6話 ブースト商会
平等シザーは大きく構えを取った。
「やっべっ」
オレが飛び退いたその場の虚空を高速突進してきた平等シザーの鋏が切り裂くっ。
(ココロよ、受けようなどど考えてはいかんぞ?)
「見りゃわかるって!」
オレは駆け回って、隙を伺う!
「およそっ、200年前に目覚めた我は、原始的な営みをする人どもを見て、思った。もう、許そう、と。むしろ、守ってやろうと」
何か語りだしたぞっ? 何回が斬り付けてやったが、軽い斬撃はこのナガマキでも通らねぇっ。甲羅、かったっ。
「この混沌とした終末後の世界! 真の価値とは? 幸いとは? 我は思い、至った」
平等だろ? 平等って言うぞ、コイツ! もう1回、強めに斬り込むが、カウンターの鋏が鬱陶しくて踏み込みきれないっ。
「・・無農薬有機食品しか食べず肥えさせた人間は、美味である、と」
「平等どこいったっ? オッラァアアーーーーーッッッ!!!!」
反射的にムカついて大きく斬り込んじまったが、変則的だったのと思ったよりナガマキに強く魔力が乗って左腕1本落とせた。
すれ違い様に左頬と耳に切り込み入れられたがっ。
「ぬぉおおっ、我の平等な左腕がぁああっっ??!!!」
傷口は燃え上がり、落とした腕は速攻燃え尽きだすっ。
畳み掛けようとしたら、口からブレスリザードが可愛く感じる火球を連発してきて近付けねぇ!
「何だこの滅びの魔力っ? 残りカスの大樹虫と契約しただけで、ありえんっっ」
コイツ、ザリガニ推しやめて竜として攻撃しだすと、この建物どころか、コミュニティが持たねーな。仕掛けるか!
「こっちも色々、手札あんだよ!」
魔力を乗せたアマヒコのブーストコダチを投げ付け、甲羅と甲羅の隙間に食い込ませて怯ませるっ。
「ぐっ?」
それでも撃ってきた甘い狙いになった火球の連打を避けつつ接近しっ、右の鋏の迎撃を捻って躱しながら蔓をヤツの左脚に絡め、縮める勢いで左側面に回り込んだ。
(力を、増す)
ナガマキから爆炎が噴き上がり、オレは回転しながら振り返ったヤツの胸部と頭部を真っ二つにして、中空に跳ね上がったっ。
「「出来損ないと残りカスが、慈悲深い我を滅ぼすとは、不平等で、ある・・」」
2人分みたいに喋りながら、平等シザーは炎に包まれ滅びていった。
回収したアマヒコのブーストコダチは一刺しただけなのに、もうボロボロだった。
「マジかぁ・・ブースト商会行くしかねーか。金、無いけど」
ボヤいてると、
(礼の後、速やかに立ち去るのじゃ)
「ん?」
そりゃそうだが、ザリガニ野郎の棲み処に、恐る恐るって感じでコミュニティの住人達が入り込み、覗き込みだしてた。
「平等シザー様・・」
「何ということをっ」
「このコミュニティが、平等でなくなってしまう!」
「花混じりだったのかっっ」
ヤベェなっ。燃える平等鋏に一礼して、
「コミュニティの魔除け、どうにかしといた方がいいぜ?」
言うだけ言い、蔓を伸ばし、穴空いてるだけの窓に2本の蔓を鉤のように掛けて自分を引っ張り上げる。
そっから近くの物陰のリュックも蔓で回収し平等コミュニティの連中がザワつく中、退散を始めた。
耳と頬は治りだしてたが、わりに合わね!
