいただき本当にありがとうございました!!

連載版にしたいのですが、現在連載中のとどちらを書くか悩み中です。

(好評でしたら、連載にします。)


本作以外にもいくつか作品を投稿しております!!もしよろしければ覗いていただけると幸いです!!

可能であればブックマークや評価をいただければ幸いです!!

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