7話 用心棒達
仕事はリーラが手配できる花混じりの用心棒3名と組んで、魔物退治3件だった。
途中までは普通の馬より強い銀毛種の馬で移動することになったが、扱いがよくわかんねーのと、今のオレの竜の臭いが怖がられちまうから俺だけ走ることになった。
行き先は聞いてるのとラシュシュの案内が正確だから、馬3頭を先導する感じで走ってると、
「おいっ、お前マジか?」
今回の用心棒のリーダーやってるジラ。
「どれだけ離れてると思ってんの?」
背高い女のアギーム。
「竜狩り半端無いな・・」
珍しいちょっとノームの血が入ってて丸っこい体型のムラタの3人だ。
呆れられちまってる。まぁ花混じりだから元々脚速いけど、こうなってからは自分でもだいぶデタラメだぜ。
(ココロよ、靴とリュックが壊れるから足先とリュックにまで魔力を通すのじゃ。特にリュックが走りながら壊れて中身をブチ撒けたらカッコ悪いじゃろう?)
「気を付けてるっつーの!」
実はブースト商会の拠点に着く前に、ダッシュでリュック炸裂っ! は1回やらかしてる・・
最初の仕事でちょっとした穴ぐらに来た。
銀毛の馬達は穴ぐらを見下ろせる高台に鉄の杭と縄で繋ぎ、ブースト商会の仕事らしく電気式の魔除けの展開機を起動させた。
馬が空腹になって縄を噛み切って逃げられるくらいは持つ展開機だ。
「ギガースカダック7~8体か。オレが5体殺るぜっ」
「いやマジか? お前ココロ。基本、様子がおかしいな」
「んだよっ」
ジラを牽制しつつ、暗がりでも視界が利くオレ達は穴ぐらの中に入っていった。
ジラの武器はブーストシミターの二刀流。アギームの武器はブーストポールアクス。ムラタの武器はブーストボウガンとダガーだ。バランスはいいな。
「こんな穴ぐらの魔物、わざわざ金払って始末する意味あんのか?」
「ギガースカダックは繁殖期前に飛行しだすし、大食い何だよ」
アギーム、隣に並ぶと身長差があるからデカい乳が真横に来て気圧されんな・・
「ほっとくにしちゃ街道や農園、有用素材の採集地と近過ぎるのさぁ」
ムラタは何か食ってると思ったら、森コオロギの甘露煮だ。
オレとアマヒコが森でいちばん最初の食いもんに困ってた頃に、仕方無く下処理よくわかんないまま食ってアマヒコが中って死に掛けたヤツ!
好んで食うのもいんだな・・
「この奥だ、まずは」
「行っくぜぇーっ!!」
「ちょーいっ?!」
ジラが何か段取り組もうとしたが、ザリガニ野郎を仕止めたオレにそんなの必要無いぜ! オレは突進したっ。
(ココロよ、協調性)
「普通にやったら全員危ないだろっ?」
奥にいやがったのは、牛並みにデカい、クワガタつーか、白蟻つーか、まぁキモい虫が8体だ!
「やんぞっ、ラシュシュっ!」
(穴ぐらを崩落させてはいかんぞ?)
燃えるナガマキを回転させて、威嚇してきたギガースカダックどもに突っ込む!
またまた鋏に食い付かれるわけだが、おっそ! そして柔らかっ。
避け、裏拳で鋏を砕いたりもしながら一息で1体サービスの6体っ、斬り伏せた。ん? 今回、あんま燃えてないな??
(お主以外は酸欠やガスにそう強くあるまい)
「あー」
(賢くない返事じゃのう)
「んだよぉっ!」
ともかく残り2体もジラ達が慣れた連携ですぐに仕止めた。
「よし、ココロ。お前の強さが、ブッ飛んでる、と了解した。こっからそのつもりで立ち回るからな?」
(正解じゃっ、竜戦士じゃからの!)
オレの頭の上にラシュシュが実体化して3人をギョッさせたりしたが、ともかく1件目はクリアだ! しゃっ。
その勢いで2件目、森のウィングパイソンの群れ退治、クリア!
3件目、平原のブッチャーライノ数体の退治、クリア!!