────────
ブースト商会。
ノーム族やドワーフ族の生き残りやその混血で構成された、人には扱えないブーストウェポンを花混じりに配ってる組織。
本業は武器と医薬品の商人だが、用心棒に花混じりを使ってる。
自分達だけになると人間に潰されるから、強くなるかもしれない花混じりに世界中で粉掛けてる連中だ。
オレはイズモクラから一番近い、ブースト商会の野外拠点に来ていた。
ここだけ、別世界みたいに機械の道具があちこちにある。
拠点内をウロついてるのノーム系やドワーフ系だけじゃなく、花混じりや、普段は中々人前に出てこない亜人種達もいた。
(ほう、ここがブースト商会か。ノームとドワーフ主体だけに、まだ文明の残光があるようじゃの)
「・・・」
帽子を被り、マフラーを巻き、マントも着込んだオレは大人しくしている。左目が変なのが気になる。小声で話すことにした。
「ラシュシュ、今さらだけどよ、今のオレはどういう状態だ? 竜戦士ってのもよくわかんねーし」
(存外マメな上に慎重でもあるんじゃな)
「そこ、どーだっていいだろ? 答えろよ。ブースト商会はヤバいんだよっ」
(ふむ、ココロよ。ワシら大樹虫は竜の力を持つ虫。そのワシと、まぁ事後承諾気味ではあったが、契約したお主は竜の力の一端を持っておる。故に、竜戦士)
大体、ここまでは思った通りだ。
「オレみたいなのは他にもいるのか?」
「世界中におるが、1つの地域に1人か2人程度。いずれも悪竜を狩っておる為、竜狩り等と呼ばれることもある。ブースト商会とも繋がりはあるはずじゃぞ?」
オレは、今は柄を縮めて腰に差してる山刀みたいになってるナガマキを困惑して見た。ラシュシュは今は姿を出してない。
「お前、イズモクラに籠ってたワリには事情通みたいなこと言うな」
(ワシら大樹虫は思念でそれとなく繋がっておる。竜戦士の武器となった者達ともじゃ、それなりの見識じゃぞ? ふふん)
何それ?
「マジか、結構キモいな」
(キモくないわいっ、何でじゃ?!)
これ以上独り言みたいなのを続けると怪しまれそうだから、ラシュシュの文句を聞き流し、目当ての商店に向かった。
リーラ商店。素っ気ない店構えだが、オレとアマヒコにブーストランスとコダチを与えて、森で暮らすよう促した店主の店だ。
「ココロ、姉弟で強くなるようには言ったが、竜狩りになれとまで言ってない。用心棒の範囲ではないね」
顔に傷痕のあるノームの中年女が店主のリーラだ。煙管で煙草を吸ってる。
(致し方ないのじゃ、店主)
ナガマキが光って、リーラがふんぞり返ってる椅子の前の机に透けたラシュシュが姿を表した。
お付きのドワーフや花混じり達が反応したが、リーラが片手を上げて控えさせた。
「この子は竜狩りになった。こんなのも憑いてるさ」
冷静に考えると色々おかしくはなってんだな、て・・それでも! コダチを出した。
「アマヒコが上位竜に拐われた。取り返すには力が必要何だ。取り敢えず、このブーストコダチを直して、いや3倍くらい! 強化してくれっ。金は無いから仕事はする。エロいのじゃなくて、戦うヤツなっ!」
(悪竜が減ればお主らも仕事し易くなるのじゃ、力を貸すがよいぞ?)
リーラは煙と一緒に溜め息をついた。
「上位竜ね・・。言っておいてやるが、形は違えど、こんなことよくあることだ。弟はハズレを引いて姉だけどうにか残った。珍しくない。ココロ、お前ももうすぐ大人になれるんじゃないか? そう厳しい契約をした風でもない。竜達はゆっくりと滅びていってる。竜狩りの中にはお前より強い恨みと怒りで破れかぶれで竜と戦ってる者も少なくない。お前は子孫を繋げばいい。遠い未来、お前の血筋が、竜のいない時代を生きれば」
「また洞窟で暮らせって話かよっ! その件、もう済んだんだよっっ。オレはっ、アマヒコをっ、諦めてない!!」
リーラはオレを見てから引き出しを開けて、装飾された手鏡を差し出した。
「ミスリル製の鏡だ、早々割れない。時に自分の面を見な。コダチの修理と強化、代金分の仕事の斡旋、やってやろう」
「・・・」
(礼じゃ、礼! こやつは竜ではないが礼なのじゃ)
オレは口の先が尖ってちまったが鏡を受け取りリーラは傷んだコダチを受け取った。
「仕事が決まったら呼んでくれ、屋根の上にいる」
「猫か」
オレは一礼して、リーラ商店から出ていった。オレが離れたからラシュシュは机から消えて、オレの頭の上に現れた。
オレは言った通り煙突に蔓を掛けて跳び、屋根に乗って、ミスリル鏡で自分の顔を見る。
左目は竜の目、だな。
(ブラコンな上にマザコンとは、さてはお主、甘ったれじゃな?)
「うっせ!」
マジ、うるせえわっ!