8話 モパヨーヨとオトシュ
改めて1人になったオレは、そこそこ魔除けの利いた林道を駆けていた。
銀毛の馬の速さに合わせる必要無いから昨日より速いっ。
「林道! 森ん中だぜ? 管理大変じゃんかよっ?」
(集団で暮らしておるし、フェザーフットは花混じりでなくとも素早い。何より)
蔓の鞘に納めてるラシュシュのナガマキが光ると、それに呼応して林道と周囲地面に光る筋が一時、浮かび上がった。
(これは、龍脈を利用しておるのじゃ。合理的じゃの)
「ならまた激マズフルーツあるんじゃねーかっ?」
(今回は廃棄されておらんがコミュニティの中じゃの、ただ現地に件の竜狩りが留まっておる。半分こ、ということになるじゃろう)
「えー? まぁそんな食いたいって感じにもならねーけど・・」
アレはさすがにマズ過ぎたっ。
とにかくオレはこの林道の先にあるらしい、フェザーフットの生活コミュニティまで爆走を続けた。
フェザーフットの生活コミュニティは何つーか、ん~?
森の環境をそのまま居住スペースに取り込んでてわりと原始的な感じもするけど、ブースト商会拠点と直に交易があるから普通に機械の器機を取り扱ったりしてて、文明が進んでんだか戻ってんだか? て感じだった。
住人は子供みたいに小柄。
一応、城門から中に入れてくれたけど、何だコイツ? 感が凄いな。
マフラーはしてないが帽子とマントがそのままなのもマズいか? 帽子は取ってみた。
「え~と、竜狩りいる? あと竜の糧、てのが欲しいんだけどよ」
フェザーフット達はザワつきだした。
「花混じりだ」
「いやあの目っ、コイツも竜狩りだ!」
「ブースト商会から連絡があったぞ?」
「アイツも神蕪を狙ってるのか?」
「竜狩りは食い意地が張ってるっ」
「モパヨーヨの一味?」
(語弊があるようじゃが、大体合っとる気もするの)
大雑把な思念を送ってくるラシュシュ。つーかカミカブ? もう1人、モパヨーヨてのか?
「お探しの竜狩りはこちらです」
白い髭の小さい爺さんがお付きの連中と現れた。長老だろな。
「ラシュシュ、リアルなお前っぽいの来たぞ?」
(どういう意味じゃ! ワシゃ人間に化けたらイケメンじゃぞっ?!)
「へぇ~」
オレが、ラシュシュと小言で話してると、爺さんが咳払いをしてきた。
「こちら、です!」
「お、ああ。行く行く。悪ぃな」
お付き連中にそこそこ不審がられながら、オレは爺さんに付いてった。
そして絶句。
「何だお前ェ! このコミュニティの竜の糧はオイラんだぞっ? あっ、お前、この近くの男爵級竜も狙ってんなっ?! お前ぇええ! 横取り魔人かよーっ??!!!」
何かすんげぇ封印の檻の中で喚く、変な防具着込んだ初めて見たフェザーフットの花混じりの竜狩り。
オレと違って肌の一部が竜だな。
近くの台座に、コイツのらしい大樹虫の武器が刺さって封じられてた。
「横取り魔人・・」
(直に見るのは初めてじゃが、激しいの)
「このコミュニティの出身なのですが、子供の頃からこうなるに至るまで、一貫して手に負えません。このモパヨーヨを引き取り、なおかつ、近くで目覚める気配の男爵級竜を仕止めて下さるのでしたから、コミュニティの秘宝である竜の糧、神蕪を差し上げましょう」
「神蕪はオイラんだなぁーっ! 長老っ、オイラを売る気かぁっ?!」
「・・売る」
「っ?! 嘘だろ??」
絶句するモパヨーヨて名前らしい、チビ竜狩り。
つか、え? オレがコイツ引き取るのか?? 何か、思ってたのとだいぶ違うんだが???