3件サクッとクリア!!! しゃーっっ。
で、日は沈んじまったがブースト商会拠点のリーラ商店まで戻ってきた。
「1日で片付けちまったのかい?」
煙管片手に呆れるリーラ。
「実際、ココロはとんでもなかったぜ? リーラさん」
「まず移動、全部自分で走ってたからね」
「最後は馬の方がバテちまってたよな」
「へっへっへっ」
(感心より、呆れの度合いの方が多いようじゃぞ?)
「いーんだよっ」
急にオレがナガマキにツッコんだから変な空気になっちまったが、
「それより仕事は済んだぜ? アマヒコのコダチはもう直ってんのか?」
「ああ、抜かりはないよ。およそ、並みの花混じりにゃ使えない代物になったがね」
リーラはお付きのドワーフに木箱を持ってこさせ、開けてみせた。
「おーっ!」
かなりゴツくなって魔力も凄いが、紛れもなくアマヒコのブーストコダチだ!!
手に取り、抜いてみる。ラシュシュのナガマキ程じゃないが前と比べ物にならないパワーの魔力刃を展開できるっ。
「まぁやるだけやってみるがいいさ。ただし竜と喧嘩するなら、他の竜狩りとも最低限は連携して方がいい。ちょうどこの地方に1人だけいた竜狩りが、わりと近いフェザーフット族の生活コミュニティに来てるらしい。行ってみるといい」
「わかった」
他の竜狩り、竜戦士・・
「今後、ココロが竜達と抗争するならそれなりに地域に影響も出るだろう。ジラ達はココロに同行するのは無理があるが、別動で様子を伺ってもらうよ? 当面、あんた達はこの件に専念だ。竜狩り力や有り様は、今回で学習できたろう?」
「ええ、まぁ、そうッスけど」
「竜狩り専念かぁ」
「参ったね。ま、野盗や地回り対策に回されるよりマシか」
ジラ達はちょっと捲き込んじまったな。
「今日の所は皆、ゆっくり休みな。薬湯を用意させる」
オレ達は取り敢えず、風呂に行くことになったんだが、
(件の竜狩りは担当の大樹虫を介して何となくは知っておるが、妙なヤツじゃぞ?)
(あーん? 何だそれ?)
オレはアギームと女湯への廊下を歩きながら、ちょっと億劫にさせられた。
妙ってのは気になるな、オレみたいに常識のあるヤツだといいんだが・・
───────
リーラ商店のあるブースト商会拠点から一番フェザーフット族の生活コミュニティは、警戒状態に陥っていた。
理由は2つ、
1、近場で眠る男爵級竜の活性化傾向。
2、それにちょっかいを出そうとした上にコミュニティの食料庫を荒らした竜狩りを捕獲した。
である。
フェザーフットは小柄で身軽、大変素早く、用心深いが時に大胆な、内なる勇気を持つ種族であった。
捕獲された竜狩りも非常に珍しいフェザーフットの花混じりで、このコミュニティには縁があった。
しかし、
「出ぁぁっっせよぉっっ!!! オイラの竜滅器も返せよぉおおおーーーーっっっ!!!!」
厳重に竜狩り封じの術の施された檻に捕らわれている。件の竜狩り。
傍目には奇妙に武装した皮膚の一部に鱗を持つ、花混じりの女児のように見えないでもない。
この小さな竜狩りの、その名の通り竜を殺す、大樹虫と一体化したブーストウェポンは大剣で、檻の側の台座に差されて封印具に絡め取られていた。
「というか、オトシュっ! それくらいの封印解けるだろっ。さっさと、オイラを助けろっっ!」
(・・拒否する。汝は我の再三の忠告を無視して、このコミュニティの食料庫を荒らした。汝には一定の、懲罰、が必要)
オトシュという契約大樹虫は淡々と思念で応える。
「お前が変な契約するからっ、こちとら年中腹ペコ何だよぉおおおーーーーっっっ」
(語弊を指摘する。契約は汝の性質による物。具体例として、主に汝の食い意地)
「何だよぉおーーーーっ。もうっ、竜狩り何て辞めてやらぁああーーーっ!!!!」
檻の中で転がり回って暴れる、小さな竜狩りであった。