コミュニティ内の社があって、そこはちょっとした雑木林にもなっていた。
長老達は入り口で留まってて、オレと、まさかと思ったが封印効果の首輪と鎖を付けられた、モパヨーヨだけが中に入る。
鎖の端とモパヨーヨの大剣状の武器はオレが持たされてる。
「モパ公、この武器小さくなんねーのか? 運び難いぜ」
「・・半分だ」
「ん?」
「神蕪半分オイラにと食わせろっ。食わせないとめちゃくちゃ暴れてやる!!」
噛み付いてきそうな勢いっ。
「・・・」
(ラシュシュの契約者よ、我の契約者が面目無い。この者の食い意地は契約による物。ある程度は見逃してもらいたい)
「お、剣喋った」
(竜滅器は大樹虫が同化しておるのじゃ。そりゃ喋るわい)
「リュウメツキ? お前らそんな名前だったんかよ」
「半分!」
モパ公が飛び付いてきたっ。
「わーったよ、やるよ。じゃれんなよ、犬っコロかよ」
「犬じゃないやいっ、竜滅器も返せよっ」
「コレも鎖もコミュニティ出るまでダメだ。ややこしくなっから! 後で返す、降りろよっ、オレの身体登んなっ!」
「ガルルッッ」
唸り方が完全に犬っ。つーか、体温高いから熱っ苦しいっっ。
モパ公を引っ剥がし、林の社を進んでく。
すると、
(ふむ、育っておるの)
(人が手入れをしていた物。汝が汝の契約者に先日食させらしき物の2つ分の力)
蕪だ。めちゃデカいヤツ。龍脈の魔力の発光現象が起きてる収束地点にドデカい、うっすら光る蕪が生えてた。
これが、神蕪。
例によって脈打っててちょいキモいが生臭くなく、精油みたいな匂い。
「ま、この間の激マズフルーツよりマシか・・モパ公、まずは掘り起こして」
「いっただきぃ~っっ!!!」
「うおっ?!」
モパ公が蕪に飛び付き、鎖のせいでオレまで引っ張り込まれたっ。
ガシガシ蕪に喰いだすモパヨーヨ!
「おいっ、まだ埋まってんぞっ?」
「速いもん勝ちだっ!」
「コイツぅっっ、オレだって弟の為に強くなんだよっ!!」
オレも負けじと埋まったまんまの蕪に喰い付くっ。土食っても構うもんか!
(オトシュ、契約に問題があるのでは?)
(ラシュシュよ、我はそもそも竜滅器になるつもりはなかったのだが、このモパヨーヨの我の強さに引き込まれ、契約させられたのだ。よって契約内容もモパヨーヨ主導で決められており、我としても不服)
「契約契約って! この食いしん坊チビっ、どんな契約してんだよ?! 絶対、竜に礼とか悪いの倒せとかじゃないだろっ?!」
この蕪、激マズフルーツよりかは食えるが辛苦いっ。泣けてきた。
(契約は3つ。1つ、喰いたいもんを食う。2つ、いつも美味しく食べられる。3つ、悪竜も倒し道理についてオトシュの忠告に従うこと)
「3つ目だけギリギリがんばって付け足された感っっ」
あんま人のこと言えねーけど、どんな状況だよ?
「その2つ目の契約のせいでオイラはいつも腹ペコにされたんだっ」
「え~・・」
それも酷いな。
(空腹に勝るスパイス無し)
(頓知が利いておるのじゃ)
(ふふふ)
(ほっほっほっ)
「笑ってんぞ?」
「オイラ達をコントロールできると思ってんだぞ? アイツら。改めて、オイラはモパヨーヨ! 飯以外は協力してやるっ」
「オレはココロ! 飯はともかくオレは弟が命だっ。そこ忘れんなよ?」
「? ま、いいけど。やっぱ神蕪は6割寄越せっ」
「っ! 渡すかよっ」
オレとモパヨーヨは必死で龍脈の蕪に喰い付いた。